完全開放

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおっ!」


 勝手に僕があきらめムードになる中で、降霊術でもってありとあらゆる状態異常を無効化するような加護を持つ先祖の霊を降ろしたガクの方がデュミナスの方に向かっていく。


「ぬぅんっ!」


 そして、何時の間にか嵌めていたメリケンサックでデュミナスを殴りかかる。


「降霊術、中々面白いものを使うじゃないか」


 だが、その一撃は軽々とデュナミスに受け止められる。

 それでも、ガクの突進は確かに展開されていた桃色の花を一時的に風圧で消し飛ばした。


「はぁっ!」


 その二の手は一瞬にしてデュナミスの背後を取ったアンシアの一振り。

 天ノ橋でもって顕現させた斬るに特化させたその鋭い剣でデュナミスを狙う。

 その一刀は非常に強力であり、合わせに行ったデュナミスの鉄扇を悠々と斬り裂き、そのまま彼の体へと向かっていく。

 だが。


「危ない」


 その刀が当たるよりも前にデュナミスの体は煙のように揺らめいてその立ち位置を変更させていた。


「……」


 そんなデュナミスへと向かっていくのはノーネームが発動作り出した傀儡たちである。


「ヒヒヒ……」


 その傀儡たちの前に立ちふさがったのはデュナミスではなく、シアー。

 彼の手に握られている試験官より立ちのぼる煙が傀儡を一瞬で溶かし、機能不全にさせる。


「本題は君の方だよ。王の器よ」


「……!?」


 そして、そんなことをしていた中で、何時の間にかデュナミスは離れた位置にいたノーネームの前に立っていた。


「さぁ」


 最初から、デュナミスがノーネームの方に意識を向けているのはわかっていた。

 だからこそ、一度は諦めながらも帽子分のお礼として、ノーネームの助けに入ろうと距離を詰めていた僕だったが。


「……は?」


 デュナミスの手によってはぎ取られたノーネームの仮面とローブ。

 その下から出てきたノーネームの姿を見て僕は思わずを足を止める。


「はわわっ!?」


 肩まで伸びた白い髪に白い瞳を持った───僕と瓜二つの顔を持ったノーネームの本来の姿を前にして。

 僕は動きを止めてしまった。

 そして、それが最悪だった。


「ヒヒヒ」


「……ッ!?」


 何時の間に僕の隣に立っていたシアーに顔面を掴まれた僕はそのまま呪力をそのまま直で叩きつけられる。

 そして、その瞬間。


『かっかっかっかっかっかっかっかっかっ!』


『かっかっかっかっかっかっかっかっかっ!』


『かっかっかっかっかっかっかっかっかっ!』


『かっかっかっかっかっかっかっかっかっ!』


『かっかっかっかっかっかっかっかっかっ!』


 僕の頭の中に大量の笑い声をが響き渡ってくる。

 これは、まず───っ。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああっ」


 思わず悲鳴が上がる。

 自分の中のものが、自分という存在そのものがひっくり返されているような感覚でごちゃごちゃにかき乱される。


「なぁ、に、を……ッ!」


 そんな中でも、僕は辛うじて意識を留めてシアーの方に視線を送る。


「器は我々で用意する。中身は、このまま成熟。ヒヒヒ……完成する。悲願が」


 そして、シアーの満面の笑みを見たところで、僕の意識は闇へと沈んでしまった。

 

 ■■■■■

 

 状況は最悪だった。


「ロワくんっ!」


「ノーネームっ!」

 ガクとアンシアのコンビネーション攻撃が完全に流された後、ノーネームは自身の前に立つデュナミスによってその姿を隠していたベールを剥がれ、ロワはシアーによってその意識を奪われた。


「眠れ」


 そして、ノーネームの方もデュナミスの拳を腹に受けてその意識を飛ばす。


「クソっ!」


「……ッ」


 二人眠らされ、相手は健在。

 それを前にして、圧倒的に不利と言えるような状況を前にしてガクとアンシアの二人は動きを止めざる得ない。


「……ァァァァアアアアアアアアアアア」


 そんな中で、動きを見せたのは気を失っていたはずのロワだった。

 彼の体がゆっくりと浮かびあがり、その髪が白く染まっていく。


「……ァァァァアアアアアアアアアアア」


 そして、そのまま開かれた瞼の奥にあった、虹色の瞳は輝いていた。


「あ、あぁぁぁぁ……」


 白く逆立った髪に虹色の瞳。

 それを見て、アンシアの脳裏に浮かぶのは蜘蛛の魔物を殴殺したロワの姿である。


「な、なんだ……あれは、いや、俺はっ!」


 アンシアが動きを止めた中で、ガクは迷うことなく地面を蹴ってノーネームの体をつまみ上げるデュナミスへと近づき、そのまま拳を振るう。


「ゴボォっ!」


 それに対して。


「またそれかい?」


 今度は受け止められることもなく軽くデュナミスに避けられ、そのカウンターとして腹に強烈な蹴りを叩きつけられたガクはその体を浮かせて口から血を吐き、そのまま地面へと倒れる。


「ぐぉぉぉ」


「さようならだ」


「……ッ!ガクっ!!!」


 地面に倒れ、何とか立ち上がろうともがくもダメージが深くてただ這いつくばることしか出来ていないガクへとデュナミスは一切容赦なくその頭に向かって足を踏み下ろす。

 だが。


「危ないね」


 そのデュナミスの足がガクの頭を踏みつぶしてしまうよりも前に、この場へと転移で駆けつけてきたルータによって、回収される。


「……助かった」


 殺される寸前のところをルータから助けられたガクは思わず、と言ったような形でホッと一息を漏らす。


「すまない。遅れた」


 だが、それに対して、まずルータは謝罪の言葉を告げる。


「おっと、不味い。人類最強のお出ましとは……これは逃げ、一択だね」


 そんなルータに対して、まともに戦う気のないデュナミスはノーネームのことをつまみ上げた姿のまま、シアーと共に空の方へと上がっていく。


「ま、待ちなさいっ!私の仲間を連れて何処行くつもりよっ!」


 それにいち早くかみついたのはアンシア。


「……待て」


 だが、それをルータは制する。


「なんでよっ!?あのままじゃノーネームがっ!」


「それよりも、ロワを止める方が先だろうね」


 そして、そのままルータは自分に抗議するアンシアの方には視線を向けず、ロワの方へと視線を向ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る