第22話 ざまぁ?
初心者狩りの男が持っている剣を真っ二つにした。男の手元には刃がわずかに残った剣のグリップが握られ、折れた刃は足元へと転がっている。
「ひっ……! お、俺がいくつもの依頼をこなしてようやく買った剣が一瞬で……」
そう言って一歩後退する男。格好からしておそらくは剣士。剣士が剣を失うということは、攻撃するという選択肢を失ったに等しい。
もっとも、優秀な冒険者ならそれを想定して体術や魔法など、別の手段を会得していてもおかしくはないが、この慌てようを見る限りそんなことはなさそうだ。
「この野郎……! 俺がどれだけ苦労してこの剣を買ったと思ってやがる!」
「そんなこと知るか。剣を買うだけならFランク冒険者でもできるじゃないか」
「この剣はな、Fランク風情が気軽に買えるようなものじゃねえんだよ!」
「何言ってんだ、お前もFランクなんだろう? さっき自分で言ってたじゃないか」
「俺はDランクだ! Fランクなんて雑魚と一緒にするんじゃねえ!」
「だったら嘘をついていたということだな?」
「そうだ! だから何だってんだ!」
「同じFランクだから剣の稽古をしようって、最初から相手を傷付けるつもりで声をかけていたわけだ」
「傷付けるつもりなんてねえ。ただ相手が弱すぎるのがいけねえんだ!」
「DランクとFランクの勝負なんて勝敗は明らかじゃないか。お前は格下の相手を打ち負かすことで自分のプライドを守りたいだけだ」
「それのどこが駄目だというんだ? 俺は一人でDランクまで上り詰めたんだ!」
一番上はSランクだから全然上り詰めてないけどな!
「だったらこんなところに来てないで、地道に依頼をこなしていけばいいじゃないか」
「うるせえ! Dランクが初心者ダンジョンに来てはいけないという決まりはねえ! 大体オッサンだってFランクじゃねえだろ。Fランクがそんなバカでかい斧を扱えるわけあるかよ」
「そうだ、俺はFランクじゃない。お前のような奴を粛正するために来た。いい加減に認めたらどうだ? お前はただFランク冒険者を襲ってウサ晴らしをしたいだけだ。それは立派な犯罪だぞ」
俺がそう言うと男は少しの間だけ黙り込んだ。そして開き直ったかのように大声で話し始めた。
「ああそうだ! せっかくDランクになったってのに全然うまくいかなくなった! モンスターは強いしダンジョンは複雑になるし、依頼は失敗続きになるし、ロクなことがねえ」
「それで自分の力の限界を感じたというわけだな? だからって他の人を傷付けていい理由には全くならんだろう」
「そんなこと知るか! どうするオッサン、証拠も無しに俺を犯罪者として国家騎士団に突き出すのか? ただのオッサンにそんなことする権利は無いよなあ?」
証拠か。一応後ろにいるFランク冒険者の証言はあるけど、物的証拠となると無いよな、普通は。でも今このやり取りは、エリンのダンジョンマスターのスキルで録画されているんだ。
「もう一度だけ聞くが、このダンジョンで起きた傷害事件は全てお前がしたことで間違いないか?」
「だからそうだっつってんだろ!」
よし、自供ゲット。どうやら異世界には防犯カメラ的な物が無いらしいから、まさか録画されているなんて夢にも思うまい。
異世界において傷害罪というものは思いのほか重罪になるそうだ。特に冒険者の場合だとより罪が重くなるんだとか。日本でも重罪だけど。
そりゃそうだろう、高ランク冒険者が本気を出せば街の一つや二つ壊滅させられるんじゃないか? そう考えると冒険者ってヤバい人達なんじゃ……? そうか、だからこそ冒険者にだけ適用される特例があるのかもしれない。意外と考えられている。
あとはこいつを逃がさないようにするだけだな。
「知ってるか? お前がこのダンジョンの公開初日に襲った四人パーティー、全員が病院送りになったそうだ」
「ほう、それは運が良かったな。ま、ここじゃ『殺しても死なない』から、いっそ死んでリセットされた方が良かったのかもな!」
うわー……、こいつ最低だ。マジで上司を思い出すからやめろ。胃がキリキリする前に、こいつと話すのはもう終わりにしよう。
コントローラーを握る手に力が入る。とはいえ男は丸腰だ。さすがにこんなデカい斧を使うのはまずい。
「君、ちょっと離れててもらえないか」
「えっ、あ……は、はい!」
後ろにいる冒険者を避難させた後、俺は斧を持ち直して、持ち手の端の部分を男の腹めがけて思いっきり前に突き出した。キャラメイキングの時にステータスを爆上げしておいたから、パワーはハンパないはずだ。
「ゴボハァッ……!」
極太の鉄の棒を思いっきり腹に当てられた男は、半ば白目をむいて後ろへと倒れ込んだ。
打撃を与える攻撃。刀でいう、みねうちのような感じ。なんでこんな使いどころの無さそうなアクションがあるんだろうか?
あとはアナスタシアさんが来るまで拘束すればいいけど、何かいいものはないか?
「エリン、ロープみたいなアイテムってあったりしない?」
「ごめんなさいマスター、私のアイテムボックスにはありません……」
こういう時エリンは本当に申し訳なさそうな表情をするから、罪悪感がハンパない。
「いやいや全然気にしなくていいから!」
それにしても困ったな。何か拘束できるものは。拘束……ロープ……縛る……。
(縛るものあるかも)
「エリン、モンスター一覧を表示してくれないか」
「はい、マスター」
「これってカテゴリー別にもできたりする?」
「できますよ、どのカテゴリーにしますか?」
「ヘビ系のモンスター一覧を出してくれ」
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