第3話 【知らぬ幼馴染】

 直樹なおきは、ぼんやりとした意識の中で自分の状況を整理しようとしていた。全身に広がるにぶい痛みが彼の思考をにぶらせ、ただその場に座り込んでいるだけだった。


 薄暗い小屋の中、木の壁が周囲を囲み、外の夜の静けさとは対照的に、彼の心は混乱のうずの中にあった。


「ルーク、大丈夫?」


 ふいに耳に飛び込んできた優しい声。反射的に顔を上げると、そこには角の生えた小柄な女性が心配そうにこちらを見つめていた。


 彼女の大きな目は真剣で、彼女の顔には見覚えがない。「ルーク」と呼ばれた瞬間、直樹は自分の中に違和感が広がるのを感じた。


 自分は直樹なおきだ。なぜルークと呼ばれているのか、まるで夢の中にいるような錯覚さっかくおちいった。


「…君は……誰だ?」


 かすれた声が喉から漏れた。全身が痛みで動かすのも辛いが、それ以上に、目の前の女性が自分を知っているかのように振る舞うことが恐ろしく思えた。


 彼女の大きな手が、自分の肩に優しく添えられる。


「ルーク、あなた…大丈夫?何も覚えていないの?」


 彼女の声には心配の色が濃かった。直樹なおきにとって彼女は完全に見知らぬ存在だったが、彼女の表情には真剣さが漂っており、その優しい目が、自分の混乱を解こうとしているかのようだった。


「ごめん…何も…覚えてない。君のことも…どうして自分がここにいるのかもわからない……。」


 彼の言葉は重く響いた。混乱の中で、自分がどうしてここにいるのか、どうして自分がルークと呼ばれているのか理解できない。


 薄暗い小屋の中で、周囲の空気は重苦しく、彼の心の中の混乱がそのまま空気に反映されているかのようだった。


「ルーク、あなたは私たちオーガ族のかしらなの!さっきの戦いで傷を負ったから、ここで療養しているの。無理に起き上がらなくても大丈夫よ。」


 彼女の言葉は自分の心に不思議な感覚をもたらした。オーガ族のかしら?そんな立場の自分が、戦って傷を負ったというのか? 頭をかすめる不安と疑念が、彼の心を一層いっそうかき乱す。


「俺は…オーガなのか……」


 自分の身体に変化が起きていることを理解する一方で、彼の心はその現実を受け入れられないでいた。


 一体何が起こったのか、なぜここにいるのか、その問いは彼の頭を埋め尽くす。混乱の中、ただただ自分の存在を見失わないように必死だった。

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