理想の私を目指して!

@kuma06830

プロローグ

第1話

 いきなりだが、私?には前世の記憶がある。前世の記憶?そんなものは、何を言われても荒唐無稽な話しにしか聞こえないだろう。


 だが、事実なのだ。信じてもらえるかはわからないが前世の話を少し話してみようと思う。


 私の前世は、どこにでもいる男子高校生だった。特に優れた特技もなく、勉強ができたわけでもない。


 平凡そのものであったと言えるだろう。唯一の取り柄といえば、人よりも運動ができた程度だったことだろうか?そのぐらいしか思いつくことがない。


 改めて考えてみると悲しくなってくる。惰性的日常を過ごしていた私だったが、アニメや異世界転生系の小説などが好きだったりして、もし異世界に転生して魔法が使えたらなんて考える少し痛い子だった。


 ちなみに、転生しているというからには一度死んでいるということだが、僕の死は呆気ないものだった。


 それは、新型流行ウイルスによるものである。ある日、僕はひどい筋肉痛で体を動かすことを憂鬱に感じると同時に、軟口蓋喉の上の部分の痛みを強く感じると同時に、たべものや水などを飲み込むと痛みを感じるようになった。


 それで僕は病院に行くことになったのだが、かかりつけの病院では、診てもらうことはできず、県指定の病院まで行く必要があった。僕は初めて行くその病院で問診票を書いていた。


 ちょうどその時、僕は倒れたのだ。そこからは早かった。人工心肺云々の話をしているのが聞こえた気がしたが、意識が朧げで覚えていない。多分僕はそれから意識が戻ることなく、死んだのだろう。


 さて、私の前世の話はこのぐらいにしておこう。今世の私は、女の子のようで前世の記憶を思い出してからというもの性転換したということを受け入れたくない気持ちが強かった。


 今まであったものがなくなったのは、悲しかった…。いや、なんというかショックのあまりしばらく何も考えられなくなった。あまりに、大きなショックを受けたら人間とは思考放棄してしまうものらしい。


 だが、しばらく後にお風呂で鏡を見て私は女の子に転生したのも良かったのでは?と思ってしまうのだった。


 それは、鏡に映る私があまりにも僕の好みの顔をしていたからである。


 それから、「これが私?」と鈴を転がすような可愛らしい声が聞こえる。


 「あれ?誰?」と問うてみるが返答はない。実は、この可愛い声の持ち主が私だったのだ。


 前世の好きを集めて煮込んだようなこの体に転生できたことは、奇跡であると言えるだろう。


 後にこれが、異世界転生ものによくある神様に貰った特典なんだと思うほどである。


 この時の私は6歳だったのだが、凄く可愛いかったのだ。


 ここで私は、気がついてしまった。


 私が、前世の僕の理想の私ヒロインを演じればいいのだと!女の子に生まれ変わったのはショックだったが、僕の理想を詰め込んだ容姿をしているので時間が経つうちに嬉しいという気持ちの方が強くなっていった。


 因みに、私が記憶を取戻したのは6歳の誕生日からしばらく経った後であった。


 この世界は、元の世界の僕が住んでいた日本と変わらず、基本的な歴史の流れや偉人にあまり違いはない。


 だが、100年ほど前に全世界におけるダンジョンの出現と身体能力の向上、そして魔法の発現など世界が大きく変わる事件があったようだ。


 この日は、日本においてはXデーとよばれ、海外では「the day of doom, doomsday」と呼ばれている。


 この事件では、世界各地にダンジョンが急に出現し、そこから後にモンスターあるいは魔物と呼ばれる種族が溢れ出てきた。


 魔物は、人間を殺すことを目的としているようであり、ダンジョンから溢れた魔物は近くにいた多くの人間を襲った。


 この事件における被害者は、日本においてわかっているだけで、死者100万人以上とされており、行方不明者を含め500万人以上といわれている。


 なぜこれほどの被害が出たかというと、日本各地で大きな地震が発生し、それと同時にダンジョンが出現し、大量の魔物が溢れ出したこと、地震により多くの都市部において大規模な火災が起きたこと、この緊急事態にうまく対処できなかったことなどが挙げられる。


 政府としても、あまりに急であったこと、日本各地で起きたことで情報が錯綜し、指揮系統が完全に麻痺していた。


 そもそもが、今日ほど通信技術が発展していたわけではなかったので、情報収集に手間取ったことも理由の一つだと思われる。


 これらのことから被害が甚大となったのだと考えられる。


 世界各国において同じような状況であったが、この事件において最も大きい変化といえば、世界的に国民が男女問わず選挙権を認められた点と魔法の普及にある。


 この騒動を抑えるのは常備の軍隊だけでは難しく、事態の収集ために、長期的かつ、国民の全面的な協力を必要にしたから選挙権が大きく変化したのである。


 そのため、この世界では一度の世界大戦は起こっているが、二度目は起こってはいないものの、憲法は硬性憲法一般の法律と比べて改正が難しい憲法となっていたり、法治国家という精神が受け入れられていたりする。


