第74話 鎮魂歌(レクイエム)

 慎重に扉を開き階段を降りていく

 ガタガタという音はずっと止まずに鳴り響いてる

「まだ下だな」

 船底あたりに南京錠のかかった部屋を見つけた

 この部屋から音が響いている 

 南京錠は簡単に開けることができ、扉を開けると中には20人位の船員が縛られ狭い部屋に押し込められていた

 1人の紐を解くと2人3人とお互いに紐を解き始めた。


「これはどういうことなんですか?」


「我々は、ジェレミー公国の商船なのですが航海中に、救難信号を出したボートを見つけて船に近ずいたところ5人の男が船に乗船してきた途端に遅いかかってきたんです」


「5人? 10人くらいは、いただろう」


「…… 実はあれは我々の仲間だったんです」


「仲間? 」


「そうです、一度殺されてあんな姿に……」言葉にならず船員達が啜り泣く


「ゾンビって訳か

 じゃあ最初の5人はあの中にいたのか?」


「いえ?1人だけ指示を出していたものだけは4人を残して先に船を降りました」


「そうか…… ではここにいる人たちは皆さん無事だったということで間違いないですか?

 何かされていませんか?」


「大丈夫です、毎日2・3人ずつここから出されてみんな帰ってこなかった 

 ここに残っていたものは、みんな次は自分の番ではないかと怯えていただけで何もできと後悔の言葉を口にしながらまたすすり泣く


 あまりにも、酷いやり方だ

 怒りがふつふつと湧きおさまらない

 しかし平静をたもたなければならないのだ


「わかりました

 でも今は彼らの為にも前を向きましょう

 ジェレミー公国に一緒に帰りましょう

 私の船が先導します 

 この船は皆さんで動かしてください」


 すでに、公国で政務に携わっているユリアス先輩に手紙を書く


「ブルー、すまないがこれを至急ジェレミー公国にいるユリアスに届けてくれ」


「まかせろ」風を纏いブルーが、空を駆ける


「ホクトは、ジェレミーの船に残ってくれ

 何かあれば俺にテレパシー送ってくれ」

 こうして、船はジェレミー公国を目指して動きだした

 甲板に出ると風は頬をくすぐる

 彼等の船から鎮魂歌レクイエムが聞こえてきた


 ◇◇◇◇◇◇◇


 今日も穏やかな日だ

 机の上の婚約者のミルフィーの絵姿を、時折眺めながら政務を行う

 そんな穏やかを突き破るようにやけに外がうるさい


「どうした、何を騒いでいる」と政務室の窓をあけると大きな犬が飛び込んできた


「うわああ!」と後ろに転んでしまった

 転んだ私のお腹のうえに犬は、手紙をおいてわたしを一瞥し、また窓から飛び去っていった


「犬が、空を飛ぶのか」思わずそう呟きながら置いて行った手紙を手に取る


「リル」差し出し人は、アカデミー時代の後輩からだった

 彼からの手紙の内容は到底信じられない内容だった


 あわてて、秘書官に馬の準備と数名の騎士達を同行させるよう指示をだしセントジェレミーの港へと向かう

 港に到着すると既に大騒ぎになっていた。

 港に停留しているジーザメリウス領の商船の前に、見知らぬ金髪の男が立っていた


 私に、気がつくと男は、大股で近づいてきた


「初めまして、ユリアス・ジェレミー様でしょうか

 私はアル・ディッパー と申します

 ジーザメリウス領で ビックディッパー商会をしております」


「初めまして、私は、ユリアス・ジェレミーだ。リル・ジーザメリウスから君の事と今回のことは、連絡をもらった、我が領民を助けて頂いたと聞いた。ありがとう、感謝するよ」


「いえ、大した事では、ないので…… それより、犠牲になった船員達の家族と、今回残された船員達もかなり心にも傷を負っているので手厚い対応をおねがいしたい」


 アルという男は、金色の髪にエメラルドグリーンの瞳の美しい男だ。商人らしく物腰のやわらかい話し方をする。


「君もよろしければ、しばらくの間私の城に滞在していかないか?」


「お気持ちは嬉しいですが、先を急いでいますので、お気持ちだけ頂戴いたします

 それと蛇の紋章のようなものを何処かでみられたことは、無かったでしょうか?」


「蛇の紋章」ユリアスは、記憶をたどるように暫く考え込みゆっくり口を開いた


「何処かで見た記憶がある

 気味が悪くてとても印象的だったんだ」


「思い出せないでしょうか?

 もし思い出されましたら申し訳ございませんが、リル様にご連絡いただけないでしょうか

 今回亡くなられた方々皆さん「蛇の紋章」を刻まれていたのです」

 

 アルの話は、更に衝撃だった

 その後アルと別れても頭の中は、「蛇の紋章」でいっぱいだった

 どこだ、いつどこでみたんだったか

 その後、記憶を少しずつ辿るうちに、自分の出した答えが私を絶望の淵へと落とし込んだのだった








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