第35話 starry sky 前編
僕の名前は、セラ・ヴィユンティ 13歳
父は、将軍であり侯爵でもあるアクセル・ヴィユンティ侯爵
母は、シェリー・ヴィユンティ薄いピンクの髪に紅茶のようなブラウンの瞳息子からみても美しくそれでいて可愛い母上だ
そんな母上が今朝は、早くからソワソワバタバタとしている
「部屋は、これでいいかしら」
「ドレスは、揃っている?
シェフにお願いしたデザートは、用意ができている?」
「奥様、すべてご用意できております」
執事のシドが返事をしたと思った途端そろそろ馬車が着くと門番から連絡があったようで、父上と母上に連れられ僕まで出迎えに行く事になった
馬車から降りてきたのは、小さな女の子であった
10歳と聞いたがまっすぐと綺麗な歩き方で僕達の前に歩いてきた綺麗なカーテシーで
「はじめまして、アリス・キャラウェイと申します どうぞよろしくお願いいたします」
と見事な挨拶をした
「アリス、ようこそヴィユンティ侯爵家へ
今日からは、我が家だと思って過ごしてくれ」
「まあ、アリス……素敵なご挨拶ね 」
母上は、そういうと涙ぐんでしまい言葉を失ってしまった
アリスは、母上の涙に戸惑って、その場で立ちすくんでしまった
父上は、そんな母上を抱きしめながら
「アリス、すまなかったね、いや君があまり可愛いから妻は感激したようだ」
「そう、嬉しくて泣いてしまったのよ
ごめんねアリス」
アリスは、にっこり笑って
「そんなふうに思っていただけて嬉しいです」
と母上の手をそっとにぎりしめた
母上が泣いたのには、理由がある
このヴィユンティ侯爵家には、僕を含めて3人の子供がいる
兄で長男のシュリティは、僕より10歳離れた23歳
そして長女で生きていれば32歳のアメリア・サラスーラ
サラスーラ国王ジルベールの王妃だった
息子のウィリアムと3人で他国を訪問中船の事故で帰らぬ人となったそんな彼女と同じ髪色の薄いピンク
ブラウンの瞳とは言ってもアリスの瞳は、琥珀色の透き通ったブラウンの瞳のアリスだが、母上はアリスにアメリアの姿を重ねてしまったのであろう
姉が亡くなった時、僕はまだ3歳だった
しかし、母上が花だけが埋め尽くされた主のいない棺桶にしがみついて泣き崩れている姿は、記憶に残っている
その頃、母上は部屋に籠る事が多くなった
領地に住むようになり、また父上が寄り添い過ごしているうちに少しづつ明るさを取り戻したのだ
アリスをしばらく侯爵家であずかることになり一番喜んだのは母上だ
やはり、息子だと着飾させることひとつにつけても物足りないのであろう
しかしあまりにも姉と姿形が似ていたのには父上と母上も驚いたようだ
アリスが姉の幼少の頃と重なって見えてしまうせいなのか
しばらくの間、母上の情緒は不安定となった
アリスはというと母上がどんな状態であってもそばに寄り添って手をにぎっていた
「この子は、沢山苦労してきたのだな……
セラ……アリスを大切にしてやらんといかんな」
と父上が僕の目をみつめながらそう話した
しばらくすると母上もすぐに冷静さを取り戻しアリス自身と向き合い、アリスとの時間を大切にするようになったのである
きっと、姉にも同じようにしてきたように自分の伝えれるものを全て彼女に伝えたいという気持ちが溢れていた
また、アリスもそんな母上の気持ちを受け止めてくれていた
長男の兄上は、小侯爵として王都で仕事をしているのだが、久しぶりに領地に帰ってきた
「やあ、君がアリスか へぇー、そうやってセラと並んでいるとセラと本当の兄妹みたいだ」
髪色も瞳の色の同じだし、年も兄上よりアリスの方が近いせいか、確かに兄上よりもアリスと僕は兄妹に間違えられることが多かった
なぜか、僕は、アリスと兄妹と思われる事が凄く嫌だった
「お兄様たちはどうしてそんなに年が離れているの?」
突然兄上と僕を見比べてアリスが質問した
え? ああ、まあ父上が戦場に長くいた事と、父上が母上だけをずっと愛してるせいかな? と思っていたら
「ああ、父上と母上がずっと愛し合っているからだよ」と兄上がアリスに言った
「まあ、素敵!私もおじい様みたいに私だけをずっと愛してくれる旦那様がいいですわ」
