—第12章:いざ傭兵ギルドへ1

商店街を歩いている。ここ数日でいろいろな店を訪れ、さまざまなものを見てきた。


武器や防具は聖王国のものと性能に大きな差はないようだが、やはり大きな違いは機械製品があるかどうかというところだ。


飲食店の値段は少々高くて驚いた。正確にはそこまで高くはないのだが、リオの家から帰る途中でお腹が空き、軽く食べてから帰ろうとしたところ、メニューを見ると大半が1000ギアを超えていたのだ。


他の店も見て回り、ポーション系が異常に安いことにも気づいた。確かにリオは「安価」と言っていたが、ここまでだとは思わなかった。魔法使いが少ないこともあり、傭兵や騎士はポーションを湯水のごとく使うのだろう。


需要が増えれば供給も増えることで、安価な値段でも商売が成り立つ。それが安さの理由だとマリアが教えてくれた。


話の半分は理解できた気がするが、このことから急ぎで対処しなければならないことに気づかされた。


そう、所持金がかなり減ってきているのだ。


リオに5万ギアを渡し、その後、飲み食いしていたら、いつの間にか所持金が1万ギアを切ってしまっていた。


宿舎で出される食事を食べれば無料だが、どうもその時間には寝ていたり、酒を飲みに行っていたりすることが多い。


フリードリッヒにお金のおかわりを頼むことも考えたが、施しを受けるのはプライド的に頼みづらい。宿舎を無料で借りているうえに、さらに金まで要求するのは、いくら恩人とはいえ図々しい気がする。


そろそろ傭兵ギルドに登録して金を稼がなければ、と思った矢先、服を捨てられたことを思い出す。


八方塞がりになっていたところに、屋敷の執事から「仕立てていた服ができあがったので試着をどうぞ」と連絡が入った。


渡りに船とはまさにこのことだ。


意気揚々と屋敷に向かうと、そこにはアナスタシアとエミール、以前風呂に入れてくれた使用人二人が待っていた。フリードリッヒは仕事で不在とのことだった。アナスタシアから宿舎で不自由はないかと心配されたが、特に不自由はないと答える。


すると仕立て屋が待ちかねた服を持ってきた。早速受け取って着てみようとしたが、すぐにアナスタシアに止められ、エミールと仕立て屋が部屋から退散させられる。


「ヴェルヴェット、女性が男性の前で気軽に着替えてはいけませんよ」


そう言って、使用人にヴェルヴェットの着付けをするよう命じる。


使用人は手際よく服を着せていく。オーダーメイドで仕立てた服なのに、ここまで正確に着付けられるものかと関心しながら見ていると、あっという間に着付けが完了した。


エミールと仕立て屋が大きな鏡を運んでくる。そこに映し出された自分の姿を見つめる。


そこには貴族御用達の最高の仕立て人が仕立てた装備を身に纏った自分がいた。まず目を引くのは、深紅のベスト。


シルクと上質なウールが絶妙に織り交ぜられたその生地は、傭兵としての過酷な生活にはそぐわないほどの美しさを放っている。


袖口と襟元には、さりげなく金糸で施された精巧な刺繍が光り、ベストの前面には小さな金ボタンが規則正しく並んでいた。戦場での過酷さの中でも貴族の誇り高い意志を感じさせる一品だ。


だが、その華やかさとは裏腹に、ズボンは実用性を重視したデザインだ。腰から足元にかけては、動きやすさを優先しつつも女性らしいシルエットを際立たせるよう、タイトに仕立てられた革のパンツがしなやかに脚にフィットしている。


太腿や膝には強化された革が使われ、見た目の華やかさに負けない耐久性も備わっている。パンツの縫い目には、さりげなく施された装飾的なステッチが機能美を引き立てている。


足元には、しっかりとした革のブーツがヴェルヴェットを支えている。膝下までの長さがあり、滑らかな革の質感が目立つが、戦闘用としての耐久性も備え、鋲や小さな金属製の装飾が力強さを強調している。


貴族が作る服だし、もっと派手なものを想像していたが、そんなことはなかった。見た目よりも機能を最優先しつつも、細かいところに美麗な刺繍や装飾が施されており、まさに最高の一品にふさわしい。


周りの人々もその華麗な姿に感嘆の声を上げる。


「どう、似合ってる?」


するとエミールが真っ先に応える。


「すっごい似合ってて、かっこいいよ、ヴェルヴェット!」


期待していた通りの返事が返ってくる。


「ありがとう。これでまた仕事ができるわ」


そう言って、周りのみんなに感謝を伝え、街へ繰り出していった。

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