【全8話】蔵で死体を見ましたか?

二八 鯉市(にはち りいち)

#1 雲沢 幸太郎

 なあ大丈夫か?

 悠太ゆうた、お前顔色悪いぞ。


 ま、昨晩相当飲まされたもんなぁ。

 なんであんなにってそりゃお前。親族の若手代表であんないい挨拶した奴には飲ませるだろうさ。僻みと妬みだよ。

 あはは。ん? 筆頭で飲ませてたのは俺? ま、それもそうだな。


 え、俺は平気なのかって?

 平気なもんか。年とるとな、こういう朝の早い時間に自然と起きちまうんだよ。

 けどまぁ、こうやって庭眺めながら白湯でも飲んでるとな、じんわりと二日酔いが抜けてくってわけだ。


 いやー相変わらずすげぇよな。この庭。

 こういうの、峰賀澄みねがすみの家のすごさみたいなものを見せつけられるよな。ここまで来ると僻みも妬みも出てこねぇな。


 あの並んでる木なんか、手入れする金額だけで年に何百万ってハナシだ。


 でもまあ、一番目立つのはやっぱりあのでっかい岩だよな。


 そうそう。

 かつて峰賀澄の当主の妻が、鬼を退治したとかいう伝説だろ? あの岩の下に倒した鬼が埋まってるとか言う。

 だから峰賀澄の女には、神通力が備わってる――なんてさ。ぶっちゃけ、当主に箔をつけるためだけの……いやいやこれ以上はやめとくか。


 しっかし、いい宴会だったなぁ。

 正直面倒が多いし、峰賀澄の権力見せつけられるのはダルい事この上無いが、終わってみれば来てよかったってなるんだよな。なんせ、峰賀澄のカネのかかった酒にカネのかかったメシだもんな。この世で一番うめぇよああいうのがさ。


 いやーしかしあれだな。

 ご当主の長女の桜子だっけか。すっげぇ美人になってなぁ。


 確か、大学のミスコンでも「満場一致」だってか。美人で勉強もできて、性格は控え目。いやーそんな完璧人間がいるんだな。んで妹の方は、アイドルだか女優だか、とにかく芸能人だっけか。

 はぁ。悉く住む世界が違うなぁオイ。

 まあでも、桜子の方にはもう婚約者がいるんだってな。さっすが、美人は競争率激しいや。


 ん、どうした?


 え、昨晩蔵に行ったかどうか?

 いや、行ってねぇよ。んぁ、なんだよ。蔵で何かあったのか?



<続>

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