深痕のミシア短編2―セリアラ編―「明日も姫様のために頑張ろう」
真田 了
序
少女姫「おねえさま、早く来てください!」
美しい水色の髪をなびかせながら王宮の廊下を駆け抜ける少女の元気な声が響いた。
驚いた侍女たちが、働いていた手を止める。
セリアラ「もう、姫様ったら! 周りに人が居るときは、名前で呼んでくださいってばぁ! それから、廊下を走らないでくださーい!」
先を走る少女姫を追いかけつつも駆け足にならないよう早足で、同じくらいの年齢で着ている服も似ている少女――名をセリアラという――が後を追う。
廊下の掃除をしていた大人の侍女たちと目が合うと、セリアラは立ち止まって恥ずかしそう&申し訳なさそうにお辞儀をして、再び急ぎ足で少女姫の後を追った。
侍女たちも慣れたもので、苦笑しながらセリアラを送り出す。
侍女A「セリアラったら、いつも大変ねぇ」
侍女B「姫様がああもお転婆だとね。将来大丈夫なのか、ちょっと不安になっちゃうわ」
侍女C「それは大丈夫でしょう。成長すれば落ち着くわよ。きっと王妃様と同じように、美しい聡明な姫になられるわ」
・・・
廊下から中庭に出たところで、少女姫はセリアラを待っていた。
セリアラ「はぁ、はぁ…。ひ、姫様…。周りに、人が、居るときは、おねえさま、じゃなくて…」
少女姫「いいじゃないですか、そんなこと。皆さん分かってらっしゃるんですし」
セリアラ「姫様が、良くても…、わたしが、困るんですよぅ。お母さんに、叱られちゃう…。ふう」
セリアラは肩で息をしていたが、ようやく落ち着いてきた。
セリアラの言葉を聞いて、少女姫は眉をひそめた。
少女姫「確かに、デシアラが怒ると怖いですけど」
セリアラ「でしょう?!」
2人は顔を見合わせて笑い合った。
セリアラ「ですから、姫様…」
セリアラは少女姫を諭そうとしたが、少女姫はそれを遮った。
少女姫「おねえさま! 2人きりのときは姫と呼ばないでくださいって、いつもお願いしているでしょう?」
セリアラ「ここは2人きりじゃありませんよ。ここにはお父さん…じゃなくて庭師の方もいますし、近衛の方もいらっしゃいます」
王宮の中庭では何人かの庭師が庭の手入れをしているし、少女姫を追ってきたのはセリアラだけではなかった。
目立たないように少し距離を置いているが、少女姫付きの近衛兵が1人(日によって担当の者は違うが)、いつも付いてきている。
少女姫「あの方たちは身内のようなものですから、いいじゃないですか」
セリアラ「うーん、それもそうですね…。アルちゃん」
少女姫「はい!」
愛称で呼ばれた少女姫は、笑顔をはじけさせた。
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