第12話 初めての実戦

「リアルタイム・サバイバンスはこれで終了となります。和樹、お疲れ様です。」


フライアイの自爆などなかったかのように、静かにシミュレーションが終了していった。


「う、うん、了解…」


「本日のカリキュラムはこれで終了です。博士のところに行かれますか?」


「もちろん。今日は一人で行ってみるよ。ずっとノアに案内させるのも悪いからね」


「私は平気ですよ」


「いつも付きっきりでノアも自分の“仕事”が出来なかっただろ?」


「………わかりました。場所は覚えていらっしゃいますか?」


「うん、大丈夫だよ。心配しないで。今日は遅くなる前にちゃんとリビングキャビンに戻るから」


ノアが無表情に見つめる中、和樹は嬉しそうにオートウォークに乗り、アームズ・ファクトリーベイへと向かった。


アームズ・ファクトリーベイに入ると、いつもの定位置にフクロウ型インタラクティブAI兵器管理ユニットである博士がとまっていた。


「博士、今日も乗りに来たよ!」


「おっ、和樹か。ところでノアはどうした?」


「ノア?今日は一人で来たよ。そんなに過保護な親じゃないんだから、いつも一緒ってわけじゃないでしょ」


「……ノアから何も聞いてないのか?」


「聞いてないって、何が?」


「いや、なんでもない……。で、今日は何に乗るつもりだ?」


和樹は嬉しそうに笑いながら、次々と車両を見て回り、どれにしようかと目を輝かせていた。


そんな和樹を見つめながら博士はボソッと呟く。


「ノアの奴…自身が和樹の母親の人格と知識を元に設計されたと説明してねえのか…」



「和樹、どうでしたか?」


和樹はリビングキャビンで夕食のパスタを食べながら、興奮が冷めやらぬ様子でノアに話しかけた。


「フォートレスジープに乗ったんだ!武装ドローンと防御シールドが使えるっていうのもすごいけど、あの無骨なデザインがたまらないよね。まさに軍用車両って感じで、外の荒廃した大地にピッタリっていうか…あー、早く外に出て思い切り乗り回したいな!」


「…明日、早朝から、少し外部に出てみませんか?フォートレスジープでドライブしてみましょう」


「えっ、マジで?いいの?」


「その際、オーバーマインドとリンクしたドローンとの軽い実戦も取り入れてみましょう。私を置いて和樹が博士と楽しく遊んでる間に、ちょうど手頃な相手を発見しましたので」


「な、なんか、怒ってる?」


「いえ、和樹を鍛えるのが“仕事”ですので」


「そ、そう…」


フォートレスジープのエンジンが唸りを上げ、和樹は興奮した表情で運転席に座っていた。初めて外部の荒れ地に出るという事実に、胸が高鳴っている。外はまだ薄暗く、ビルの残骸や倒壊した構造物が遠くに影を落としていた。


「準備はいいですか?」


「オーケー!この瞬間を待ってたんだ。荒野を走るってのが、なんか…本物の冒険みたいでさ」


「では、行きましょう。フォートレスジープ、外部リンクを解除。武装システムと防御シールドも起動しておきます」


和樹はアクセルを踏み込み、ジープが勢いよく前方へ進み出した。かすかな振動が体に伝わり、タイヤが荒れた地面をしっかりと噛み締める感覚が新鮮だ。風がフロントガラスを叩きつけるように吹き荒れ、廃墟の間を縫うように進んでいく。


