第15話

本当のことを言うべきか否や。岩島さんを怒らせるととんでもないことになりそうで。唇がやけに重く、口が動かない。


「女の声漏れてますよ」


 私が言いたかったことを代弁するかの如く、橋本さんが口を開いた。彼の声もまた、怒りが含んでいる。


「女の声? 女なんかおらんで? しかも、ワシ白石と話よったし」

「でも、聞こえてましたよ?」

「はあ? せやから、おらんて。気になるんやったら確かめたらええ」


 橋本さんと話していた岩島さんが、親指でリビングを指差す。

 それもそうだと、橋本さんから離れ。リビングに行って、中を確かめる。


「沙羅、起きたのか」


 開いた扉の隙間から、恐る恐るリビングの中を確かめると、中にいるのはソファーに座っている白石さんと城山さんだけで。女の人らしき人はどこにも見当たらない。

 不思議に思っていると、城山さんが口を開く。


「あいつは、耳の聞こえが悪いのか? うるさくてかなわん」


 リモコンをテレビに向けて音量を下げている城山さんは、不愉快そうに眉を顰めていて。

 言われてみれば、やけにテレビの音が大きかった。けれど、それは置かれているテレビの大きさと、設置されているスピーカーのせいだと思っていた。

それに、映し出されているのは任侠映画。それも、いかがわしいシーン。


「ワシ映画見よってん。せやから、それとちゃうか」


 岩島さんの話を聞いて、自分がとんでもない勘違いをしていたことに気づき。申し訳ない気持ちと後悔の気持ちに苛まれる。


「紛らわしいんですよ。まあ、そのおかげで良い思いができましたけどね」


 フンと鼻を鳴らした橋本さんが、私の横を通ってリビングの中へ入っていく。


「あいつもずる賢いやっちゃな」


と、岩島さんは文句を言った後、こちらを見て、


「で、嘘つきってなんやねん?」


 岩島さんに聞かれて黙ったまま俯いていると、溜め息を吐く音が聞こえ、


「不安ならワシに聞けばええだけの話やのに、何で早とちりすんねん。ホンマ、女っちゅうのは面倒くさいのう」


と、彼はリビングの中へ入っていく。

 返す言葉も見つからず、自分に非があるので文句も言えず。私は黙ったままの状態で、廊下に立ち尽くすばかり。


「何してんねん? 早う来い」


 リビングの方から岩島さんの声が聞こえ、それはなんだか不機嫌そうで。逆らうと後が面倒なので、部屋の中へと入る。

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