おてんばな猫姫さんよ。飼い主をナメるなよ
錦戸琴音
第1話 出会い
ある日、母が以前に飼っていた猫とよく似た三毛の子猫がいるから見に行かないかと話を持ち掛けてきた。母のいう猫は、一代前に飼っていた猫で23年間我が家に君臨していたご長寿レジェントともいうべき猫を指していた。
おっとりとした小柄な三毛猫で、長年一緒に暮らしたおかげでよく思い出話にあがる猫だった。しかし、直前に飼っていた猫を亡くしたばかりの私はすぐには行動に移せなかった。
その後も母は毎週のようにペットショップに立ち寄っては、「まだあの三毛猫が残っていたよ。」とか、「値段が少し下がっていたよ。」と報告を欠かさない姿勢にとうとう根負けした。見に行くだけ行ってみようかと母をつれて、ペットショップへ向かった。
母が言っていた子猫は一目でわかった。
二匹の三毛猫が同じケージの中で、互いに取っ組み合いしながら遊んでいる姿が愛らしく、ついぞ口元が緩んだ。
一方は黒毛が多め、もう一方は白毛が多めで対照的な子猫達だった。
「なんとなく似てるでしょ?でも白い方が可愛い顔してるのよね。」
何度も足を運んでいる母は得意気な様子でケージに近づく。
確かに黒毛の三毛猫はその毛柄こそ、飼っていた三毛猫によく似ていたのだけど、おどけた顔をしているように見えた。我が家で最長寿を誇ったあの三毛猫は美人だったぞとは思っていると、母が続けざま現実的な言葉を言った。
「黒い方がちょっと安いのよね。どっちがいいと思う?」
毛並みや顔立ちの良さで値段が変わるのは、直感的にわかる話だ。顔立ちも綺麗な白い三毛猫と迷うのはよく分かる。だが、母よ・・・連れて帰る気満々じゃないかと疑った。
そして、猫談義をしながら接客をしてくれていたペットショップのオーナーにとどめを指されるのである。
「三毛猫が出るのは珍しいからね。」
そう、猫好きなら知っている事だが、三毛猫が生まれる確率はなかなか低いのだ。
試しに抱かせてもらっている子猫は、ゆらゆら揺れる髪の毛を捕まえようと前足を伸ばしていた。それは最近亡くした猫がまだ子猫の時に見せていたしぐさと同じだった。子猫というのはそういうものなのだが、これは希望の袋小路なのか。
かくして、あっさり陥落した私は母と子猫によって、ペットロスから救われる事にはなった。
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