訓練
アンシアの加護。
それが『天剣』。
自身の持つ武器の切れ味を上昇させると共に、その強度も上げる加護。
ガクの加護。
それが『降霊の菜』。
自身のご先祖様を己の体に降ろし、その先祖様の祝福の一部を用いることが出来るようになる加護。
そして、最後にノーネームの加護。
それが『傀儡の器』。
無から生み出した数体の人形としての傀儡を生み出すと共に、それを操作する加護。
僕と同じ班に配属された三人はこれらの加護を駆使して戦うことになる。
「ふぅー」
だが、これらの加護が使えるだけではただの一兵卒でしかない。
各国の軍隊、訓練を積んだ一般人でも出来ることだ。
人類最高峰の戦力機関と呼ばれる対魔の柄の一人として認められるには加護の完全開放。
天ノ橋を使えるようになる必要がある。
当然、僕も対魔の柄へと加入することになった以上、この天ノ橋を使えるようになる必要がある。
「天ノ橋」
僕は自身の膨大な呪力より開かれた世界の切れ目より、一振りの青白い炎が閉じ込められている複雑な装飾や彫刻が施された氷の剣を引き抜く。
「よしっ」
僕が蜘蛛の魔物との激突で自身の中にあるものを開放して気を失ってから一週間ほど。
対魔の柄の支部内でアンシアたちからの教育を受けていた僕はやっと、天ノ橋を使えるようになっていた。
「これが僕の、か」
天ノ橋。
それは自分の加護を凝縮し、この世界に新しい物体として自分だけの法具を作り出す術である。
なお、僕の祝福が何か。それは不明だ。
普通の人は生まれた時に自分の祝福とその概要を神のお告げによって知ることが出来るらしいのだが、僕はそんなお告げを聞いた覚えがない。
ただ、加護が存在しないという可能性は人類である以上ない。
であるのならば、天ノ橋は使えるだろうということで僕は自分の加護を一切知らないまま、教えられた通りの天ノ橋の発動手順を辿ることによってそれを使えるようになったのだ。
「え、えぇ……?出来るの早すぎない?」
そんな僕を傍から見ていたアンシアはドン引きの声を上げていた。
「一年で使えるようになった私が歴史上ありえない神童とか呼ばれていたのに……ほとんどなかった筋肉や体力をつけて、剣の振り方や体の動かし方、受け身術。祝福が一体何なのかも含めて併用してやっていたロワくんが一週間で天ノ橋を使えるようになるの、冷静に考えて意味が分からないのだけど……」
「俺とかガキの頃から十年以上、戦場で駆け抜けて経験を積み、その果てに死闘の末、ようやく掴んだ極致なのだが。こんな軽々と?」
そして、そんなアンシアの言葉にガクも続いていく。
一週間での天ノ橋の習得。
それは常識的に考えると、ありえない速度でのことらしい。
「まぁ、僕は器用なので……」
「そんなレベルじゃないけど?」
「器用はそんな便利な言葉じゃないな」
僕という人間そのものが特殊で、ありとあらゆる呑み込みが早いのだ。
ありとあらゆる経験を必要とせず、最低限にそれが何であるかの確認をすることだけで、僕は技術を手にすることが出来る。
「まっ、でも、私たちの味方が強くなる分には何の問題もないけどねっ!」
そんな僕を前にして、アンシアはあっけらかんとした態度で声を上げる。
「ぐぬぅ……まぁ、そうなのだが、俺には年上であり、先輩としての威厳があってだな。全敗する……ただでさえ、昨日、木刀でのぶつけ合いで敗北したというのに」
それに対して、ガクは悔しそうに表情を歪ませていた。
「ところでさ、ずっと顕現させているけど、呪力は大丈夫なの?足りなくて辛くなったりするよりも前に消していいからね?」
そんなガクのことは無視して、アンシアが僕の方へと疑問の声を投げかけてくる。
呪力。
それは人類が祝福を使用する際に必要とするエネルギーであると共に、我らの敵である魔族が持っている人類の『』とは対極的な力である『呪骸』を使用する際に必要とするエネルギーである。
この呪力がなければ加護は使えない。
そして、天ノ橋は使用している期間中、ずっと膨大な呪力を消費することになるため、ずっと使い続けることは出来ない。ここぞという時の切り札となる。
ただ。
「僕、多分だけど呪力に底はない、かな?これを使用している最中でも一切自分の呪力が少なくなっている感覚がない。海からコップ一杯の水を掬って使用しているような感じ」
僕の持っている呪力が膨大過ぎるせいで、天ノ橋を使っている最中であっても何の問題もないように感じていた。
「欠点ないじゃない」
「お前、ウソだろ?」
そんな僕の言葉にアンシアとガクは本気で呆れたかのような声を上げる。
まぁ、うん……僕でも自分のスペックがチートじみているな、とは思う。
代わりに、爆弾も抱えているわけだが……自分のスペックも己の中にある爆弾の副効果だと思うから、自慢出来ないんだけど。
消えてくれた方が良い。
「えぇ……」
「ここまで強いとは……」
何てことを僕が考えていることなんて知らないアンシアとガクはちゃんと引いていた。
「……」
そして、基本的には無反応でそこに立っているだけのノーネームまでうんうん、と頷いてくる。
「おー、やっているか?ロワの方も天ノ橋を出来るようになったのは行幸だが……お前たち三人の方も自分の実力は磨けているか?」
そんな中において、僕以上にチートクラスの存在。
ルータが転移でもって僕たちの前に現れるのだった。
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