君が反射する実像

那珂さん

プロローグ

 この美しい瞬間を切り取るには何か代償を支払わなければならなかったのではないか。そう思うほどに美しい1枚のポートレートを見て、音楽の授業で見たオペラ『ファウスト』の「時よ止まれ!」というセリフを思い出した。全てを捧げてでもこの瞬間を永遠にしたいと思った男の叫びだ。

 中学三年の秋、将来僕が通うことになる高校の文化祭でその写真に出会ったとき、自分だったらどんな代償を支払えるだろうと考えさせられた。しかし、もともと芸術とは関係のない人生を送ってきた僕にとってその問いは些細なもので、学校生活と受験勉強の中でその問題は答えを出す前に記憶の中に埋もれていった。

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