第2話 僕が死神になった日

僕は目を覚ました。

真っ暗な天井と鉄と何かが腐ったような匂いがした。

それは決していい香りではない。

しかし、不思議だ。

「何故僕は生きているのだろうか。確かに僕は自分の胸を包丁で刺したはずだ」

そう思いながら、僕は状態を起こした。

いつもより体が軽く感じる。

僕は不思議に思いながら後ろを振り返った。

僕は驚いた。

もう一人の僕が死んでいたからだ。

この状況を見て混乱する奴なんかいない。

「どういうことだ」

僕は呆然と立ち尽くしていた。

「おっ!ようやく起きたぁ?おっは〜。」

背後からいきなり誰かに声をかけられた。

びっくりして僕は後ろを振り返る。

「そんなにびっくりしなくてもよくない?まぁ、驚かせてすみませんでした〜」

そこには金髪一つ結び、まつ毛が異常なほどに長い派手なメイク、どっかの制服に黒いローブを纏った女の子がダイニングテーブルの上に座っていた。

「誰ですか?」

僕は少し身構えた。

「誰ですかって、失礼な言い方。まぁ、いいわ。」

金髪の彼女はそう言いながらも丁寧に自己紹介を始めた。

「改めて、初めまして。私の名前は凛(りん)!137歳!私はラ・モールです」

凛は胸を張りながら、鼻高々に自己紹介を終えた。

「ラ・モールってなんですか?」

僕は聞いたことのない言葉に頭を傾げていた。

「一番最初に聞くのそこかよ!もっと137歳にしちゃ若いとかあるやろ!てか、ラ・モールを知らないの!?」

凛はよほどびっくりしたのか、目玉が飛び出そうな程目を開いていた。

「ラ・モールはフランス語、日本語では死神だよ!」

僕はその説明を聞いて唖然とした。

「じゃあ、今僕は死神と話しているっていうこと?」

凛は今度こそはと言わんばかりに胸を張って、鼻高々に言った。

「そうよ。私は上位階級の死神なの。うちと話せているのは超ラッキーなことなの。光栄に思いなさい!」

上位階級だかなんだかは知らないが、僕はずっと疑問に思っていることがあった。

凛に聞けばわかると思い尋ねてみることにした。

「凛。あのさ、少しわからないことがあるんだけど・・・」

「何?お姉さんがなんでも答えてあげるよ〜?」

凛は見下すように僕の顔を覗き込んだ。

僕はウザがりながら凛の顔を押し返し、話を続ける。

「僕は前に死んだはずだ。そして、今ここには僕が二人いる。死んでいる僕と、君と話している僕。これは一体どうゆうこと?」

凛は少しガッカリした顔で、不貞腐れながら話し始めた。

「あんたはつまらん男やのう。わかったわ。暇つぶしに説明してあげよう!」

すると、凛は死体の僕を指さした。

「そこに死んでいるアンタが慎の本体で、今、うちと喋っているのは、本体と分離した魂。つまり、アンタは死んでいる。そして、アンタは死神になった。以上」

「うん、全くわからないな。じゃぁ、なんで、僕が殺した母さんとおばあちゃんは死んでいるんだ?」

彼女は面倒くさそうな顔をしながら質問に答えた。

「アンタのお母さんとおばあちゃんの魂はあるべきところに送ったよ。いわゆる、天国みたいなところだ。そんで、アンタは人を殺したろ。しかも、そのことで後悔もしている。だから、アンタの魂はここに残った。っというより、私が地獄におくれなかった」

凛は僕にそう説明した。

しかし、僕には到底理解できずにいた。

凛はそんな僕を見て呆れながら、もう一度、一から説明してくれた。

説明が終わる頃には凛はかなり疲れ果てていた。

凛が言うには、死神になるには、条件があるらしく、その条件が揃わなければ天国か地獄に送られるらしい。

条件とは、

一つ目、人を殺したことがある

二つ目、殺したことを後悔している

三つ目、殺した本人が自殺している

四つ目、現世にやり残したことがある。または未練がある。

五つ目、死神としての素質がある。

これら五つが死神になるための条件らしい。

「これでわかったか。このポンコツめ」

凛は息を切らしながら僕に言ってきた。

「そんなに疲れること?」

「うるさぁい!私はもう歳だぞ!」

凛は僕を睨みつけてくる。

「年増だな」

「なぁんだと!生意気な若造め」

凛が僕に飛び蹴りしてきた。

しかし、僕は空気のように年増の飛び蹴りを交わす。

僕は、もう少し話を聞きたかったが凛の疲労がかいま見えたため今回はやめることにした。

「そんで、これからアンタは死神として生きて行くのか、地獄に行くのか選ばなきゃいけない」

凛は家の浄水器から勝手に水を自分の水筒に補充した。

「その二つ以外の選択はないんですか?」

「ないな」

凛は鼻糞を穿りながら僕の質問に答える。

僕は少しめんどくさいと思った。

「でも、もし死神になるのを選ばなかったら、地獄行きは確定だ。やり残したこともできなくなる。それでほんとにいいのかい?」

確かに、地獄に行って拷問や苦痛を感じる生活は想像するだけでも悍ましい。

だけど、僕にはやり残したことがなんなのか全くわからない。

そういえば記憶が色々曖昧になっている。

僕は死んでしまった拍子に何か重要なことを本体に置いてきてしまったのだろうか。

僕がそうこう考えているうちに凛が紙を渡してきた。

「何これ?」

「これは同意書。これから僕は死神としてこの世界を生きていきますっていう。サインして、この安全ピンで自分の親指を刺して。血はハンコがわりだから」

僕は凛が言う通りに、サインと血のハンコを押した。

「じゃぁ、これからよろしくね。新米死神さん」

凛はそういうと口笛を吹いた。

「何をしたの?」

「死神専用の乗り物を読んだんだよ」

凛は僕を見てニコリと笑いかけながら僕に言った。

遠くから聞こえるパトカーの音。

外がなんだか騒がしくなってきた。

僕は凛の方を見た。


そして、それは僕の頭に残っている凛の1番最初の記憶。

今思えば、僕は、この時から凛のことが気になっていたのかもしれない。

僕は死神になって百年。

そして、凛はもうここにはいない。

彼女は僕を連れて行く前に言った言葉。

僕は決して忘れない。

僕が死神として生まれ落ちた日。

彼女が僕を連れて行った日。







「ようこそ! 死神の世界へ。」













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死 神 煮干しの悩み @niboshi_nayami08

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