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「そういえば、先週近隣住民から苦情があったそうですね。また八神来夏やがみらいか絡みですよ。あの方の非行は何とかならないものなのでしょうか」


すると、突然浮かない顔つきになると、深い溜息と共に束になった書類を私の前に差し出した。


「そうですか。けど何と言ってもあの八神グループのご子息ですからね。それに成績優秀者なので誰も文句は言えないのでしょう」


この報告は既に日常化されており、私も小さく肩を落とすと、苦情内容がびっしりと書かれた書類に目を通し始める。


「それが納得いかないんですよ!単位すれすれなのに毎度定期テストは五位以内ですし、スポーツにしても何してもそつなくこなすし、九条会長と匹敵するぐらいのワイルド系イケメンですし。一体彼は何なんでしょうか?天は二物以上のものを与えるのでしょうか?もはや類を見ない歴史的天才なのでしょうか!?」


「渚ちゃん。それはただの褒め言葉になってますね」


その隣では不満を漏らしているようだけど、ただ彼をリスペクトしているにしか聞こえない為、一先ず冷静に突っ込んでみた。


「今回は喧嘩ですか……。暴力行為は我が校の印象を大きく低下させるので困りましたね」


とりあえず、一通り報告書を読み終えると、想像以上に酷い内容だった為、私も思わず深い溜息が漏れる。


「まったく。八神の人間がそこら辺の不良と変わらないなんて信じられませんね。今までどういう教育をされていたのやら」



確かに、それは校内でも囁かれる程謎めいた話だ。


私と同じ二年生の八神君はアジア最大手の自動車メーカーである八神グループの御曹司。


名家が集うこの学園の中でもかなりの上流階級なのに、不登校、暴力沙汰、お酒・煙草問題。


はたまた裏ではヤクザと繋がっているのではないかと噂されるくらい粗暴な人だ。


以前風紀の乱れとして彼に何度か注意したことがあったけど、全く聞く耳持たずな上に、最後は凄まれてしまい、あの時は本当に泣きそうになるくらい怖かった。


聞いた話だと家業はお兄さんが継ぐそうなので、八神君は自由奔放に育てられているみたいだけど、幾ら何でも自由過ぎる。


例え後継対象から外れてるとしても、大企業の息子とあれば世間体もあるのに、何故家の者が何も干渉してこないのか。


学校も立場上強くは言えないので、放任され続けた結果、八神君はただの不良少年となってしまった。

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