第22話 思いがけない一日

 次の休日みんなは、パートナーたちと交流会の相談に出かけたようだ


 私もノアに、相談にいかないといけないのだけどなぁ

どうやって連絡をとろうかなと思っていたら バルコニーの扉からコンコンと音がする


 小さな赤いトカゲがバルコニーの扉を叩いている


「あら、どちらの子かしら? 」

とバルコニーの扉を開けると下からノアが

「おい!」と呼ぶ声がした


「丁度良かった 連絡しようと思ってたの 待ってて」

と慌てて身支度をして下まで降りていった


 下に降りるとノアが肩にトカゲをのせて待っていた


「すまない、急に

ほら、交流会のドレス 必要だろ

今からいいか?」


「え、うん。勿論いいけど」

 ノアは、私の手を握りアカデミーの正門前までスタスタ歩き出した


「もしかして、外出する?

私届けだしてない」


「大丈夫、俺が出した」


 え? 手回しがいいというかなんというか強引というか


 アカデミー前に黒い馬車が待っていた

 この家紋は、ミラー辺境伯家の家紋

 キャラウェイ公爵家で騎士団長をしていたディアス・ミラー団長 のご実家

 長男と次男の方が流行り病で亡くなられて今はディアス・ミラーが結局辺境伯家の当主になっている


「ノアは、ディアス・ミラー辺境伯様のことご存知なの」


「ああ、留学するにあたって色々世話になっている」


「じゃあ、もしかしてウィルっていう子のこと知らない?辺境伯様の弟子なの」


「知らない」

 そういうと急にムッとした顔になった


「ねえ、怒ってるの?」


「詮索されるのは、苦手だ…… 他の男の話なんかするな」


 えー!! もしかしてやきもち? まさかね あー、でもそういうのでなくても舞踏会のパートナーにそんな話されちゃいやよね

うん、私が悪かった


「ごめんなさい、ノア 気をつけるね」


「いや、俺こそ」

そう言いながら窓の外を見るノアの耳が赤かった

  そういいながら馬車にのり、それからはノアは手を組んで目を瞑っていた


 ノアってば!眠ってしまった!?

仕方ないので、私は、外の景色や王都の街をみて楽しんでいた


 馬車が王都で一番賑やかな通りに着いた

「え、ここ カトリーヌ・ヴィセンテのお店……」


 今王都で一番人気のあるデザイナーのお店 予約も1年前でもとれないという

 ノアが先に馬車からおり、スっと手を出してくれた

 ノアにエスコートされて店にはいるとカトリーヌと店員が整列して出迎えてくれた


「あの……もしかして貸切? 」


「ああ、そのほうがいいだろう」

 いやいや、確かにそのほうがいいんですが、


「カトリーヌ、すまないが少し人払いして最小の人数でお願いできるか」


 ノアがそういうとカトリーヌが脇にいる助手に合図した

 すばやく、数人の店員は、奥にさがりカトリーヌと先程の助手だけになった

 ソファにノアと並んでかけてテーブルに置いてあったカタログをパラパラとみるが

 思いがけない展開にちっとも頭に入ってこない


 ノアを横目でちらりとみると目を閉じて腕組んでる


 ううっっ! なんかいたたまれない

 カトリーヌが私をじーっとみつめて、ふむっと首を右にかたむけた


「お嬢様 少しこちらへ」

と呼ばれてカトリーヌの所にいくとメガネを外され、髪をほどかれた


「あらあら、もったいない 輝く髪も美しいお顔も隠されていたなんて」


「あの、その、色々事情がありまして」


「お嬢様!一番美しく輝かせてみますわ! ほらノア様もこちらへ並んで」


 そういうとノアを引っ張り出して私の横に並ばさせると、サラサラと紙になにやらかきだした


「ささ、ノア様、お嬢様、どうぞこちらにおかけくださいませ

先生は、ゾーンに入られたみたいなので しばらくは、あのままですのでお茶でもお召し上がりください」とお茶とケーキをだされた


 ゾーンって……!


 しばらくすると、カトリーヌが幾つかデザイン画を描いて持ってきた


「どれも、素敵 」

 デザイン画は、どれも上品でそれでいてスタイリッシュなデザインのものばかり、

 あまり飾り付けが沢山あるものではなくどのデザインも私の好みのものであった


「そうでしょう、そうでしょう

着られる方がお二人共に素敵で美しいですもの

 こう!パァーとイメージがわいて!」


「とりあえず7着全部作ってくれ!」

 はあ? ノア何言ってるの

今一番忙しい時期のこの人に向かって !

しかも全部ってなに?

いくらかかると思うの

カトリーヌ・ヴィセンテよ!カトリーヌ・ヴィセンテ!


「ありがとうございます!

ノア様7着全部お作りしていいんですかー!」

 はぁ!?カトリーヌさん、待って何言ってるの 本当にいいの?大丈夫なの?


 助手さんみたら笑顔でうなづいてるし、訳分からないと思っているうちに

 サイズまで測り終えていた


「あ、ただこの黒いドレスとタキシードなんだが刺繍を金糸から銀糸にかえてくれ」


 わたしが一番気に入ってたドレス……

たしかに私も銀糸のほうが素敵かなって思ってた

 趣味があうだけ?

それともやっぱり私の心が読めるのかしら?

 と私は、またまと外れな事を考えていた。


「じゃあ、ドレスは、王都のヴィユンディ侯爵家に届けてくれ」


「え?」


「ああ、先日違う用事で侯爵様と話したところ、前侯爵夫妻が王都に来られるらしい

 アリスのドレス姿みせてあげたい

支度もしてあげたいと頼まれた」


「ヴィユンディ侯爵様ともお知り合いなんですか」


「ああ、留学するにあたって色々世話になってな」


 また、ノアったらそればっかり 詮索するなって言われても気になるよ

 まあ、この国の有力貴族の力を借りて他国から留学しているからかな


「あ、少しだけここで待ってろ」


 そういうとノアは、店の外にでてしばらくすると帰ってきた

 手には、人気ケーキ店の箱を持っていた


「じゃあ、帰ろうか」


 帰りの馬車では、思いがけないことばかりで疲れてふたりとも馬車でぐっすり眠ってしまった

 アカデミー前に馬車がつき、馬車から降りて先程のケーキの箱をポンと渡された


「友達の分もあるから……じゃあまた」

 そういってアカデミーの門で別れた

 ノアは、スタスタと自分の寮のほうに歩いていった


 渡されたケーキの箱をみて、思い出した

 私、カトリーヌのお店に行く時馬車のなかでこのケーキ店前を通ったとき


「あ、ここのケーキ カレンが美味しいって言ってたなぁ....... 食べたいなぁ」って独り言言ってた


 でも、ノアずっと寝てたよね

もしかして起きてた?


 そう思うと顔が熱くなったけど、すごく嬉しい気持ちでいっぱいになった


 思いがけないことばかりだったけど、素敵な一日だったな

 ケーキの箱を大事そうに抱えて嬉しい気持ちでウキウキしながら

 寮までスキップしたい気持ちをおさえながら寮に帰ってきた

 帰るなり私は、クレアに叱られた


「アリス!メガネは?メガネかけずにここまで帰ってきたの?」


 つい、気が緩んでやってしまった

 しかも、入学して3ヶ月もう差程めだたないだろうと隠蔽の力も使ってない


「そんなに人いなかったし、大丈夫かな?」


「あきれた!自分であんなに言ってたくせに」

 クレアは、あきれてしまうわといいながらも笑っていた


 しかし、ちっとも大丈夫ではなかったのであった


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