第26話 セシルのある一日
まだ、一番鶏も泣く前から僕の一日は、はじまる。
僕は、セシル・ガード
グードリーヴァアカデミー職員達が暮らすエリアの一角で職員責任者のジルおじさんとキャッシーおばさんと一緒に住む家がある
僕の実家は、ズメイルインペリアル帝国とポールステンシャル王国の境にあるズメイルインペリアル帝国の小さな男爵領、3年前、帝国が協定をやぶりポールステンシャル王国に攻め入った時僕の領地が戦場と化した
父は、反ズマイルカルプスだったため、ズマイルカルプスが兵を挙げる事を聞かされていなかった
あの日は、忘れもしない僕の6歳の誕生日だった
父母と屋敷のみんなに誕生日のお祝いをしてもらい眠りにつこうとした時……
夜のとばりが降りる頃突然それは起こったポールステンシャル王国領に攻め入ったズマイルカルプス軍だったがすぐさま追いやられ、国境沿いにあるガード領が戦場となってしまった
父と母は、着の身着のまま領民達を避難させる事で精一杯だった
負けを確信したズマイルカルプスは、僕の領地に残ったポールステンシャル軍を壊滅する為、ガード領地と僕の邸に火を放ち、逃げ帰っていった
父と母は、その時 僕を避難庫に押し込め、自分達は「領民達をまだ避難させないといけない」
と火の海の領地に赴き、帰らぬ人になった
真っ黒に焼け落ちた屋敷 焼け野原になった領地にひとり佇んでいた時にジーザメリウス領の騎士ティコに声をかけられた
「坊や、大丈夫か? ひとりか? 」
そう優しく声をかけられたが、父と母を奪い領地を焼け野原にしたズマイルカルプスと王国がただ、ただ憎くて大声で泣き叫びながらティコを殴り続けた
ティコは、「そうか、辛かったな 気の済むまで殴るといいよ」とティコの仲間の騎士が止めにはいるまで黙って僕に殴られていた
結局、ズマイルカルプスは、和解を王国に持ち掛け焼け野原になったガード領と僅かな和解金を、王国に差し出したがポールステンシャル王国国王は、和解金を
「もうこれ以上、ズメイルインペリアルの名を汚すな!」
と投げつけ突き返した
ガード領は領地復興のため、ポールステンシャル王国の監督管轄地となり、国王は、保護された僕に僕の後見人になるから王宮で暮らすようにと申し出てくれたが
「ありがとうございます。でも、僕強くなりたいんです。僕は、男爵家の息子なので王宮に住むなんて身分不相応でございます。これからの自分の為に働きながら勉強したいんです、でも、領民の為に、領地の復興は、お願いしてもよろしいでしょうか」と断った
国王は、少し考えてから
「よし、わかった、でも私が君の後見人であることは変わりないからな。君の希望通りの場所を用意しよう
しかし、今すぐは、ダメだ。せめて、3年は、働かず子供としての時間を大切にして欲しい」と言ってくれた
でもその時間の中でもう父母とは一緒に過ごすことはできないんだ
我慢しても涙が溢れて止まらなかった
グードリーヴァアカデミーの学園長がその日のうちに迎えに来てくれ、3年間は、職員エリアの責任者夫婦の家で暮らし、子供らしく過ごすこと
3年後は、午前中一刻(1時間半)午後一刻働き、その他の時間は、勉強し、学園に試験が受けられる年になれば学園に入学することと僕のために準備をしてくれた
職員エリアから学園の本館までは大きな広場を突き切るように平坦な道がある
朝食を食べて家を慌てて飛び出て行こうとすると
「セシル、またそんなに、慌てて食べて!よく噛んで食べないと大きくならないのよ!」
とキャッシーおばさんに朝から叱られた
「ごめんね 次から気をつけます
今日も、リル様たちと早朝練習一緒にするって約束してるんだ! 行ってきま〜す」
「気をつけて行ってらっしゃい、怪我しないようにね」
とキャッシーおばさんは、笑顔で見送ってくれた
ジルおじさんはポールステンシャル王国の侯爵家の三男だ
爵位は自分の功績で授与されたのだが
「領地経営まで手が回らない」と領地の授与を拒否したらしい
子供のいないジルおじさんとキャッシーおばさんは僕を本当の子供のように可愛がってくれている
ここに初めてきた時は、侯爵様、夫人と呼んでいたが
「なんだよ〜、セシル寂しいじゃないか〜 ジルおじさん、キャッシーおばさんとよんでくれよー」
と言ってくれたのでジルおじさん、キャッシーおばさんと呼ぶようになった
「さっ!今日の朝練はこれでおしまい
セシル勉強わからない所あったらいつでも俺の部屋においで」
とリル様が優しく声をかけてくれる
「ありがとうございます」
ぺこりと挨拶したら急に礼をした頭にポコンと何かを置いた
「ん? 」
と掴むと、マシロのぬいぐるみだ!可愛い!マシロ大好き!
