—第11章:機械技師リオ3
日が暮れてきた。
全力で掃除をしたつもりだったが、思った以上に時間がかかった。紙や機械をどかしても、その下にさらに紙や機械が積もっていたからだ。
整理についても、紙ならともかく、機械をどさどさと重ねるわけにはいかない。壊れる危険があるのはもちろん、そもそも安定性が悪く、上に置いたものが落ちてくる危険もあるからだ。
リオの指示を聞きながら、どうにか機械の整理も終わった。
さらに、お腹が空いたので商店街に降り、簡単な食材を購入して、シチューとサラダを作ることにした。
綺麗になった机にシチューとサラダ、買ってきたパンを並べる。
「どうしたの、お腹減ってないの?」
料理を呆然と見つめるリオ。
掃除が早かったのか、料理を作るのが早かったのか、長い間使われていなかったキッチンがちゃんとした役割を果たしたからだろうか。
いや、きっとそうではない。
リオは促されるまま、スプーンでシチューを口に運ぶ。
口に入れた瞬間、すべてを悟った。
そうだ、これはまだ母がいたころに作ってくれた料理、そして綺麗な家。過去の幸せな日々が鮮やかに蘇ってくる。
「ひぐ…ひぐ…」
シチューを食べながら大粒の涙を流すリオ。
優しかった母、頭脳明晰で国の開発に尽力していたが、帰ってくるととても優しかった父。そんな両親との思い出が胸を押し寄せる。
2年前のある日、母に「留守番をしているように」と言われ、母が父の元へ向かった。その日にちょうど大爆発が起こり、父も母も帰らぬ人となったのだ。
「どうしようもない事故だった」と説明を受けたが、自分はその事故にいまだ納得していない。
身寄りはあったが、遠方であることと、この思い出の家から離れたくない思いが強く、リオはそのまま残ることに決めた。
大きくなるにつれてさらに機械の勉強をすると共に、当時の事故への違和感はますます大きくなっていった。きっと何か裏にある。だがその情報を得る手掛かりはまだ掴めていない。
「貴族や上流階級の誰かが何かを知っているはず…」ヴェルヴェットに対しても、その可能性を考えていた。
しかし、料理を出され、父と母の思い出が蘇ったことで、その感情が一気に溢れ出した。
「自分は家族と幸せに暮らしたかっただけなのに…なんで…なんで…」
リオの姿を見て、ヴェルヴェットは何となく察し、彼の肩を優しくさする。
「大丈夫、大丈夫だから」
過去にもこんなふうに母に慰められた記憶が蘇り、余計に肩が震え、涙がこぼれたが、徐々に冷静さを取り戻していった。
「もう、大丈夫…です」
ヴェルヴェットから渡された柔らかい紙で涙を拭き、鼻をかむ。
その後は勢いよくご飯を食べ、ヴェルヴェットも笑みを浮かべながら一緒に食事を続けた。
食事を終えると、ひとしきり泣いたのとお腹がいっぱいになったことで冷静になれた。そして、ふと気づく。
とても恥ずかしい姿を見せてしまったことに。
「あ、あの!」
ごめんなさい?ありがとう?何を言えばいいのか整理できないまま、ヴェルヴェットに思いを伝えようとする。
「礼なんていらない。子供は誰もが育てられ、幸せになる権利があるのよ」
その言葉に、リオは心から嬉しくなり、母に向けるような感情を覚えた。
「これ、お返しします。本当はこんな価値はないですから」
リオはすっと、さっきもらった3万ギアをテーブルに置いた。
「価値があるかどうかは、あたしが決める」
そう言ってヴェルヴェットは3万ギアを握り締め、立ち上がり、整理した機械を物色し始める。
「ところで、さっき壊れたのはどういう機械だったんだ?」
「ああ、あれは遠い距離にいる人の顔を見ながら話をする機械です」
「遠い人と話ができるの?」
「いえ…ああ、遠い人と話をすること自体はもうできるんですが、これはさらに人の顔を見ながら話をすることができるんです」
それを聞いてヴェルヴェットは驚いた顔で答えた。
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