第17話 新たな脅威

和樹の目の前には、埋め尽くすほどの「クアッドハウンド」「スパイクキャリア」「タロンホーク」といった3タイプのドローンが、まるで無惨な金属の墓場のように、火花を散らしながら広がっていた。


これらはすべて、オーバーマインドとリンクしていない自律型ドローンで、サイヴァートレックスが訓練用に制作した敵対シミュレーションモデルだ。


しかし、どれも実戦さながらの強さを誇り、油断すれば一瞬で追い詰められることを和樹は知っていた。


ノアの声が和樹の頭に直接響く。


(お見事でした。和樹)


和樹は深く息を吐きながらプラズマブレードのスイッチを切ると、高周波音と青白いスパークを放っていた刃が静かに消滅する。意識を集中してインディペンデントAIを通じてナノマシンに回復を指示すると、爽快な感覚が全身に広がり、疲労とクアッドハウンドのプラズマバーストで負った腕の火傷がみるみる癒えていくのが感じられた。


「ノア、今日の訓練でシンクロ率は上がった?」


(いえ、残念ながらシンクロ率は今回の訓練では上昇していません。)


「そうか…やっぱり実戦のほうが効率がいいな。明日からアンドロイドにリンク出来そう?」


(はい、企業ハビタットに拠点も整備されました。博士が調整した二体のアンドロイドには、昨日ファイアウォール・コアをインストール済みで、早朝には企業都市アーコニアへと向かわせています)


「ノアは企業都市に行かないの?」


(和樹がSOC『ストラテジック・オペレーションセンター』でリンクしてる間、本体は無防備になります。私がそばで待機しますので、安心してください。リンクは継続しているので、いつでも会話が可能です)


和樹はそわそわしながら、期待に満ちた表情でノアに声をかける。


「昼メシの後はリアルタイム・サバイバンスだよね…」


(はい。何か希望はありますか?)


「ホアンとカレンを見たいな」


本来ならば人類の戦闘をモニタリングし、実戦に役立つデータを収集するためのリアルタイム・サバイバンス。しかし、いつの間にか和樹の”覗きタイム”と化していた。


昼食のために、和樹はリビングキャビンのイートスペースに足を踏み入れた。


「ノア、ここで食べられないものってあるの?」


「いえ、日本にあったメニューなら全て提供可能です。さらに、違う時代や地域の料理でも、レシピさえあればほぼ何でも再現できます。」


「嘘だろ…?なんでもって…」


驚きを抑えきれない様子で、「じゃあ、ラーメンと餃子、頼む!」とオーダーを告げると、食品ユニットが静寂の中で一瞬待機し、青白く輝くデジタルオーダースクリーンに「ラーメン」と「餃子」のアイコンが浮かび上がった。


数秒後、ユニットが軽い音を立てて温かな湯気が立ち上る器が差し出された。透明なスープに黄金色の輝きを宿したラーメン、程よく焦げ目がついた餃子が美しく並んでいる。


和樹はテーブルにつくと、レンゲでスープをすくい、一口すすった。


「う、うまい…マジでか……」


続いて麺を一気に啜る。もちもちとした食感とコク深いスープが口の中に広がり、和樹の顔が緩んだ。続けて餃子を手に取り、カリッとした皮を噛むと、中からジューシーな肉汁が溢れ出てくる。


「これが本当に食品ユニットで作られたなんてな…信じられないな…」


昼食を終えた和樹とノアは、リアルタイム・サバイバンスをする為に、SOC(ストラテジック・オペレーションセンター)に入った。


和樹は中央のソフトチェアにゆっくりと腰を沈め、目の前に広がる巨大なモニターに視線を注いだ。


「それでは、ホアンとカレンの映像をお見せします」


ハエ型の小型探索ドローン「フライアイ」のカメラが映し出したのは、ブレイカー村ではなく、企業都市アーコニアにある企業ハビタットの風景だった。無数のビルが隙間なく密集し、ビルとビルの間にびっしりと張り巡らされた電線が、昼間にもかかわらず薄暗い影を落としている。湿気と冷たい人工光が、街全体に暗い雰囲気を漂わせていた。その中をフライアイが滑るように高速で飛び抜け、狭い路地や電線の隙間を器用にすり抜けていく。


