第72話 金木犀
「なあ、リルまた明日から長く出かけるのか」
学園の職員エリアの家に最近入り浸りのヨハンがソファで寝転びながら俺に聞く
「ああ、まあな、帰ってくるのは、研究素材が見つかり次第だな」
「魔獣のウヨウヨいる山に魔石の研究に行くって御苦労なことだな」
「いや、もう慣れた」本当はズメイルインペリアル帝国に潜入してくるのだけどヨハンにはまだ全て話せていない
「ヨハン、お前こそリリアーヌ皇女と婚約して王配教育が始まってるんだろ
こんな所にいていいのかよ」
「まだ俺達学生だからさ、いいんだよ」
そう言いながらパフっとクッションに顔をうずめた
「ふーっ…… 何かあったのか?皇女と喧嘩でもしたのか」
「いや…… またお前がゆっくりしてる時にでも話すよ
大したことじゃないしな」
「それならいいけど、無理すんなよ」
「ああ……」
と話しながらお茶を入れていると、家の扉をノックする音がする
扉を開けると大きな鉢を抱えたハイネがララと一緒に立っていた
「リル様、こんにちは
いただいた金木犀が育ちましたのでお庭に植えさせていただこうと、もってまいりました」
「いただくって服についていた金木犀の花びらを君が見つけてそのまま、あげただけなんだけど、でもあんな花びらでこんな立派に育つものなのかい?」
そう言いながら、ハイネの抱えている鉢を受け取った
するとハイネが耳元でこっそり
「実はコーンに手伝ってもらったんです」と囁く
やっぱり、コーンの仕業か
「やあ、ハイネ、ララいらっしゃい どうぞ入って」
「ヨハン様、ご自分のお家のようですね」
ララが、笑いながらヨハンを茶化す
「まあね」
と俺の肩を抱きながらヨハンがウインクする
ハイネが、ブルーたちと庭で金木犀を植えている間に俺はお茶の用意をする
「ララ、パウンドケーキ焼いたんだが食べるかい?」
「え?リル様お菓子も焼かれるんですか?」
「ああ、気分転換にね」
「それで、リルお前たちはいつ婚約するんだ?」
「え?ヨハン、何言ってるんだ?誰とするんだ?」
リルはキョトンとした顔でヨハンに聞く
「何言ってるんだ、ハイネ嬢だよ!」
「お前こそ何言ってるんだ
ハイネ嬢は友人だ、友人!婚約なんて誰とも考えたことないよ」
リルが、そういうと、ヨハンとララはあきれ顔になってしまった
「どうかしましたか?
金木犀のお話ですか?秋には可愛い花が咲きそうですよ
秋に香るのが楽しみですね」
とハイネが笑顔で庭からリビングに入ってきた
「いいや、別に
それより手を洗っておいで お茶が入ったしパウンドケーキもあるよ」
「ありがとうございます」
洗面所に行こうとするハイネの腕を掴みリルがハイネの頬についた土を拭う
「顔にもついていたぞ」
そう言いながら自分の手も洗いに一緒に洗面所に行った
「ねえ、ヨハン様あれでも付き合っていない!友人だ!って言えるもんなんですかね」
「まあな、ララちゃんそれがリルって奴なのかもしれないな」
「無自覚もいい加減にしてほしいですね、私なんか腹立ってきました」
「まあまあ、ララちゃん許してあげて、
ハイネちゃんも案外、今の距離感が心地良さそうだしさ
意外と婚約とかなったら色々大変なのかもよ」
「え〜!!そうなんですか、そんなものなのかな」
「さあ、俺もよくわかんないけどね」
とヨハンが少しため息をついた。
「なんだ、わからないんじゃないですか」
と、ララが屈託なく笑う。
そうしてお茶を飲んでみんな帰る時間になった
帰り際、ハイネが袋を渡してきた
「前にお借りしたローブずっとお返しできなくて」
「あ、図書館の…… 俺もずっと研究で学園にいなかったし、逆にすまなかった」
「それでローブのポケットに時計が入っていました」
「え?俺の懐中時計、ローブの中に?」
あれ?ローブのポケットも見たつもりだったんだが……
「では、リル様また明日から魔獣の山に行かれるとお聞きしました
くれぐれもお気をつけて」
「ありがとう、あとこれをまたコーンと食べてくれ」
とパウンドケーキを渡した
「ありがとうございます、ではおやすなさい」と扉を閉めた
閉めたのを確認して呼びかけた
「シファーいるか?」 シファーが姿を現す
「明日から帝国に行く
学園を留守にするが、ハイネのこともだが、アレクのことを調べながらでいいからヨハンのことも気にして置いてくれないか」
「ヨハン様ですか?」
「ああ、どうも様子がおかしい
俺の思い過ごしでなければいいが」
「かしこまりました」
「それと明日はティコに会ってくる
何かことづけるものはないか」
「ありがとうございます。よろしくお伝えくださいませ」
「わかった、早く昔のように3人で街に出て飯でも食いたいな」
「そうですね、その時はぜひご一緒させてください」
「ああ、もちろんだ・・・・シファーいつもありがとう」
「リル様…… リル様もお気をつけて行ってきてくださいませ」
「ありがとう」そういうとシファーはまた姿を消した……
庭の扉を開けると風が少し冷たく感じた
17歳の夏がもう終わりを迎える
「秋が楽しみだな」
夜の帷が降りていく中、月の光に照らされる金木犀を見つめながらつぶやいた。
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