VSデュナミス
「……」
「……」
僕とデュナミスは互いに武器を構え、静かに見合う。
そんな中で、先に動いたのはデュナミスの方だった。
彼は悠然とした動きで僕との距離を詰め、そのまま鉄扇をこちらへと振るってくる。
「しっ!」
それを足で避ける僕はデュナミスへと剣をを振り下ろす。
「おっと、危ない」
だが、それは一度。僕の方へと振り抜いて空振った鉄扇を再度持ち上げることでデュナミスは防いでくる。
「……っ」
そして、そのままデュナミスは僕の腹へと膝蹴りを叩き込んでくる。
それに反応が遅れた僕はストレートにそれを食らい、思わず体を丸めてしまう。
「桜花」
そんな僕へとデュナミスは鉄扇を一振り。
その一振りによって僕の頭は真っ二つによって咲かれると共に、自分の視界が鉄扇よりあふれ出した桃色の花びらに染められていく。
「ぐっ……」
鉄扇によって真っ二つにされた僕の頭はすぐに再生し、何事もなくなったが……桃色の花びら。そちらの方が悪かった。
桃色の花びらを見て、そして、それからあふれ出す匂いを吸ってしまった僕は自分の体が痺れていくのを感じる。
「流石に、私の毒は君にも有効打なようだね」
「ちぃ……っ」
鉄扇より溢れ出る桃色の花びら。
それが醸し出す匂いは強力な毒であるのだろう。
軽く吸い込むだけで、自分が自分じゃなくなるような感覚を与えられる僕は足元をふらつかせる。
「ごふっ!?」
そんな僕はデュナミスから腹に蹴りを受け、吹き飛ばされる。
「……おや」
浅い……自分に蹴りが打ち込まれる前、彼の足に己の剣を振るったのだが、それは非常に浅くてその足を軽く引き裂く程度にしかできなかった。
「げほっ、げほっ」
蹴り一つで内臓を破裂させられた僕は口から血を吐き、そのまま元々は内臓であったものまで吐き出しながら、自分の中身を再生ていく。
「ロワくんっ!」
そんな僕を見てノーネームが声をあげた瞬間、デュナミスの方から追撃が飛んでくる。
「あぅっ!?」
地面に倒れ伏しながら、今まさに立ち上がろうとしていたタイミングで距離を詰めていたデュナミスが鋭い蹴りを放ち、それをただ受けることしかできなかった僕は吹き飛ばされて地面を転がっていく。
「げぇぇぇぇぇ」
口からは再度、血を吐く。
「ロワくんっ!」
そんな僕の名を呼ぶノーネームの声がさっきよりも明瞭に聞こえてくる。
どうやら、僕は彼女の近くにまで吹き飛ばされたらしい。
「ふぅー」
自分の隣にあったノーネームが拘束されている牢屋。
それに手を突きながら立ちあがる僕だが、それをデュナミスが上から押さえつけてくる。
「ぐぇぇ」
立ち上がろうとしていた両足を鉄扇で斬り裂かれ、僕は再び地面を這う。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
斬られた足はすぐに再生する。
ただ、毒とか……初めて、体に効いたけど、思ったよりもキツイな。
まともに体が動かなくなる感覚に、朦朧としてくる意識。
それらは想像以上に重かった。
「あぅっ」
そんな中で、僕は自分の腹に一つの杭を突き刺される。
「君も知っているでしょう?この杭は。突き刺したものを封印し、一切の行動を封じるような代物」
自分に突き刺された一つの杭。
それによって、デュナミスの言う通りに僕の体はほとんど動かなくなっていた。
「……お前、あそこの研究所に居たか?」
ただ、それでも問題なく動く口を動かして僕はデュナミスへと疑問の声を向ける。
「……」
そんな僕の疑問にデュナミスは答えず、代わりにノーネームが閉じ込められている檻の鉄柵を一本一本壊して引き抜き、それを僕の四肢に突き刺してくる。
「ロワくんっ!」
それのおかげで外へと出られるようになったノーネームが僕の方へと近寄ってくる。
「これからが我々人類を救うことになる一大実験の始まり。その時まで、二人で過ごしていていると良い。私は二人の友情に水を差すほど無粋ではないので」
もう動けない。
そう言っても差し支えない僕を放置し、デュナミスはこちらの戦闘の方に一切興味を割かずに黙々と作業をしていたシアーの方へと近寄っていく。
「ロワくん、ロワくん……大丈夫?大丈夫?」
そんなデュナミスには気を払っていないノーネームが動けなくなっている僕の体を何とかしようと杭や鉄柵の一本一本に触れるも、何も出来ず、泣きそうになりながらこちらが大丈夫かどうかを聞いてくる。
「……何で」
僕の為に行動相とするノーネームの前で、疑問の声を上げる。
「水族館に行ったとき、とか、何で、僕に優しくしてくれたの?」
「そ、それは……」
そんな僕の言葉を聞いて、ノーネームは一度、言い淀む。
「そ、そのぉ……同じ、顔で、親近感があってぇ。私も色々とあって、あそこに流れ着いた身で、なんか同じ顔をして過去の私と同じように死んだ目をしているロワくんを私は自分に重ねちゃってて。それで……それに、ロワくんは荒れ放題になっていた支部の居住区の家事をやってくれて綺麗に掃除し、毎日美味しいご飯も作ってくれていて……」
「うん……」
「これまで、ずっとお世話になっていて……それで、ロワくんは私にとって大切な仲間の一人になって。だから、元気を出してほしくて。仲間に、優しくするのは当然のことだから」
「……そっか」
これまでずっと、仮面などで素性を隠し続けていたノーネームが、僕に対して思っていたことを素直に言葉で伝えてくれる。
その声は暖かくて……僕は、そんな彼女の言葉にただ頷く。
「出来たっ!」
そんな中、シアーが声高かに完成を宣言する。
床に倒れたまま彼の方に視線を送ってみれば、シアーは何か一つの試験管に入った液体を持っていた。
「……ッ!?」
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