リンク・インディペンデント-高校生の俺がAIとナノマシンの力で荒廃した未来を駆け抜ける
南極コアラ
第1話 A I リンク
工藤和樹は、普通の高校生だった。
特に目立つわけでもない。勉強も運動も人並みで、友達付き合いもそこそこ。何かに特別な才能があるわけでもなく、いわば「無個性」を地で行くタイプだった。彼自身もそれに不満を抱いているわけではなく、特別なものを求めるほどの野心もなかった。普通の会社に入って、好きな女性と結婚し、穏やかに生涯を終える。それだけで十分だと思っていた。
ただし、和樹にはひとつだけ人には話せないことがあった。
物心ついた頃から、和樹は奇妙な夢を頻繁に見ていた。夢の中で彼は、崩壊した都市、燃え盛る建物、そして無数の戦闘機や戦車が次々と破壊されていく光景を、まるで映画のように「俯瞰」して見ていたのだ。真紅に染まった空の下、人々に襲いかかるロボットやドローンたちの姿を、和樹は遠くから冷静に見つめているだけだった。
幼いながらに、誰にもこの夢のことを話してはならない気がしていた。児童養護施設で過ごしていた頃から、周りに話すことはなかった。7歳のときに里親に引き取られても、その夢の話だけは胸にしまっていた。
まるでSF映画の一場面を見ているようなその夢は、成長とともに次第に薄れていき、高校生になってからは一度も見ることがなくなった———
「渋谷の爆破事件のニュース見た?」
「見た見た、ヤバくねぇあれ…」
「ちげぇんだよ!なんか映像にクマのぬいぐるみがライフル持って走り回ってるのが映ってるらしいぜ!」
「なにそれ、マジで!」
クラスメイトたちの会話をよそに一人教室の窓から外を眺めていた和樹は不意に声をかけられた。
「よう、和樹!今日バイト?」
「いや…バイトはないけど」
「じゃあ暇だろ?光町のショッピングモールに新作のガンシュー入ったんだって。やりに行かねー?」
「まぁ、暇だし、いいよ」
「よっしゃ!これで四人揃ったな!チーム戦で勝負だ、負けたらナック奢りな!」
「うわ、和樹が相手かよ…ガンシューめっちゃ強いんだよな」
「佐藤、お前いつも負けるもんな!」
「和樹、敵の動きを読むのが異常に上手いんだよ」
「それな!」
同級生たちと遊ぶ約束を交わした和樹だったが、その日は人生で一番の「ついていない」日となった。
放課後、和樹は同級生たちとショッピングモールのゲームセンターに向かい、ひとしきり遊び倒した。その後、階段の踊り場にあるトイレに一人で向かう。
運悪く、トイレの前ですれ違ったのは金髪と坊主頭の不良たちだった。和樹の脳裏に一瞬、嫌な予感がよぎる。
「おい、待てよ!」
——やっぱり来たか。
和樹の予感は見事に的中してしまった。
「なぁ、金貸してくんない?」
「…………」
「おい、聞いてんのか!金貸せって言ってんだよ!」
和樹は返答に詰まり、押し黙ったまま立ちすくんだ。断れば逆上されそうな勢いで迫る不良たちに、反抗する勇気は出なかった。
「おい、ボコボコにされたいのか?」
一人の不良がつまらなそうに言い放つと、軽く和樹を突き飛ばした。突然の衝撃に足元が崩れ、体が後ろに傾く。反射的に手を伸ばすが、掴むものは何もなく、そのまま階段を踏み外した。
その瞬間——。
高校生になってからは一度も見ていなかった「夢」が走馬灯のように頭をよぎる。
燃え盛る家、破壊されるビル、四足の機械が銃を構えて戦車を破壊する。蜘蛛の子を散らすように悲鳴を上げ、逃げ惑う人々……。
意識が遠のく中、和樹の頭にふとした「声」が響いた。
(探知完了。AI接続、リンク開始——)
意味不明な言葉が頭に流れ込み、鋭い痛みが脳内を貫く。そして、和樹の身体は強い引力に引き寄せられるような感覚に包まれた。
四つん這いの状態で意識が戻った和樹。ショッピングモールの階段から転げ落ちたはずなのに、手をついているのは赤茶けた乾いた地面だった。驚いて顔を上げると、そこにはまったく見覚えのない光景が広がっていた。
「……………!」
和樹は口を開けたまま、呆然とした。思考が一瞬止まり、目の前の現実を理解できない。ふと我に返り、唖然としながらも周囲を見渡した。
朽ち果てた高層ビルがいくつも倒れ、地平線の彼方まで広がる砂漠。辺りには一片の人影もなく、ただ静まり返った風が乾いた音を立てて吹き抜けていく。ショッピングモールの面影はどこにもなかった。
「……………ここは……どこなんだ?」
声に出してみても、返事はない。和樹は混乱しながら立ち上がり、恐る恐る足を踏み出そうとした。その瞬間——
遠くから、重低音のような機械音が響き渡り、砂埃の向こうに何かの影が見えた。それは夢で見た四足の機械だった。無機質な赤い光が和樹を捉え、先の尖った脚を素早く動かしながら、ものすごいスピードでこちらに迫ってくる。気持ちの悪いその動きに、和樹の全身に鳥肌が立った。
「う、嘘だろ……!」
和樹は反射的に逃げ出した。
「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、なんなんだいったい!」
しかし、機械はあっという間に距離を詰めてくる。体がもつれ、転びそうになりながらも、必死に足を動かした。心臓が激しく鼓動し、息が詰まりそうになる。
「ハァハァハァ、も、もう、ダメだ…や、やられる…」
だが、やがて体力が限界を迎え、足が止まった。その瞬間、和樹の体内からかすかな「声」が響いた。
(防衛システム、戦闘モード起動——)
不意に体が勝手に動き出し、まるで誰かに操られているように立ち上がった。身体の感覚はまったくなくなり、叫びたくても声が出ない。
和樹はまるで自分がショッピングモールで遊んでいたガンシューティングゲームを俯瞰的に見ているかのような奇妙な感覚に陥り、心の中で、『やめてくれっ!』と叫んでも、身体が勝手に信じられない速さで機械に向かって走り出す。
「……!」
機械が和樹に向かってレーザーを発射してくるが、和樹は右に左に素早くステップを踏みながら光線をかわし、照射口の死角に滑り込んだ。
すれ違いざまに瞬時に左手で機械のパネルを引き剥がし、露出した内部に素早く右腕を肘まで突っ込んだ。手のひらほどの黒い箱を配線ごと引きちぎると、青白いスパークが飛び散り、雷が落ちたような閃光が辺りを照らす。和樹の腕は黒く炭化したが、不思議と痛みは一切感じなかった。
滑り込んだ勢いで機械の反対側に出ると、スッと立ち上がり、引きちぎった箱を機械に投げつける、次の瞬間、閃光とともに機械は凄まじい轟音と衝撃波を発し、大爆発を起こした。
爆発の衝撃で吹き飛ばされ、和樹は背後にあった倒壊したビルの壁に激突した。その瞬間、意識が途切れ、闇に落ちていった。
(ナビゲーションシステム、起動——)
和樹はむくっと体を起こし、しっかりとした足取りで荒廃した大地を歩き始めた。まるで誰かに導かれるかのように、ビルの隙間に隠れた地下へと続く階段を降りていった。
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