第4話

「言うとくけど、ワシは今まで自分の愛車に女を乗せたことないねん。

 ジブン、この意味分かるか?」


 助手席側の扉の前まで行くと、岩島さんが怪しい笑みを浮かべながら言った。

 自分が好意を抱いている相手なら心臓が高鳴るような状況。

 しかし、同乗者はストーカー紛いの暴力団。好意を抱いていない相手から、「この意味分かるか?」と訊かれても、私の心は無反応。

 今の岩島さんからは危険な臭いがする。


「やっぱり、乗るの止めときます」


それを察知した私は、彼の車に背を向けて歩き始めた。


「は!? お前、何を言うてねや!? ワシの車に乗れるんやで!?」


 後ろから岩島さんの大声と慌ただしい足音が聞こえる。すると、足音はすぐに私の真後ろまで来た。


「嬉しくないんか!?」


 岩島さんが私の左腕の手首を掴み更に大声を出す。

 その声は完全に近所迷惑。近隣から苦情が出ないか心配だ。


「普通、愛する男に“愛車に女を乗せたのはお前が初めてや”言われたら、“ホンマに? 嬉しいわあ”て喜ぶもんとちゃうん?

 せやのに、“止めときます”てなんやねん!?」


 私の心配など知る由もない彼は、一方的にベラベラと話し続けている。それがあまりにも苦痛で、私は聞こえていない振りを貫く。


「……まさか、お前このワシに“お前を助手席に乗せて愛車を走らせたいんや”て言わせたいんか?

 ホンマ、魔性の女やのう。お前はどんだけワシの心を掻き乱すつもりなんや?

 見た目とのギャップがええのう!! めちゃ興奮すんで!!」


しかも、私の行動や言動を自分の都合のいいように頭で改変する始末。

 常にポジティブ思考の岩島さんは、ある意味凄い人なのかもしれない。

 結局、私は岩島さんに無理やり助手席へ乗せられた。

 エンジンが始動し、車がゆっくりと走り始める。

 岩島さんは、最初のうちは制限速度通り車を走らせていた。しかし、徐々に走行速度が上がっている気がする。

さり気なく横目で速度メーターを見れば、すでに百キロに達していた。


「スピード出しすぎですよ!!」


 私はそれに驚いて、思わず大声を出した。


「何言うてんねん。メーター見てみい、看板通りの速度やで?

 もしかして、ええ雰囲気にしよう思うてシャレ言うとるんか? 今のはおもろかったでえ」


 けれど、片手でハンドルを操作する岩島さんは、意味不明なことを口走りながら余裕の笑みを浮かべている。

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