「ん?…ここ、ブレイカー村じゃない?企業ハビタットだよね?」


和樹は、ホアンとカレンがなぜ企業ハビタットにいるのか分からず、少し不思議そうな顔を浮かべてモニターを見つめた。


フライアイが、所狭しと洗濯物が干された古びたビルへと近づいていく。壁面には無数のヒビが走り、ビルの共有スペースには使い込まれた自転車や古いバイクが並んでいる。その周りでは、住民の子供たちが遊んでおり、生活感が漂う光景だ。フライアイは階段を素早く飛びながら三階まで上がり、ある部屋のドアに静かに張り付いた。周囲を見渡して、わずか1センチに満たない隙間を見つけると、そのまま内部へと音もなく侵入した。


フライアイが部屋内に侵入すると、テーブルに座ったホアンとカレン、そして和樹の見知らぬ男性が、昼食を取っている様子が映し出された。


「兄さん、昨夜泊めてくれてありがとう」


「ああ、構わないよ。昨日は遅かったしな…」


「ラグナさん、ありがとうございます」


「ホアン、お前は無理して泊まらなくてもよかったんだぞ」


「………」


ホアンは気まずそうに視線をそらし、黙り込んだ。

 

ラグナは少し考え込むように眉を寄せて言った。


「でも、ヴァンガードセクトが狙っていたナイトメアセンチネルが誰かに倒されるなんてな…良かったのか、悪かったのか…」


「兄さん、なんで悪いの?もともとヴァンガードセクトでも倒せるかどうか分からなかったんでしょ?いなくなって良かったと思うけど」


「いや、倒されたのは確かに助かるが…噂では、ヴァンガードセクトが準備してた兵器や兵站を使って、今度はオーバーマインドの兵器製造施設を攻撃しようとしてるらしい。それで、遠距離射撃の上手い人材を探してるんだ。サーチャーギルドにも、候補を見つけるよう依頼が来てるんだよ。前回はだいぶ犠牲が出たからな…」


「俺、面接行ってみようかな…企業に雇ってもらえるかも…」


「おいおい、お前、十メートル先の標的すら外してたくせに何言ってんだよ!」


「そ、それは昔の話だろ、ラグナさん…あの時は子供だったしさ。今なら二十メートル先でも当たるって…まあ、たまに外すけど…」


「バカかお前は。最低でも千メートル先を確実に狙えなきゃ雇われるわけないだろうが。ギルドに来た依頼も、二千メートル先の目標を狙えるスナイパーを探してるんだぞ」


「………」


「もうこいつのことは放っておこう。カレン、サーチャーを本気で続けるつもりなら、いっそアーコニアで活動してみたらどうだ?ここの部屋も空いているし、ギルドに仕事も山ほどある。それに、ナイトメアセンチネルなんかが出現したら、ブレイカー村なんてひとたまりもない。アーコニアの方が安全だ」


カレンはホアンを気にしながら、迷いを見せる。「でも…ホアンとペアで活動するって決めたから…」


ラグナは少し不本意そうに肩をすくめ、「空き部屋は二つあるんだ。ホアンも一緒に来ればいい。実を言うと、今回のデータを見て…ヘリオス・ダイナミクス社の企業都市ダイナシティでのことを思い出した」


「それって…」


「あぁ…もう十年前のことだ。ナイトメアセンチネルで防衛を試された後、オメガアトラスと複数体のナイトメアセンチネルによってほぼ壊滅的な打撃を受けた。今の状況は、あの時と不気味なほど似ている。もし同じ展開が繰り返されるなら、アーコニアの周りにある村々はヤバいかもしれん」  


「えっ、マジっ、オメガアトラス!?」


黙っていたホアンが急に目を輝かせて声を上げる。


「亀モデルの四足歩行の巨大メカで、まるで移動要塞みたいなドローン兵器だろ?上部に複数の武器タレットを搭載していて、一斉にミサイルを発射して広範囲の敵を殲滅できる。さらに、高出力の連続レーザー照射で、建物やバリケードを溶かしながら突き進むんだ。全身にEMPバリアを張って、接近する敵を完全に無力化する防御システムも備えてる。あんな奴が来たら、もう手が出せないだろ…!」


カレンが呆れたようにホアンを見つめる。「ホアン…随分詳しいし、なんだか嬉しそうなんだけど…」


ホアンは得意げに笑みを浮かべる。「へへ、オーバーマインドの兵器のことなら何でも聞いてくれ!」


「とりあえず飯食い終わったら一緒にギルドに行くか…」


ラグナは、食事を楽しみながら仲良くはしゃぐカレンとホアンを、温かい眼差しで静かに見守っていた。

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2024年12月30日 17:00
2025年1月1日 17:00
2025年1月3日 17:00

リンク・インディペンデント-高校生の俺がAIとナノマシンの力で荒廃した未来を駆け抜ける 南極コアラ @hide4173

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