幼馴染が小悪魔過ぎて困っています

なおぞー

第1話 再会は突然に

 桐山湊、十六歳。


 これと言って秀でたものもない、どこにでもいる新高校二年生。新たな学年を迎える今日も、今までと変わらず色のない学園生活を迎えようとしていた。


 そんな中、朝のホームルーム。


「みんなおはよう。全員揃ってるな。」


 担任の経常的な出席確認で一日がスタートする。


「今日は始めに転校生を紹介する。入ってくれ」


 担任の突然の発表にクラスがざわつき始める。そんな中、扉が開き転校生が姿を現す。


 金髪ショートボブに、端正な顔立ち。身長はそこまで高く無いがスレンダー。端的にまとめるなら美少女が颯爽と教室内へ入ってくる。


 姿が見えると同時に、クラス中がざわつきから歓声へと変わっていった。(特に男性生徒だが……)


「静かにしろー!」


 担任の静止もあり、徐々に歓声が収まり始め、美少女の挨拶が始まる。


「初めまして。七瀬楓です。アメリカから約十年ぶりにこちらへ戻ってきました。これから二年間よろしくお願いします!」


 自己紹介を終えると、またクラス中に歓声が響き渡る。聞き覚えのある名前だなぁと思いながらも、他人事のように窓の外を見ながら想いに耽っていると、


「桐山!悪いが、七瀬の席を準備するのを忘れたから、準備室から持ってきてやれ」


 担任からのキラーパスに内心、『始めから準備しとけよ』と思いつつも指示に従う俺。


 指示をこなすべく、準備室に向かい机を運び教室に戻ると、七瀬の周りには人だかりができていた。美少女が転校してきたのだから、浮き足立つのも無理はない。所定の位置に机をセットし、人だかりを避けるように教室を後にしようとした時、彼女が声をかけてくる。


「机運んでくれてありがとね!みーくん!」


 彼女の発した言葉に俺だけでなく、クラス中が静寂に包まれる。静寂の中、彼女はさらに畳み掛けてくる。


「久しぶりだね!みーくん!私の事覚えてる?」


 俺のことを『みーくん』と呼ぶのは、知る限りあいつしかいない。


「もしかして、楓ちゃんなの?」


「すぐ気づいて欲しかったなぁ……」


「ごめん、苗字変わってし、雰囲気も変わってたからまさか楓ちゃんとは思わなかったよ。」


「どう?私可愛くなったかな?」


「うん……」


 楓との久々の会話で赤面させながら、タジタジになり、ふと我に帰り周りを見渡すと、意外な出来事にか戸惑いや羨望、睥睨、様々な目を向ける生徒たちがざわついていた。


 重苦しい雰囲気を察した俺は、彼女に対して、


「まぁ、とにかくよろしくね」


と、ありきたりな一言だけ残し、そそくさと逃げるように教室を後にした。



 転校初日ということもあり、ホームルーム以降は、常に楓の周りに人が集まり、注目の的であった。

 俺は、その輪に入ることはなく存在感をなるべく消して生活していた。(ただし、男子生徒からは今まで感じたことのない程見られてる?いや、睨まれてるように感じる一日であった……)




 帰り道、いつも通り一人で家に向かい歩いていた時、背後から薄ら声が聞こえる。


「みーくん!」


 数時間前に聞いたフレーズ。楓に違いない。


「おう……。どうしたんだ?」


「どうしたんだじゃないよ!一緒に帰ろうと思ったのに、帰りのホームルーム終わったらすぐに出て行っちゃうし!」


「部活もやってないし、いつも終わったらすぐ帰るんだよ」


「いつもはそうかもしれないけど、幼馴染が数年ぶりに戻ってきたんだから一緒に帰るのが責務ってものでしょ!」


 楓は、頬を膨らませ赤くしながら少し怒っている様子だった。


「ごめん。ほら、転校初日だったしさクラスメイトと帰ったりするのかなーと思ったわけで」


「そんな言い訳聞きたく無いなー!それに、今日一日ほとんど喋ってくれなかったよね!」


「それは……俺ほとんど友達いないし、こんなやつと喋ってたりしたら迷惑かなと思って……」


 すると横を歩いていた楓は、正面に移動して悲しげな表情を浮かべながら俺の目を見つめ問いかける。


「わたし悲しいな……みーくんに会えたのすごく嬉しかったのに」


「えっ……」


 楓の意外な感情に戸惑いを隠せない俺。さらに楓は、顔を近づけ耳元で俺に囁いてくる。


「みーくんはわたしにとって特別な人なんだから」


 その言葉を聞いた瞬間、楓との距離の近さや香りなど様々な伝達情報が入り混じり、俺は思考停止状態に陥ってしまった。寸秒の間、赤面させながらあたふたしていると、楓がクスリと笑い出した。


「みーくん!ドキドキした?」


 楓の一言で、少し重苦しい空気が一変する。どうやら、俺を揶揄っていたようだ。


「してないよ……」


 なんとか否定しようと抗ったみたが……結果、か細い声しか出ず、ただ狼狽えそっぽを向くしか無い情けない男でしかなかった。なお、揶揄った当の本人はご満悦の様子である。


 

「でも、そっけない態度を取られたのは本当に怒ってるだからね!」


「ごめん……」


「罰として、明日から朝一緒に登校すること!分かった?」


「仰せのままに……」


 完全に主導権を握られた俺は、幼馴染からの罰(周りの生徒からしたらご褒美かもしれない)を断れるわけもなく、明日以降、慌ただしい朝になることが決定したのである。


「じゃあ、とりあえず帰ろっか!」


「おう」


 肌寒く感じる夕暮れ時、俺は激動の一日に思いを馳せながら、彼女と帰路に着くのであった……

 



 


 



 



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