「どうですか?初めての外部の走行感は」


「すごい!まさに軍用車両って感じで、このごつごつ感がたまらないんだよ。おまけにこの広がる景色…荒野ってこんなに広いんだな」


和樹は視線を遠くの地平線に向けた。破壊された建物の影、砂に埋もれた道路、そして遠くでゆらゆらと揺れる陽炎。すべてが異世界に迷い込んだような感覚を与えてくる。


「次のカーブで、少しスピードを上げてみてください。防御シールドも十分機能していますので、それとアトモ・シールドスーツの着心地はどうですか?」


「着心地はバッチリ!じゃあスピード上げるよ」


和樹はさらにアクセルを踏み込み、ジープが速度を上げていく。風がより激しく吹きつけ、車体がスムーズにカーブを切りながら進む。


「今のシンクロ率は良好ですね。和樹の運転にも集中力が増しています。…ですが」


「…ですが?」


和樹はちらりと視線をノアのディスプレイに向けた。


「見つけました。ちょうどこの先に、目標のドローンの反応が確認されています。軽い実戦訓練を試してみましょうか」


和樹は緊張で一瞬息を呑んだが、すぐに笑みを浮かべた。


「それって…ここで初めての実戦ってこと?」


「ええ。安全の範囲内でですが、フォートレスジープの装備と、和樹のシンクロ率の調整も含めた実戦を試しましょう」


「よっしゃ!燃えてきた!」


和樹はハンドルを握り直し、意識を集中させた。


「和樹、ナイトメアセンチネルが視界に入りました。まあまあ手ごわい相手ですが、サポートは任せてください。周囲にはクアッドハウンドが62体随伴しています。ナイトメアセンチネルはクアッドハウンドより速度が遅いので、一度引き離し、クアッドハウンドを先に片付けましょう」


「了解。…なんかあの黒光りしたボディ、いかにも無敵って感じでカッコいいな!スマホがあったら記念に写真でも撮るのに!」


「もしよろしければ、私の方で和樹と一緒の映像データを記録しておきますが?」


「マジで!?じゃあ、お願い!」


「和樹、気を抜かずに集中してください。これはオーバーマインドとリンクしたドローンです。今まで倒してきた自立型ドローンとは格が違いますよ。ナノリンク・データーフィードで詳細情報を送りました。」


「了解。」


フォートレスジープが荒野を轟音とともに疾走し、和樹はハンドルから手を離して運転を自立モードに切り替えた。すぐさまエナジーレーザーキャノンを起動し、手元のスイッチを押す。


「いくぞ…レーザーキャノン、発射!」


高熱のレーザーが空気を歪ませながら照射され、クアッドハウンドの群れに直撃する。灼熱の光線に触れた瞬間、クアッドハウンドの外装が焼けただれ、機体が溶解していく。その威力に和樹は満足げに笑みを浮かべたが、次の瞬間、ナイトメアセンチネルがシールドドローンを展開し、レーザーを完璧に防いだ。


「くそっ…!」


そのとき、いくつかのクアッドハウンドがステルスモードに切り替え、姿を消して和樹の視界から消える。すぐにノアのサポートが発動。ステルスモードのクアッドハウンドが輪郭だけで浮かび上がり、和樹の視界に表示される。


「ノア、助かる!」


和樹はフォートレスジープをそのまま走らせ、ステルス状態のクアッドハウンドを引きつけながら、ナイトメアセンチネルとの距離を少しずつ広げた。


そのとき、クアッドハウンドがプラズマバーストを放ち、灼熱のエネルギーがジープに向かって飛来する。和樹は瞬時にフォートレスジープの防御シールドを展開し、周囲に輝くエネルギーのバリアが現れる。プラズマバーストがバリアにぶつかると、閃光とともに激しい爆発音が響き渡り、灼熱の波が辺りに広がった。


「くっ…でも、これで!」


ジープを急旋回させ、ステルス状態のクアッドハウンドが一塊になるように誘導する。そして、絶好のタイミングでエナジーレーザーキャノンを放つ。レーザーが空間を切り裂き、姿を消していたクアッドハウンドが光に包まれて次々と爆発を起こす。激しい閃光と爆発音が辺りに響き渡り、焼き尽くされる敵の残骸が宙に舞い上がった。


「よし、クアッドハウンドは片付いた…次はナイトメアセンチネルだ!」

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