ノーネーム

 冷静に言うなら、僕じゃデュナミスに勝てない。


「……」


 ガクとアンシアの二人から離れ、たった一人で慣れ親しんだ実験場の中を進んでいく僕は自分の状況を冷静に分析する。


 一回の戦闘で戦力差が埋まるほど、自分とデュナミスの差は小さくない。


「あぁ……」

 

 それでも、僕は一切足を止めることなく、たった一人で実験場の中を歩く。

 何故かはわからない。

 ……。

 …………。

 僕にもわからなかった。


「お邪魔するよ」


 地下に広がっている実験場の広さはそこまでじゃない。

 街の地下に蜘蛛の巣のように張り巡らされていたあの実験場の規模の百分の一もないほどに小さな実験場だ。

 僕が少し歩いただけで最深部、ノーネームが囚われの身となっている部屋にまでやってくることが出来た。


「おぉぉぉ!」


 ノーネームが囚われの身となっている部屋へと入った僕をまず、出迎えるのはシアーだった。


「実に、実に実に仕上がっているではないかっ!素晴らしいっ!本当に素晴らしい出来だっ!私が打ち込んだ薬はしっかりと効いているぅっ!?中のものはぁぁぁぁ、ぁぁぁぁ、完成、したぁっ!」


「……?」


 僕はハイテンションで話しているシアーの言葉が理解できずに首をかしげながら、この場にいるはずのデュナミスのことを探していく。


「……ッ!?」


 だが、探すまでもなかった。

 床をぶち破って僕の足元から出てきたデュナミスは、その手に握られていた鉄扇を振るい、こちらの両足を消し飛ばしてくる。


「……うへぇ」


 流石に地面から出てくるのは想定外だった。

 本当に身を小さく縮こまって身を小さくしていたのか、システムの方でも同じ高さにいると誤認していたせいで、本当に気づかなかった。


「甘いな、僕も」


 とはいえ、部屋にいるはずのデュナミスがいない時点で気づけ、という話ではあるが。


「……どう?」


 勝手に僕が考え後をしている間にも鉄扇は振るわれ続けていた。

 自分の上半身と下半身が離れ離れにされ、首もついでに胴体と分けられ、首も縦に斬り裂かれる。

 ボコボコにされている中で、僕は下半身だけでバックステップしてデュナミスから離れて、下半身より再生する。


「天ノ橋」


 起点として再生されなかった僕の体たちが光となって消えていく中で、自分は天ノ橋を展開する。

 今のところはただ何度も展開出来て、ちょっと頑丈かつ鋭いだけの剣を。


「ふぅむ……あそこまでされてもその体は再生するのかぁ」


 そんな僕を前にするデュナミスは少し、呆れながら声を上げていた。


「これは、実際のところ、どうやって攻略すればいいか、困り果てる奴だ」


 僕の不死性にデュナミスが呆れていた中。



「……ろ、ロワくん」



 己の名をか細い、随分と可愛らしい少女の声で呼ばれる。


「ノーネーム」


 その声に従って、視線を後ろの方に向ければ、そこには一人の人物が。

 僕とまったくもって同じ顔を持った子がいた。

 髪型が違うこと以外は本当にほとんど同じ……いや、体つきはほんのわずかにノーネームの方が女の子らしいかもしれない。


「……喋れたん、だね」


 そんな彼女に何と声をかけるか、悩んだ末に僕はそう、声をかける。


「うん……ごめん、今まで、何も言わなくて。私、ずっと……浮いていたよね?」


「いや、そんなことないよ。新参者の僕が言うのもなんだけど、ノーネームも大事な仲間で、僕はここに、ガクとアンシアから必ず君を助けるように言われて立っているんだ」


「……ッ!」


「待ってて、そこで。助けるから」


 デュナミスがいる中で、悠長に話している暇なんてない。


「ありがとう。待っていてくれて」


「最後の別れを止めるほど、無粋じゃないさ」


 短く話を済ませてデュナミスへと視線を戻した僕は、ふざけたことを抜かす彼の前でゆっくりと剣を構えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る