魔力供給王

ニノチカ瑚珠

第1話 理の王

 私は王だ。


 政治で勝ち取ったわけではなく、完全に血筋の濃さでつく座である。

この国の王の選定方法は明確に血統主義だ。

家系図などは全く関係ない純粋に一族の血の濃さを求められている。


 血の濃さが最重要で、仮に王家以外の人間に産ませた場合でも血が濃ければ王になれる。

一族の中で誰が一番血が濃いのかは、一族なら明確にわかるので王位争いは発生しない。


 この国のほぼすべてのライフラインは王という存在が担っているからだ。


 理を回すための存在。


 この国の人間なら感覚的に理解しているのだが、例えば上水道を整え蛇口をつけても、王がいなければ水はどこかの地点で滞り、流れてこないのだ。


 王は生活の末端まですべてに影響し、王が存在するだけですべての理は快適に保たれる。

歴史上、王が存在しなかった時代もないので国民はその事実を意識することなく日々を平和に暮らしている。

 

 国民に暮らしの不便を感じさせないことが、王の最大の仕事、存在の理由である。


     


 私が子供の頃、先々代王が崩御された。


 夜だったので、その瞬間灯は消え、城から円を描くように暗闇が城下町を走った。


 灯りがすべて消え、沈黙が訪れ、何もかもが止まった国内。

報せるまでもなく国中が王の死の瞬間を知るのである。


 およそ30分間。

その間国中の人間が厳かに王の死を悼むのだ。


それを知ったとき、王になるのも悪くはないと思った。


 いいことばかりではない王という存在。

しかし自分が死ぬ時を皆が知り、よほど悪王でなければ一瞬くらい祈りを捧げてくれるだろう。悪くない。


 父の次には自分が王になることになる。



  ---


 私の父は本当の父だ。

 血統主義なので父は母を選んだ。

 そして生まれた私は無事に王位継承権を持つ者となった。


 先々代の王の葬式は盛大に行われた。

 当時まだ小さかった私も、勉強のため父に連れられて葬儀の準備について回った。


 王の遺体が安置されている場所。その横の広場にも簡素な棺がたくさん並べられていた。


 その間を行ったり来たりして忙しく作業していた王宮の人が紙の束を父に手渡した。


「亡くなられた230人、名前住所、お見舞い金、死亡理由、すべてリストにしております。そのほか犬猫鳥、家畜も」

「ご苦労」


 王がお隠れになった30分のあいだに死んだ者たち。

 事故を起こした者、落下した者、呼吸ができなくなった者、溺れた者。

 32人の亡くなった国民たちは、王とともに墓に埋葬された。

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