第27話 緋色の向こう側
この世界には、前世と同じように季節や時間が存在する
春、夏、秋、冬 地域によっては長さの違いがある
学園のある地域は春と秋が長く夏と冬が短い
学園生活を送るには最適な場所だ
ちなみにジーザメリウス領は縦にも横にも広く長いので北側の魔獣の住む山地と南側にある母上の実家グレイアム領では季節の長さがかなり違うらしい
グレイアム領は温暖で年中過ごしやすいと母上から聞いた
時間の読み方が前世と違うのでこの世界に来て最初はよく戸惑った
1日は16刻 1刻は90分 半時は45分 時間を間違えて、約束した時間をよく間違えた
最近はもう慣れたけどね
入学してから3ヶ月、秋も深まってきた
剣術の稽古を終えて、演習場から寮に戻る道も落ち葉が、緋色の絨毯のようになっている
「う〜ん、いいね、まるでレッドカーペット」
マシロたちは、落ち葉のカサカサする音が楽しいのか落ち葉に戯れながら歩いている
急にホクトが俺の後ろに隠れた
道の途中でケット・シーを連れた自称聖女パトリシアが珍しく一人で立っていた
通り過ぎようとすると彼女から声をかけてきた
「ねえ、リル様どうして通り過ぎるんですか? 」
はあ?なんだこいつ……
「ジャクシー嬢、君はジャクシー家に戻りもう一度礼儀作法から学び直してきたまえ!それと、私は君に名前を呼ぶことを許した覚えはないぞ!二度と名前で呼ばないでくれたまえ!」
「だって、私は聖女なんだから! 死にかけた人を救ったこともあるのよ!」
それは……落馬したアレクを助けたことや、取り巻き連中の怪我を治したこと言ってんのか?
大したお花畑ちゃんだな…… 思わずため息が漏れた‘
「そう、そういうところが素敵だから貴方と仲良くなりたいから待っていたのに……」
「申し訳ないが、迷惑だ
二度とこういうことはやめてくれ!」
と腹立ち紛れにとった俺の態度が後々騒動の種になることなんてこれっぽっちも思わずその場を立ち去った
「そうか……リルったらツンデレなのね
ツンデレコースか攻略しがいがあるわ
リルなんてキャラ、本編にいなかったからモブだと思ったら隠れキャラかも……
じゃあやっぱり先にヨハン攻略しなきゃ!リルルート攻略できないわ!
でも、まだ卒業まで時間たっぷりあるから計画立て直そうっと!」
と訳のわからないことを呟きながらパトリシアは自分の寮へと戻って行った
「クシュン」
食堂に入るとヨハンが大きなくしゃみをしていた
「なんだ? 風邪か?気をつけろよ」
「ああ、なんだか悪寒がして…」
「風邪は、ひきはじめに薬飲んでおけよ」
「う……なんだか風邪でもないような…… でも気をつける」
そんな話をしていたらセシルがやってきた
「リル様、さっきシンファさんがきてこれリル様に渡してくださいって預かりました
ご挨拶したかったけど時間ないから申し訳ございませんっておっしゃっていました」
と、手紙とオレンジケーキを手渡してきた
「シンファさん、会いたかったな、もう帰った?」
「まだ中央カウンターに向かう途中かも…」
「じゃあ、間に合うかな?」
「シンファさんって?」
「うちのティコさんって騎士の双子の妹さん」
がたんと立ち上がり追いかけた
秋風が吹き緋色の絨毯が舞い上がり、落ち葉が夕焼けに輝きながら緋色のレースのカーテンのようになった向こう側に、長い金色の髪が揺れる後ろ姿が見えた、もうカウンター棟に入るところだった
「シンファさーん!」
シンファさんが振り返り
「リル様〜!兄と今日ジーザメリウス領を、出発するので失礼しますね〜! くれぐれもお身体大切にしてくださいね」
と手を振りぺこりとお辞儀してカウンター棟に入っていった。
「…… ねえ…… あの女の人って瞳の色何色?」
ヨハンが震えながら聞いてきた。
「え? ああ、薄いピンク色だよ、ティコもね」
そういうと立ちすくんでいたヨハンが急に走り出した
緋色の落ち葉が風で舞うカーテンをかき分けるように懸命に、走るが、もうシンファさんの姿はなかった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます