君とのこと。
船里葵
第1話 君とのこと。
甘くも切ない香りのする記憶のロウソクに火を灯す。
君と恋人になって初めて気付いた相性の悪さ。だけどそれは新しい発見の多さだと思えた。俺は心の中でだけ君への言葉を尽くせた。淡い恋色をしていたハートは錆びついていく。ささくれだった錆をこぼしながら物語は進んでいく。
君は艶のある長い黒髪の女子高校生だった。潮風が吹く海の街で産まれた君は自分を満たす物が何もない環境で、いつも刺激を求めていた。買ったばかりの車の助手席に乗せれば、肘置きで手を握りたがった。二人きりになるとどこにいても、キスをして欲しいと言った。自分の家に帰りたがらず、何か理由をつけては、俺の部屋に来たがった。学校から帰って来て金曜の夜は、必ず部屋に泊まって、俺に仲間からの呑みの誘いを断らせた。今なら求められてもきっと言えないような言葉を、俺に求めた。ベッドに入れば俺の方から君のことを求めた。
今思えばそれはまやかしの愛だった。酒に溺れるように君に溺れていた。共依存とも言うべき愛の形は決して美しい形をしていなかった。絵に描くとするなら歪にゆがむグロテスクで、灰色のハートだった。いや、本当はそれすら自覚していた。俺と君との間に何を育んでいるのか、たまにわからなくなる時があった。その迷いを快楽で間に合わせることでずれ込んだ帳尻を合わせていた。
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