 それは、国民がせっかく手に入れた自分たちの権利を守るために、世界的に受け入れられた考え方であり、日本においても多くの人々の意識に影響を与えていた。


 要するに、日本において前世では外圧によって行われたことが、国民の声の力が強まったことで内部から変わったということである。


 そして、多くの市民がまともな訓練もなしに戦えたのは、神様からの信託のおかげらしい。


 ダンジョンの出現と同時に、神様から魔法の使い方や、ダンジョンに関する知識を人類に授けられたのだ。


 いきなり神様からお告げがあっても信じる人が少ないのではと思う人もいるかもしれないが、そもそも日本以外の国では信仰心に厚い人が多いこと、そして100年前の人は今日よりも信心深い人ばかりであることは言うまでもない。


 そのようなこともあり、魔法などはすぐに受け入れられていったのである。


 外国がすぐに受け入れていったのを見ていた日本も政府の働きにより魔法はすぐに日常的なものになった。


 さらに、後に知られることになるのだが、魔物を倒すと経験値のようなものが手に入るようで、経験を積み上げるとゲームでいうレベルアップができる。


 もちろん可視化出来るものではないので、初めはなんとなく体感調子が良いなと思われていただけだったのが、どんどん良くなっていくこと、それを体感する人があまりにも多かったことから判明したらしい。


 加えて、魔物に対しては現代兵器よりも魔法や魔力が付与された刀剣などの方がダメージを与えやすいらしい。


 それは、ゲーム感覚で例えるなら銃などの現代兵器で与えられるダメージは固定であり、数値にズレはないが固定値以上のダメージを与えられないからである。


 一方で刀剣などはレベルが上がったり、魔力を乗せたりすることで威力が上がるのでレベルが上がった人が増えてからというもの現代兵器は使われることが少なくなったようだ。


 対人戦より、対魔物戦を世界的に優先したこと、またこの未曾有の事態の収拾のため世界的な協力が必要であったことも一因として挙げられる。


 そのようなこともあって、今では銃よりも剣や魔法を補助する武器が一般的に普及している。


 この騒動当時に、対魔物戦において必要とされるスペックを持った銃などの現代兵器がなかったこともあるのかもしれないが、今では、魔法が付与された武器や、魔法の補助をする装備の開発が盛んに行われている。


 大体転生前と同じと言ったが、他にも大きく違うところもある。


 それは魔物を倒したら出る、魔石という石は倒した魔物の強さに比例した魔力を含んでおり、現代においてはかかせないものになっているようであることだ。


 特に私が住む国では、エネルギー確保において魔石に依存している形になっているようだった。


 というのも、石油などのエネルギー資源を海外からの輸入に頼りきっていたので魔物が溢れてからというもの、その輸送がままならなくなり、魔石に代替されたのである。


 また、その影響か現在の多くの日常製品において魔石は多く使われているようで、魔石が余るということはないらしい。


 これが今のところ、私が知っているこの世界のことである。


 それから、今世の私の名前は、上泉楓花かみいずみふうかである。なお、家族構成は父に母そして、私である。


 父の名前は上泉邦光かみいずみくにつ、母の名は上泉鈴かみいずみすずというらしい。


 私はどちらかというと母親似であるが、両親どちらにも似ていないというのが正しいだろう。


 なお、お母さんは一子の母とは思えないほど綺麗だと思う。


 私は両親のことを、お父さん、お母さんと呼んでいる。


 お父さんは剣術の道場を開いているようで、ダンジョンが出現してからというもの、剣術などの武道の需要が高まり、道場が一時的に増えたりもしたらしいが、私の家は代々続く剣術の名家であるらしい。


 それは、記憶が戻るまで私には全く興味がなかったからであり、話半分にしか聞いていなかったからである。


 記憶が戻ってから、「お父さんが剣を振ってるところみてみたいな」と私が言うとお父さんが「ふーちゃんも、剣に興味が出てきたのかな?嬉しいな。今から生徒に剣を教えるから、ふーちゃんも一緒に、道場に行こう」と言い、いきなり道場に連れて行かれたのは良い思い出だ。


 どうでも良いかもしれないが、両親は私のことをふーちゃんと呼ぶ。


 前世の記憶がある私にとってそれは恥ずかしく感じてしまうのだが、響きが可愛いので今のところはよしとしている。

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