第20話 Reminiscence
王命により婚約者になったセシルは、とても感情豊かで表情がコロコロと変わる
そして、凄く周りの人間に気遣いのできる女性だ
故に、すっかり領地の者とも王都で働く我が家の者とも溶け込んでいる
実は彼女は覚えていないようだが幼い頃彼女にあっている
俺が10歳の頃…… 祖父の厳しい教育というかあれは虐待といえるものだったかもしれない
すっかり感情を失ってしまった俺は、イワン様達に保護され一時期イワン様の領地に身を寄せていた
ある日「よし! ユリウス旅にでよう」と各地をイワン様と旅にでた
イワン様に剣術を学んでいたフレンも
「俺も行きたい!」とごねるので3人での旅となった
フレン・サマーズ 俺はこいつが苦手だ
ミッシェル・サマーズ医局庁長官の長男
サマーズ医局庁長官は、長男を…家族を溺愛している
優しく賢い父親、美しく温和な母親可愛い妹
理想の家族だ
そのせいもあるのか、もともとコイツが人の気持ちに寄り添う事ができないのか
人の触れてほしくない部分にまでずんずんと土足で踏み入れてしまう
両親の話や祖父の話までズケズケと聞いてくる
本当は、イワン様とふたりで馬で旅するはずが馬車に変更になってしまった
今までなにも沸き上がらなかった感情だったのに
この時初めて「苛立ち」という感情が湧き上がった
しかし、やはり表情には出なかったせいかフレンは、俺が苛立っていることもわかっていなかったようだ
見知らぬ土地 見知らぬ人達 食べた事のない食事
なにもかもが新鮮だった
今までモノクロだった世界が少しずつ本当に少しずつ色がついてきたような感覚になってきた
「ここは、凄い田舎だな…… 師匠こんな所に宿屋なんてあるんですか?」
「まあ、心配するなフレン…
この森を抜けると人里に出るだろうしどうにかなるさ」
人里にはでたものの店というものが本当に少ない
とりあえず、食堂が1軒みつかりそこに入って昼食をとり店の人に宿屋を聞いてみたがない
「滅多にこないけど旅の人がきたら大体領主様の家に泊まっているよ」
と食堂のおばさんに教えてもらいゴールドウィン伯爵の邸へと向かった
「イワン様は、ゴールドウィン伯爵にお会いした事はないのですか?」
「実は何度かあったはずなんだが・・・・記憶にないんだ
印象にないというのか・・・ とにかく不思議な男だ」
食堂から10分ほどのところにゴールドウィン伯爵の家があった
小麦畑の中に城ではなくぽつんと宿屋のような伯爵家があった
「ここが伯爵家? ただのボロ宿屋じゃないのか?」
フレン……相変わらず失礼な奴だ
確かにボロいし、とてもじゃないが伯爵家の邸には見えない
「突然すまない旅の途中で宿屋を探していたのだが見つからなくて
今晩一晩こちらで泊らさせてもらえないか?」
「勿論でございます
ガブリエル閣下にお泊まり頂けるなんて光栄でございます
一日と言わずお急ぎでなければどうぞごゆっくりいらしてください」
ゴールドウィン伯爵夫婦は、ニコニコ笑いながら突然の訪問者を歓迎してくれた
「我が領地には宿屋がないので我が家を宿屋代わりにしてもらっているんですよ」
「そうなのか……中には良からぬ者もいるのではないのか?」
「そうですね…… まあ、大体がそういう方々はお話し合いで収まってくださいますから」と伯爵はやはりニコニコ笑っている
それぞれが部屋に案内された
宿屋でも、他の領主の邸でも大体子供だからとフレンと同じ部屋にされる事が多いというか一人ずつ部屋を案内されたのは初めてだった
一瞬戸惑って部屋の入口で立ち止まっていると
「おひとりは、お嫌ですか?」
「いえ……伯爵夫人…… 子供なのによろしいのでしょうか?」
「子供だからこそですよ
ゆっくり休んでくださいね」
「ありがとうございます」
「そうそう、我が家の子供達に言い聞かせ事があります
「なのに」「でも」「だって」は言ってはいけませんよと ご自分のことを〇〇なのに……なんて思ってはいけませんよ」
と伯爵夫人は優しく微笑んだ
祖父とは全く逆の事をこの人は言うのだな
「お前なんて呪われた子供なのに……」
と何かと言われ続けた俺は彼女の言葉が逆に衝撃的だったのだ
しかし、この伯爵でこれからもっと衝撃的な出来事を経験するとはこの時俺は、想像もしていなかった
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