第15話【神の経験値】

ティアとの交渉が始まる前、ルークは自室でひとり、静かに思いをめぐらせていた。


交渉の重要性は十分に理解していたが、その前に少しだけ時間があった。彼は落ち着いた環境の中で、無意識に深く息を吐いた。夜の静けさが自室に広がり、窓の外で微かに揺れるカーテンの音さえ、ルークの耳には鮮明に響いていた。


この短い隙間時間を利用して、ルークはふと考えた。「今のうちに、改めて自分の状況を確認しておこう……」そう呟くと、自然に目を閉じ、心の中で「ステータス」と念じた。


すると、見慣れたゲームのようなウィンドウが瞬時に表示された。何度も確認してきた画面だが、だが今回は何か違っている。ルークはその変化にすぐさま気づき、眉をひそめた。画面の右上に、これまで存在しなかった新しいタブが追加されていたのだ。


「……神の経験値 ミッション?」


彼は戸惑いながら、その新しいタブに指を向けて軽く触れた。指先に柔らかな感覚が伝わり、タブが開くと、目の前にいくつかのリストが現れた。それは、彼がこれまで知らなかった新たな任務、いや、試練が示されていた。


力:底上げミッション

内容:魔物「スライム」を10匹倒すことで、味方全体の力を上げる。


魔法力:底上げミッション

内容:魔物「ウェアウルフ」を10匹倒すことで、味方全体の魔法力を上げる。


防御力:底上げミッション

内容:魔物「一角ウサギ」を10匹倒すことで、味方全体の防御力が強化される。


魔防力:底上げミッション

内容:魔物「特攻虫」を10匹倒すことで、味方全体の魔法防御が向上する。


ゴブリンとの争い解決ミッション

内容:味方が持っているスキルを変更できる。


世界平和ミッション

内容:この世界を平和にすることで、元の世界へ帰還するためのゲートが開かれる。


「これが……ミッションか……」


ルークはその内容をじっくりと読み、言葉にできない驚きを覚えた。魔物を倒すことで、自分だけでなく、味方全員のステータスが向上する。


「味方全員を強化できる……これは大きいな……」


その一言に、ルークの中には緊張と期待が交錯こうしゃくした。戦況が厳しい中で、これは味方の戦力を一気に底上げする絶好のチャンスだ。


しかし、それ以上に気になるのは「ゴブリンとの争い解決ミッション」と「世界平和ミッション」だった。


「スキルを……変更できるってことか?」


ルークはその文言に特に注意を払った。どの程度までスキルを改変できるのか、それによってどんな影響があるのか、今はまだ未知数だった。


だが、もしスキルの変更が可能なら、それは仲間の戦闘能力に大きな影響を与え、戦略にも多大な利点をもたらすだろう。


そして最も重要な「世界平和ミッション」。それは、この世界を平和にすることで、元の世界に帰還するためのゲートが開かれるというものだった。


「元の世界に戻れる……」


その言葉が、ルークの胸に強く響いた。彼はこの世界に突然やって来たが、前の世界の記憶は鮮明に残っている。家族や友人、そしてそこで過ごした時間が、今でも彼の心の中に確かに存在している。


そして、「帰れる」という選択肢が示されたことで、胸の奥から込み上げるような喜びが彼を包んだ。帰るべき場所が確かにあり、そこに戻れる希望が浮かび上がった瞬間だった。


「まずは、目の前の問題を解決しなければな……」


ルークは自分に言い聞かせるように拳を握りしめた。世界平和を目指すのは遠い目標だが、まずは現状のゴブリンとの戦争を終わらせなければならない。


仲間の力を底上げし、彼らの力を最大限に引き出し、戦況を好転させる必要がある。


彼は一度深呼吸し、ステータスウィンドウを閉じた。ティアとの交渉や、今後の戦闘準備が迫っているが、まずはこの新たなミッションとどう向き合うべきかを考えなければならない。それが、今後の運命を大きく左右するだろう。


「さぁ……まずはやれることから始めよう。」


ルークは立ち上がり、窓の外に目をやった。夜の風が静かに彼の顔を撫で、彼の決意を新たにするかのように吹き込んでくる。この人間と魔王の戦争を終わらせる――それが、今の彼にされた使命だった。

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