とアリスが瞳をキラキラさせてる
「ほお、これは可愛らしいなセラ」
とシュリティお兄様がニヤニヤしながらこちらをみる
何かにつけてこの兄は、人をおちょくってくるのだ
ヴィユンティ侯爵家の次男である僕、兄上様は、侯爵家を継ぐわけだが、次男である僕は、親が程よい縁談を持ってきて婿養子になり、領地を治めるというところであるだろう
そこでよく、名前が上がってきたのがキャラウェイ公爵家だ
最初は、キャラウェイ公爵家の長女アイリーンとの縁談がすごく幼い頃に囁かれていたそうだが、彼女が早々に先日皇太子の婚約者となった そして今回新たに婚約者候補として浮上しているのがこのアリスだ
ただ、彼女は、キャラウェイ公爵の弟の娘で5歳の時に公爵家に引き取られたばかりなのだ から縁談どころではない
そして、引き取られて5年程で我が家に預けられるとはかなり深い理由がありそうだ
アリスは、雛鳥のように僕の後をよくついてくる
歳の離れた兄上と一緒に暮らした記憶もない姉しかいない僕である
つまり、子供どうしで遊んだことがない…… そんな大人ばかりの家庭に育った僕は、女の子との遊び方が分からなかった
しかし、僕の心配をよそに彼女は行動のペースが僕と似ているようで特に自分のペースを変えなくても彼女は、僕との時間を楽しんでくれ、僕自身も彼女といる時間が楽しいものとなった
今まで、淡々と過ごしていた時間に彩りが加わったようである
アリスが母上と過ごす時間以外は、毎日欠かさず僕の剣の鍛錬をみたり、一緒に彼女も鍛錬に参加していた
図書室で本を一緒に読みそして、邸宅の近くにある森にもふたりで遊びに行ったりしていた
夜はいつの間にか、彼女と一緒に本を読みながらそのまま寝てしまうこともよくある事である
彼女と時間を長く共にしていると徐々に気がついた事があった。
なぜか、彼女の回りが色々な光がぽよぽよとまとわりつくように集まってくる
「アリス、また光がまとわりついているよ」
「お兄様! 精霊達が見えるの? 」
「え? 精霊? 光ってるぽよぽよと飛んでいるそれが? 」
「きっと、お兄様もウィルみたいに出逢えるよお兄様の精霊に ……ね
契約をしてお友達になったらはっきり精霊が見えるようになるの」
あ、またでた…… ウィル…… アリスの話によくでる名前だ
ウィル 彼の名前をだして話をするときアリスは、凄く嬉しそうに話する……
精霊の話は興味あるがそこで、ウィルがでてくるのがはっきり言って面白くない
第一ウィルは、「ウィル」なのに、どうして僕は、「お兄様」なんだ!
最初のうちは少しというか、かなり嬉しかったが最近では、「お兄様」と呼ばれる度なにか胸がズンとつらい気持ちになる……
なぜかわからないが、アリスなら「セラ」と呼んでいいのに……
そんな事を思っていたらつい、
「ふーん」
と興味なさげな返事をしながら本のページをめくる
僕の表情と空気を察知してアリスが咄嗟に違う話をしだした
「そういえば、おばあ様が今日ね…… 」
そうだった、この子は、幼くして両親を亡くして大人に預けられながら生きて来た子だった 彼女は、自分でも知らない間に周りの空気を察知して行動するのが当たり前というか染み付いているのだ
あの時の、父上の言葉がふと頭をよぎった
ああ、僕はなんて幼稚なんだ! 見た事もないウィルに勝手に嫉妬して拗ねた態度をアリスに察知されたのが凄く恥ずかしいのと、何より彼女に申し訳なく思い、かなり落ち込んだ
その事があった以降僕は、アリスの瞳を見つめ、頷きながら、話を聴くことにつとめた
彼女の話を聞き、自分の意見をいいながら、僕達は毎日の生活の中での小さな問題もひとつずつふたりで解決していくようになった
徐々に彼女も、僕には、嫌なことは嫌だといえるようになってきた(まあ、それが原因で喧嘩にもなったが)
しばらくすると僕のしていたアリスへの接し方は、つとめるということからあたりまえ、自然に……へと変わり、彼女との距離が近づいていき、僕にとって彼女が徐々に特別というよりもかけがえの無い存在に変わっていた
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