—第12章:いざ傭兵ギルドへ2

ようやく傭兵ギルドの前に到着する。


ドアを勢いよく開けて中へ入ると、周囲の荒くれ者たちがこちらを凝視していた。彼らの手には機械仕掛けの武器や特殊な装具がある。


「装備は違うけど、雰囲気は聖王国と同じね」


懐かしさを感じつつ、カウンターにいる大柄な男の前に立つ。


「貴族のお嬢ちゃん、ここは遊ぶ場所じゃないんだよ、わかってるか?」


予想通りの返答が返ってきた。以前の見た目ならともかく、今のマリアの顔では舐められてしまうのは当然だ。マリアの声が「すいません」と聞こえてくるが、謝るようなことではない。人の顔にケチをつける資格など誰にもない。


拳に力を込め、カウンターを思い切り上から叩きつける。


カウンターは真っ二つに割れ、目の前の大男は顔を真っ青にしている。


「おお、この手袋もすごいな、さすが一級品だ」


カウンターを叩き割ったのはあたしの鍛錬による力だが、装着している革の手袋はきめ細かく手に馴染み、衝撃への耐性が抜群だった。普通は痛みを感じるものだが、まったく痛みはなかった。


「あんたからかってきたんだからあんたが持ちなよ。で、傭兵ギルドに登録したいんだけど」


喧嘩を吹っかけてきた結果の破壊だ。弁償はそちらで頼む、文句があるならぶっ飛ばすぞと暗に込めてカウンターの大男に告げる。


周囲の男たちからもぎろっとした視線が向けられるが、そんなものには一切動じない。しかし、対峙する大男だけは違い、ヴェルヴェットのただならぬ気配を感じ取った。


「ああ、わかった、悪かったよ。登録だな」


大男は素直に登録用の紙を渡してきた。


周りの男たちはカウンターの大男が素直に応じる様子に疑問を感じたが、よくある登録作業が進められているのを見て興味をなくし、各々の雑談に戻る。


「はい、書き終わったわ」


書いた内容を確認した大男が訝しげに尋ねる。


「仲間は?まさか1人だとは言わねぇだろうな」


当然のように答えた。


「1人よ」


「なあ、ヴェルヴェットさんよ、お前さん見かけない顔だが、この国の出身じゃねぇだろ。どこの国か詮索はしないが、普通は魔法使いや機械を操る者と組むんだ。役割分担をしないと傭兵は生き残れねぇ。悪いことは言わねぇからパーティを組みな」


正論だ。傭兵が1人で戦うには限界がある。自分の役割や死角を補う仲間が必要だ。聖王国ではあたしもパーティを組んでいた。


だが信頼できる仲間が前提だ。信頼できない仲間に背中を預けるなら、1人で戦った方がまだ生き延びる確率が上がる。


最初の態度とは裏腹に善意から言ってくれているのもわかるため、ヴェルヴェットは仕方なくペンを再度持ち、機械技師リオと記入する。


「リオ?リオって、あの坂の上に住んでるガキか?」


「ええ、そうよ。これでパーティだ、文句ないでしょ」


吐き捨てるように言う。


「リオぉ?あのしょっぼい機械ばっか作ってるクソガキがパーティだってよ!ひゃはははは!」


後ろから複数の笑い声が響く。そういえば、この街でのリオの評価はそんなものだと聞いていた。


だが、リオは小さいながら一生懸命生きている。それを大人が馬鹿にするような態度は許せない。


—ヴェルヴェット、この者たちに鉄槌の魔法を


「やめろ!」


ヴェルヴェットは割れたカウンターをさらに思い切り叩きつけ、カウンターがぐちゃぐちゃに崩れた。


「次に笑った奴は、そいつの脳天に同じことをしてやるから覚悟しろ」


笑っていた男たちは一瞬で静まり返った。やめろと言ったのは男たちと、そしてマリアの両方に対してだった。魔法を使えば死人が出るだろう。リオのことで怒るのは理解するが、それで魔法を使おうとするのはどうかしている。


マリアの言動に違和感を感じつつも、その考えを一旦頭の隅に置く。


「依頼されているものを見せて」


「見せるのは構わないが…パーティを組んでいるんだろ?初回は本人が同行するのが条件だ。待て!嫌がらせを言っているわけじゃねぇ、決まりなんだよ。頼むから、これ以上店を壊さないでくれ!」


「まるであたしが所構わず壊すゴリラみたいじゃない。呼べばいいんでしょ?わかったわよ」


大男がその通りだろうという顔をしていたので少しイラッとしたが、話が進まないので無視をして腕巻き式の通信機でリオにしゃべりかける。


「リオ?悪いけど、ちょっと傭兵ギルドまで来てほしい」


***「ヴェルヴェット!うん、わかった、今から行くよ」


勢いのいい声ですぐに応答が返ってきた。開発中だろうに、傭兵ギルドにはやはり憧れがあるのかと思いつつ、飲み物を注文して待つ。


少しすると、扉が勢いよく開かれ、リオが入ってきた。さっきリオのことで笑っていた男たちはまったく反応しない。むしろ顔も合わせてこない。反応しなくなったのは助かるので、カウンターを壊しておいてよかった。


カウンターの前に来たリオはその惨状を見て驚いている。


「え、カウンターがぐちゃぐちゃになってるじゃないか。どうしたの、これ?」


リオはこちらを見て驚きながら尋ねる。


「通りすがりのゴリラがやったらしい」


男たちとカウンターの大男を睨み、「しゃべったら命はないぞ」と圧をかける。


「まあ、それはそうとリオ、あたしの傭兵パーティに入ってくれ」


「ええ、僕が傭兵に!?」


本日二度目の驚愕に目を丸くするリオ。確かに、12歳の機械技師に傭兵になって戦えというのは驚く話だ。


「大丈夫だ。初回だけだし、リオは後ろで見ているだけでいいんだ」


何もしなくていいと説得する。実際、リオには何もしてもらうつもりはない。ギルドの規則で初回だけ同行してもらうだけなのだから。


「それならまあ…いいけど」


「よし、決まりだな」


そう言って大男に向き直り、「これでパーティの確認もできたことだし、依頼を見せてくれ」と告げた。


「ああ、ほらよ」


先ほど叩き壊していない隣のカウンターから依頼書が差し出された。


傭兵ギルドの仕事は、依頼をただ見せるだけではなく、依頼主が出す依頼の難易度を推測し、それに釣り合った傭兵に依頼を適切に紹介している。初心者や弱そうな者には小規模な依頼や街中の警護、荷物運搬といった誰にでもできそうな仕事が渡されることもある。


ギルドからは自分自身がどの程度の手練れと認識されているか教えられないが、依頼内容を見ればだいたいの予想はできる。


今回の依頼内容を見る、依頼はかなり上級のようだ。カウンターを粉砕する力や威圧感、眼力などから相応の実力を評価されたのだろう。


「なんか悪魔討伐の依頼が多いわね」


「最近、悪魔が活発になっているんだ。理由は知らないが、結構な被害が出てるんだよ。街にも現れることがあるから、注意を…」


すると傭兵ギルドに1人の男が駆け込んできた。


「悪魔が街に入ってきた!助けてくれ!」


それを聞き。即座に応える。


「その依頼、請け負った!あとからでいいから、ちゃんと依頼出しといてよね」


案内に従い、リオを連れて悪魔のいる方へ駆けていった。

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