リフォーム

 「あの、先輩、Yさんってどう言う人なんですか?」

 リフォーム専門の会社に入社したばかりのKは先輩に聞いた。


 職場の事務方を担当しているY氏は随分と変わった人だった。職場の誰とも会話することなく定時になるとすぐに帰ってしまう。勤務中はブツブツと独り言を言いながらパソコンから一切目を離さない。職場では浮いた存在だった。


 「ああ、Yさんね。変わってるよな。

 ああ見えても昔はバリバリの営業マンだったらしいんだよ。ほら、営業店の成績だって、Yさんの記録が今だに更新されてないらしいぜ」


 「へぇ、そんなに凄い人だったんですね。なんか今は別人みたいですけど」

 「まあ色々あったんだよ」


 Yさんがまだ営業マンとして活躍している頃、とあるリフォームの依頼を受けたのだった。

 初めは順調だったが、工事が始まるとすぐに問題が起きた。解体を依頼した業者の社長が怒鳴り込んで来たのだ。


 「どういうつもりだ!こんな仕事振りやがって!うちの従業員を何だと思ってるんだ」


 話を聞くと、解体作業中に屋根裏から古い木札が出てきたようだ。解体は終わったようだが、作業員の二名はすぐに体調不良を訴えて入院してしまったようだ。


 結局、うちの会社の社長が間に入ってくれたお陰でその場はなんとか収まったのだった。


 しかし、問題はそれだけで終わらなかった。

 その後すぐ、今度は配管を依頼した業者から辞退したい、という連絡があった。


 理由を聞いた所、配管工事を始めてすぐにキッチンから大量の爪と紙切れが出てきたそうだ。

 工程は大幅に遅れた。業界内で噂が広まったのか、次第にYの仕事を引き受けてくれる業者はいなくなって行った。


 結局、リフォームは殆ど手付かずのまま、工事は中断することになった。

 その責任を取ってYは現場から退く事になったのだった。


 暫くして、Kはあるリフォームの依頼を受けた。若い夫婦が古い中古物件を購入し、リフォームして住むことにしたらしい。


 長らく人が住んでいなかったこともあって、内装を変える前提で購入する事にしたのだ。

 契約書を事務方に回すと、Yさんが珍しくこちらを見てきた。何かを言いたそうな顔をしていたがすぐにまたパソコン仕事に戻ってしまったので気にもとめなかった。


 その後も順調に話は進み、Kは顧客の夫婦と共に意気揚々と内見に訪れることになった。

 都心から少し離れたその場所は、静かな住宅街といったところで、落ち着いた雰囲気が漂っていた。


 中古物件は少し古いが、郊外の土地であるため、比較的大きな家だった。ドアを開けて入ると妙な事に気づいた。


 内装は全て解体され、配管が剥き出しになっているのだ。まるで改修工事の途中で工事が止まってしまったかのようだった。


 嫌な予感がした。

 恐る恐るキッチンを覗いてみる。そこには大量の爪と、紙切れが落ちていた。紙にはびっしりと、『見たな見たな見たなみたなミタナミたな』と書いてある。


 一気にYさんの話を思い出した。この家だ。そう思って夫婦のいる方を振り返ると。


 夫婦は張り付いたような顔で、ニタニタと笑っていた。そこでKはパニックになって逃げ帰った。


 翌日、Yが首を吊って亡くなっているのが見つかった。例の家で、木札を体に括り付けるようにして。


 Yさん、なんであの家に行ったんだろう。


 あの夫婦はなんだったんだろう。

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