「頑張ってるセシルにプレゼント」
とリル様が笑顔でそう言う
なんだか照れ臭くなりつい
「嬉しいですけど、僕子供じゃないですよ〜」
って言ってしまった〜 本当はすごく嬉しいのに
「お前は、子供だよ! セシル! 素敵な1日を! 」
とリル様とヨハン様が口を揃えて言った
手をひらひらさせて「また明日な!」
そう言ってふたりは本館に向かって走って行ってしまった
郵便物を中央カウンターから本館の総務室に運んでその中から学園長宛の手紙や荷物を運ぶのが僕の仕事だ
午後は逆、総務室から中央カウンターに発送する郵便物や荷物を持っていくとティコさんがいた
思わず駆け寄った
あの日からずっと何かあるたび僕を気にかけてくれるティコさん
「ティコさん、今日はどうしたんですか?」
「いや、今日グリーさんのところに用事があってきていたんだ
帰る前にお前に会っておこうと待ってた
はい、セシル誕生日おめでとう」
え……自分の誕生日なんて忘れてた
じゃあ今日は、あの日なんだ
「お前、何があっても今日という日は父親と母親にありがとうっていうんだぞ」
ティコさんのくれたのはマシロの刺繍をした鞄と色鉛筆とスケッチブックだ
「ティコさん、こんなに高いもの…」
「鞄は俺の妹の手作りだし、色鉛筆とスケッチブックはリル様が販売してるものだからジーザメリウスでは結構手に入りやすいんだよ
お前絵を描くのが好きだろ」
「ありがとうございます」
お礼を言うとティコさんは笑顔で頭を撫でてくれた
その笑顔見た時思わず
「誰かに似てると思ったんだ」と呟いてしまった。
「似てる?」
「あ!すみません いやティコさんに似ている人がいて、髪の色と瞳の色は同じなんですけど肌の色がその人は褐色なんです」
「・・・・・・そうか、じゃあその人もイケメンだな
じゃあ俺帰るな、セシル元気でな」
「はい、ありがとうございます」
僕の頭を黙って撫でるとティコさんは帰って行った
家に帰るとおじさんとおばさんや、近所に住む職員のみんなが誕生日のお祝いをしてくれた
「セシル、お誕生日おめでとう、生まれて来てくれてありがとう
これからも仲良く私達と一緒にいてね」
キャッシーおばさんにそう言われると全然似ていないのに母の姿と重なった
涙が止まらない、もう泣かないって決めたのにジルおじさんが大きな手で黙って抱きしめてくれた
夜、ひとりでベッドに入ると今日の出来事が嬉しい反面 父さんと母さんのことを思い出し寂しくなり つい、リル様に朝もらったマシロのぬいぐるみをギュッと抱きしめた
するとリル様の優しい歌声が流れてきた
「君が夜の闇の中で立ちすくんでいても、僕が煌めく星の光になって道を照らし包み込んであげるよ。だから、ゆっくりおやすみ ハッシャバイ〜……」
低く優しい歌声に包まれて気持ちが温かくなった
そうだ、ティコさんにも言われていたのに・・・・・・
星に向かって呟いた…
「父様、母様ありがとう、僕、今日9歳になったよ」
窓の外を見ると満天の星が煌めきながら僕を照らしてくれている
いつの間にか僕は、星の光につつまれて眠っていた
今日は、夢の中でもいいから会いたいな。
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