手紙

先崎 咲

赤い手紙

-1- 隣人

 アパートの隣人のポストが溢れているところを見つけたのは先週の土曜日だった。それが少しだけ気にかかって、どことなく耳を立てて週末は過ごした。

 生活音らしい音は感じなかった。古いアパートの壁は薄く、床は軋むから気にしていれば生活音なんて聞こえてきそうなものなのに。


 月曜日、相変わらず隣人のポストはいっぱいでさらに謎は深まった。通勤ついでのゴミ出しで、大家さんに会った。気にかかっていた隣人のことを聞いた。


 聞いた話によると、隣人は失踪したらしい。いわくつきの山で遭難しただとか。親族は弟が一人らしく、その人が失踪の件も伝えたらしい。

 私は、大家にポストの件を伝えたあと、いつものように出勤した。


 ぐらぐらと上司に叱られる日々。職場に向かう電車では、駅に一つ停まる度、頭がツキンと痛んでいく。


 こんな会社辞めてやる。そんなことを考えてもう何年か。

 一向に貯まらないお金が、退職という決断を鈍らせる。


 いつものようにコンビニで夕食を買って帰る。部屋の前の廊下に手紙が落ちていた。

 ──赤い、手紙。


 隣人のポストは溢れていなかった。大家さんが回収時に落としていったのだろうか。

 なんとなくいたたまれなくて、それを隣人のポストに入れた。


 宛名は、無かった。

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