—第3章:傭兵と聖女

「ん……」

ここはどこだ? ああ、いつもの宿屋か。それにしても変な夢を見た気がする。自分が自分じゃない体に……って!

バッと飛び上がり、鏡の前に立って、自分の顔を触りながらじっくりと見つめた。


「やっぱり……あたしじゃない……」


すると心の中から声が聞こえてくる。


—落ち着いて、ヴェルベット。その姿は私の姿です。あなたは瀕死の重傷を負った際、私と体を融合させて命を取り留めたのです。


「重傷……」 その言葉が胸に響き、たどたどしい記憶をたどる。たしか、王城の周りを警護していて、妙に強い悪魔と戦い、そいつを仕留め損ねた。悪魔はそのまま王城に逃げ込み、あたしは追いかけてある部屋に入って、トドメを刺そうとしたとき……!


そうだ!上から床が崩れ落ちてきたんだ。悪魔に気を取られて反応が遅れ、そして……


—そうです、あなたは瓦礫に体を潰され、致命傷を負いました。


はっきりと思い出した。あのとき、これで死ぬんだと覚悟したこと、痛いのか痛くないのかもわからず、意識が遠のいていく感覚。遠くから這ってくる金髪の女が近づいてきて、そこから先の記憶が途絶えている。


「じゃ、じゃあこの体はあたしのじゃないってことか! あたしはもう死んだのか!?」

動転しかける気持ちを抑えつつ、頭がぐるぐると混乱する。どうにか気持ちを落ち着かせ、最も気になる質問をぶつける。


—いいえ、ヴェルベット。あなたは死んでいません。現に、今こうして生きているじゃないですか。ただ、体は私のものに強く影響を受けています。あなたの体は、その、十分な状態ではなかったので……


きっと瓦礫に押しつぶされ、悲惨な状態だったのだろう……それはなんとなく察することができた。


—ただ、髪の色はあなたの髪に近いのではないですか?


確かに、朦朧とした意識の中で、この女は金髪だった気がする。だが、だからといって、まだわからないことだらけだ。


「あんたの体がベースだって言ったわね? じゃあ、なんであたしがあたしなんだ?」

思わず訳のわからない質問をしてしまったが、相手はそれを察し、質問の意図に答えてくれる。


—それは……きっと、あなたの意思がとても強かったから。体があなたでありたいと望んだのでしょう。


意思の強さ? たしかにあたしは意思が強い方だと思うけど、そんなことで体の主導権を取れるものなのか? 完全に納得できたわけではないが、今すぐだとこれ以上の疑問も湧いてこない。


心の中の女は小さく呟く。


—ごめんなさい、私のせいであなたは瓦礫に潰され、瀕死になり、融合せざるを得なくなった……これはせめてもの罪滅ぼしです。


最も聞きたかったことには一応納得がいった。そこで、傭兵ギルドに報酬を取りに行くことを思い出し、着替えをしながらもう一つの質問を投げかけた。


「あたしの名前はヴェルベット=ブラッドローズだ。あんたの名前は?」

当たり前の質問だ。名前がわからなければ、後々面倒なことになりそうだ。


—聖女マリア=マグダレナと申します。


目を見開いた。聖女様といえば、神官クラスの中でもかなり偉かったはずだという記憶がある。そう思いつつも、ふと冷静になる。


(この女が勝手に言っているだけの可能性もあるし、仮に本当にそうだったとしても、あたしには何も変わらない)


「とりあえず、昨日の報酬を受け取りにギルドに行く」

そう言って、ドアを開け、傭兵ギルドへ向かった。

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