異界が眠りし王の~底辺の引きこもり少年は周りを見返しながら成り上がっていくらしいですよ?~

リヒト

プロローグ

 今より遥か遠く、遥か昔。

 まだ神々が地上にいた頃。

 一柱の神がこの世界を作った。

 初めに天と地とを創造された。

 光を作り、星を作り、陸を作り、海を作った。

 一柱の神が作りたもうた星には他の神々が思い思いに生命を生み出し、そして、最後には星を作りし神が人類を作ろうとした。

 だが、それよりも前に星を作りし神は二つと別れ、その各々が二つの人類を、人間と魔族を作った。

 その最中に、二つと別れた神からは命の雫が滴り落ちていた。

 不完全な力でもって人類を生み出した二柱の神の手よりこぼれ出した命の雫は悪魔となり、神々へと反逆した。

 世界の神々は己たちに挑んでくる悪魔を叩きのめして、異空間に押し込んで出られないようにした。

 そして、悪魔という問題が生まれた元は一柱だった神が作った世界に興味を失った神々は地上から去っていた。

 後に星へと残ったのは人類と魔族だけであった。

 そして、異空間に押し込められた悪魔は相も変わらずだった。

 悪魔が求めしは強き者である。神々に強き者を無理にでも作ってもらおうとした悪魔は神に敗れ、代わりに人類と魔族へと期待した。

 強きを。より強きを。ただひとえに強きを求める。

 ──。

 ────。

 そんな悪魔の元に。

 ついに、王が現れた。我らの王が。

 その名を──。


 ■■■■■

 

 ロワ・エスパランサ。

 まだ年若い、見た目もその年齢以上に幼い整った顔立ちをした少年であるロワ。

 だが、そんなロワの持つ、その伸び切った黒い髪の奥に隠されている虹色の瞳は、彼の若く綺麗な見た目とは裏腹に活気のない死んだような色を携えていた。


「ロワ……」


 そんな少年のことを一人の女性の声が呼ぶ。

 

「……何?」


 それに対して、ロワが彼女の方に視線を送ると、そこにはまだ寝起きと思われるボサボサの白髪を持ったスタイルの良い麗人が立っていた。

 名画から飛び出てきたかのような、とでも形容しようか。

 その肌は色が抜けたかのように白く、肩にまで下がっている髪までも白い。

 そして、ロワを見つめるその瞳は真っ白なキャンパスの上で、大きく、赤く輝いている。

 目鼻立ちが綺麗に整ったその表情もまた、美しい。

 例え、髪が寝起きでボサボサだったとしても、それすら芸術の一つだと言って納得させられるほどの芸術さを感じさせるような姿だった。


「お前のことを引き取ったのは一体何年前だったか?もう十年近くお前の面倒を見ている」


 そのような美しさを持ったその女性。

 ルータ・アリアンスは、己の持つ歴史に残る彫刻のように整った抜群のスタイルの全身を一切覆い隠すことのない生まれたままの姿をさらけ出しながら、ロワへと言葉を語る。


「そろそろ、家の外に出てもいい頃なんじゃないか?」


「えっ?いやだけど?」


 ルータが語る言葉。懇願。

 それをロワは迷いなく即答で拒絶する。


「そんなの許さぬ」

 

 だが、そんなロワと同じようにルータは迷いなく即答する。


「私に逆らって、ただで済むとでも?」


 ゆっくりと自身の手を持ち上げるルータは静かにロワを威圧し始める。


「最強、と謳われる私を前にお前が逆らえると思っているのならば、それは非常に楽観的だと言わざるを得ないぞ?」


「殺すのなら殺すがいいさ……無理だろうけど」


「……」


「僕はこのまま何処にもいかず、何者にも影響せず、ここで一人腐り落ちて死にたい。ただ、それだけでいい」


 ロワがその口より語るのは生気のない瞳同様、冷たく、暗い言葉だった。


「どうせ、僕は何もいらない。何かを食べることはしないし、何かルータの邪魔をするようなことはしていない。僕は好き放題散らかしてまともに飯も作れない君の代わりにありとあらゆる家事を行い、代わりに細やかな寝床を頂戴する。逆に、ルータは僕がいなくて大丈夫なの?楽観的になっていない?」


「ぐぬっ……」


 そして、続くロワの言葉にルータは言葉を詰まらせる。


「わ、私だっていい歳をした大人さっ!添い遂げる相手くらいもういるんだよ。私には外で稼いでくる力があるのでね。家でゆっくりと私を待ってくれる人を作ったんだよ。君なんていなくとも問題ないさ。あまり、大人を舐めるなよ?」


 それでも、ルータはすぐに立ち直って自分には男がいるから大丈夫だと胸を張る。


「ルータを受け入れるような男はいないよ。生まれてから、彼氏、出来たことある?」


「……ごふっ」


 それに対するロワのカウンターにルータは沈む。

 ルータには結婚相手どころか、人生で彼氏が出来たことさえ一度もなかった。


「どうせ喪女なんだから、見栄を張る必要なんてないのに……」

 

 死体撃ちまで完璧である。

 

「うるさぁい!出ていけっと言ったら出ていくんだっ!否定など許さぁんっ!私が強引にでも追い出してやるわぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!」


 そんな中で、ルータはもう力技に出るほかなくなるのだった。

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