第29話 図書館騒動


 剣術大会の前に定期試験がある。


「リル!リル!試験勉強一緒にしようぜ!」


 ヨハンはもう何事もなかったように振る舞っている


「別に、図書館行かなくても俺は自分の部屋で、するけど」


「そう言わず、頼む図書館で一緒にしてくれ〜頼む」


「わかったよ、わからないところあるんだな」


「ああ、図書館ならすぐ調べられるし、お前に教えてもらえるから一石二鳥だろ」


「いいよ、どこでも」


「サンキュー! リル スペーリィもマシロ達と一緒にお前の部屋で留守番させてもらっていい?」


「スペーリィがいいならいいよ」というわけで3頭と1羽はお留守番。


 それで……それから半時後、どうしてこうなった………

 確かに俺は、ヨハンと2人で勉強していたんだ


 気がついたらヨハンの左側にリリアーヌ皇女が座っていてヨハンの右側にキャロラインが座ってその横にアレクが座っている


 ヨハンがすごく、気まずそうな顔になってる

 最近、リリアーヌ皇女は気がつくとヨハンの側にいる

 Sクラスで何かあったのかなと思いつつ、まあいずれにしてもヨハンには悪いけど、俺にとってはありがたいことだ


 アレクは俺とヨハンを交互に睨みつけてくる

 嫌なら隣座るなよと言わんばかりに睨み返したけどね


 まわりを無視しヨハンと勉強を続けていると俺の後ろから声がした


「パティ! 探していたよここにいたんだね」


 声の主は、ユーゴス・ジェラミー ジェラミー公国の第2王子、パトリシアの取り巻きのひとりだ


「パティ、みんなあちらにいるよ

 一緒に勉強しようよ」

 と取り巻き連中の方に行こうとパトリシアに手を差し出す


「あら、ごめんなさい、私 今ヨハン達と勉強しているの」


 はあ??? 思わず俺とヨハンは固まった

 名前呼びを、いきなりされたヨハンは珍しく怒っているようだ

 うんわかるよ……ヨハン ムカつくよね


 でもヨハン以上に怒ったのがなんとリリアーヌ皇女だった


「あなた、いつも思っていたのですけど失礼じゃなくって勝手にきていきなり横に座ってヨハン様のお名前を呼び捨てなんて!! 」


 なんだろう…… 皇女すごくもっともなこと言ってるんだけど…… 説得力ゼロだよ


「何よ、あなたの方が失礼よ!あなたのせいでいつも魔法の授業中ヨハンが困ってるの知らないの!!」


 え〜!!ヨハン俺の知らないところで、苦労してんだな。思わず同情しながらヨハンの顔を見つめた


「とにかく、図書館の中で騒いだら他の人に迷惑だから俺とリルはもう出ていくよ」


 よし!ヨハン!グッジョブ!そう思いながら広げていたテキストを片付けようとしたら、パトリシアが「行かないで! 」とヨハンの腕を掴んだ


 ええええ〜〜!!


 それを見て、アレクとユーゴスが怒り出した

 なに?これ?俺たちまだ15歳だよな

 図書館に勉強しにきただけでなんでこんなことになってるんだ?みんな勉強しようよ〜


「お前達、図書館で何やってるんだ、みんな外にでろ! 」


 3年生のユリアス・ジェラミー先輩だった

 ユリアス先輩はジェラミー公国の第1王子ユーゴスの母親違いの兄だ

 俺たちとはよく剣術の稽古でご一緒してくれる信頼できる先輩の一人だ

 外に出て、ユリアス先輩にこれまでの経緯を話をする。先輩は大きな溜息をひとつついた


「リルとヨハンは間違いなく巻き込まれただけじゃないか! ユーゴスお前もいい加減にしろよ! お前婚約者もいるのに態度を改めろ! 目を覚ませ! 」


「兄上の方こそ、ミルフィーに騙されてるんですよ

 あの女、自分の兄を使ってパティを誘惑してるんだ」


「お前!!」

 ヨハンが拳をあげそうになるより先に、ユリウス先輩がユーゴスの頬を殴った


「ユーゴスこれは私闘ではない

 兄としての教育的指導だ!お前!ヨハンとミルフィー嬢に謝れ!!」


 ミルフィー嬢ってヨハンの同じ年の妹だよな

 でもここにはいないけど……

 と思ったら背の高い細身だが体格の良いユリアス先輩の後ろから金色の長い巻き毛に薄いピンク色の瞳に白い肌のメガネをかけた小柄な女の子がオドオドしながらいた


「おとなしすぎて気が付かなかった」

 思わず声にしてしまった


「ほら! また兄様の後ろで隠れている!兄様がミルフィーを婚約者にすればいいんです」

 そう言い捨てて、ユーゴスは走り去ってしまった


 アレクとパトシリアはいつの間にか消えていた


「ヨハン、ミルフィー嬢

 弟が失礼をしてしまいすまない

 ヨハン、ミルフィー嬢とは先程、偶然図書館で一緒になったんだ

 誤解しないでくれ 寮も私とミルフィー嬢が同じだからどうもユーゴスは、俺たちの事を誤解しているようだ

 リルも悪い事したな、すまなかった」

 と深々とお詫びをし去っていった


 ふむ、ユリアス先輩はとてもミルフィー嬢を大切にしているように感じたけどな

 でも、これは言葉に出して言ってはいけないな。


「ヨハン兄様、私のせいで申し訳ございません」


「いや、ミルフィーは何も悪くないよ、それに君が1番傷ついたろ? 大丈夫か? 」


「ありがとうございます、ヨハン兄様」


「このままだとヨハンもミルフィー嬢が心配だろう、寮に連れて行くわけにはいかないし、よかったらもう一度図書館で勉強仕切り直ししないか? 」


「いいのか? リル」


「ああ、勿論! ミルフィー嬢ご挨拶が遅れました。リル・ジーザメリウスでございます、兄上にはいつもお世話になっております。」


「ジーザメリウス様、ミルフィー・カリオスでございます。いつも兄がお世話になっております」

 と美しいカーテシーで挨拶をしてくれた

 ヨハン、妹ちゃん凄くいいこじゃないか

 本当にユーゴスなんかよりユリアス先輩の方がお似合いだぜ


 ふと見ると、図書館の入り口でリリアーヌ皇女が待っていた

 ヨハンが、フッと笑って

「皇女様、よろしければご一緒に勉強しませんか」

 と声をかけた

 ヨハンと皇女の後ろを俺とミルフィー嬢が歩き図書館に入っていった

 既にユリアス先輩が図書館司書に先程の顛末とお詫びをしてくださっていたので司書や周りの生徒に嫌な顔されることなくその後は問題なく試験勉強は進んだ

 しかし、もう図書館での試験勉強は懲り懲りだ

 自分の部屋が1番! つくづくそう感じた

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