力
ロワの血を浴びたことで蜘蛛の魔物が貼っていた結界、その内部に入ったもの全てへと与える麻痺毒を解毒出来たことによって動けるようになったアンシアは、だがしかし。
「な、何が……?」
蜘蛛の魔物の前に立つロワを前にして、動けずにいた。
一度は地面へと落ちたロワの首。
だが、その首はすぐに再生し、瞼の閉じられた、美しい芸術品のロワの首が再び立ち上がる。
そんなロワの瞼が開かれる。
そして。
雰囲気が変わる。
彼の重たい黒髪が白く染まって逆立ち、色を失っていた虹色の瞳が宝石のような輝きを取り戻して世界へと色をぶちまける。
「ぎ、ぎしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そんな彼の圧力を前に、巨大な蜘蛛の魔物も一歩、その足を引く。
彼の魔物が気圧されていることは、誰の目から見ても明らかだった。
先ほどまで、弱音を吐いていた少年が、異様と言える圧倒的なオーラを纏って蜘蛛の魔物を前に立っている。
その事実を前にロワは体を硬直させる。
「危ないわよ」
そんな中で、一気にロワとの距離が離れると共に、アンシアの耳に一つの声が聞こえてくる。
「ルータ先生……」
その声の主、それはルータだった。
ルータは右手にアンシアを、左手に子どもたちが閉じ込められている鉄の牢屋を持ち、ロワからかなり距離を通っていた。
「ふふっ……とうとう、ロワが起きたのだね」
そんなルータは少しだけ嬉しそうに笑いながら、ロワの方を見ていた。
「……何か、知っているんですか?」
そんなルータを前に、少しだけ薄ら寒いものを感じるアンシアは疑問の声を上げる。
「ん?そうだね。現状、この世界にいる中だけだと私が彼に詳しいだろな。だが、今はまだ、言うときじゃない。ただ、見ていればいい」
自分の方に視線を向けるアンシアへとルータは手でロワの方を見るよう指し示す。
色々と聞きたいことはある。
だが、それらをすべて呑み込んで、アンシアはロワの方へと視線を向ける。
ちょうどその時だった。
「ぎしゃぁぁぁぁぁぁっ!」
これまでずっとロワへと気圧されていた蜘蛛の魔物が動き出す。
図体に見合わない機敏な動きでもって足を振り上げ、ロワの方へと振り下ろす。
「……ぎしゃ?」
だが、その足はロワへと触れただけで破裂する。
「……」
それを前に蜘蛛の魔物がその六つ目で己のはじけた足に視線を送っている間に、ロワは手をゆっくりと振り上げる。
ただ、それだけ。
だが、それだけによって。
「……ぎっ」
蜘蛛の魔物が真っ二つに分かたれ、ゆっくりと地面へと倒れていった。
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