第6話 リースの商売

 ロックとリースは財務大臣の中西を巻き込んで、浴衣を試行錯誤の末、完成させる。リースは浴衣を着てロックに見せる。

 赤い花模様の浴衣は、赤色の髪に強い意志を感じさせる整った顔立ちのリースに似合っていた。ロックはリースの姿を見て、これが見たかったんだと涙を流しながら言う。

 「リース、とてもいいよ。苦労したかいがあったよ。」

ロックの横では中西がうなづいている。

 リースは女性店員に浴衣を着せて接客をさせる。店員の華やかな姿に、浴衣は女性客に人気が出る。王都では浴衣を着て歩く女性が増える。しかし、残念なことに皆靴を履いていた。

 まだ草履の生産には至っていないのだ。

 リースは男物の浴衣の生産に着手する。リースはロックとお揃いで浴衣を着たかったのだ。男物の浴衣は、女性の夫や彼氏が買っていく。

 ゼーテ商会は、オーナーがリースに変わってから右肩上がりに利益を出していく。これには、エッカルトとディルクが言葉を失う。

 2人ともリースは商売に失敗するものと決めつけていたのだ。またロックの妻であるリースに顔つなぎするため、貴族が頻繁に出入りするようになる。

 さらに中西がブリーフの開発を提案する。この世界ではパンツは男物と女物の区別がなく、トランクス様の物をひもで縛るようになっている。ロックは特に気にしていない。

 中西が提案したのはブリーフ派だったからだ。中西はただ布で作ればよいのではなく、質感にもこだわった。こうしてゼーテ商会の技術の粋を集めてブルーフは完成する。

 ブリーフは、人々をその肌触りとフィット感で驚かせて、すぐに街全体にうわさが広がり、他の町でもうわさされるようになる。ブリーフは大ヒット商品になる。

 他の衣料品を扱う商会は浴衣は真似ができたが、ブリーフは真似できなかった。

 ゼーテ商会は、リースが買い取った資金以上の利益をだす。さらに貴族の客が戻ってきたことで本業のドレスの売り上げが回復する。

 リースは他の町にも支店を出すことにする。リースはディルクに相談する。

 「ゼーテ商会の利益がかなり出ているから、他の町に支店を出したいと思うけどどこがいいかしら。」「コシニアはどうでしょう。商業が盛んな西の町です。」

 「では、コシニアに支店を出します。」「出店の協力を得るためにバルテル伯爵にお手紙を出されるとよいでしょう。」

 「分かりました。ディルクは処世術に優れていますから頼りにしてますよ。」「ささやかですが力になります。」

リースは、バルテル伯爵に手紙を出す。リースからの手紙はアーダルベルト・ド・バルテルを緊張させる。

 「なぜ、リース様から手紙が来るんだ。」「旦那様、中身を確認された方がよろしいかと。」

 「そうだな、だが元魔王の手紙だ。恐れずにはいられないよ。」「心中お察しします。」

アーダルベルトは恐る恐る手紙の封を切る。手紙を読んで脱力する。

 「旦那様、大丈夫ですか。」「ああ、ゼーテ商会の支店を出すから、よろしくだそうだ。」

 「では、直ちに良い物件を探すべきかと思います。」「そうだな。この機会に恩を売っておこう。」

アーダルベルトは急いで一等地に物件を探し出すとリースに手紙を出す。リースは手紙を読んでロックに言う。

 「お前様、一緒にコシニアへ行ってくれませんか。」「どうしたんだい。」

 「コシニアに支店を出すことに決めたのですがバルテル伯爵が良い物件を探してくれたのです。お礼を兼ねて物件を見たいと思うのです。」「僕が一緒していいの。」

 「お前様の国では新婚旅行と言うものがあるそうですね。」「なぜ知っているの。僕たち式も挙げていないけど。」

 「中西に聞きました。一緒に行きましょう。」「分かったよ。」

ロックとリースは2人で馬車で向かおうとしたが、ディートハルトが待ったをかける。

 「ロック、王なんだから護衛がいるだろ。」「大丈夫だよ。僕もリースも強いから。」

 「いいや、威厳に関わる。護衛は必要だ。」「分かったよ。」

ロックたちにディートハルトと45人の兵が護衛につくことになる。兵の鎧は胸と肩、腰にあるだけである。兵たちは筋肉を見せるため。鎧は最小限の所しか着けていない。

 兵は45人のマッチョ軍団だった。だが実力は折り紙付きである。こうして、ロックとリースは新婚旅行を兼ねた旅に出る。

 馬車で王城を出ると街の人々が通りに出ている。いつの間に情報が広まったのだろうか。ロックにはディルクの顔が浮かぶ。

 民衆の歓声にロックとリースは手を振ってこたえる。もちろん笑顔である。兵たちは馬上から己の筋肉を誇示して見せる。

 旅はトラブルもなく続き、コシニアに到着する。門の兵たちはロックたちに気づくとラッパを吹く。すると町の通りに住民が出て来て歓声を上げる。

 ここでもロックとリースは手を振る。バルテル伯爵邸に着くとアーダルベルトが出迎えに出ていた。

 「リース様だけではなくロック様までお越しになられるとは光栄です。」「アーダルベルト様、ご迷惑をかけます。そして、協力に感謝します。」

 「ありがたいお言葉です。中へお入りください。料理を準備しております。」「ありがとうございます。」

ロックたちはバルテル伯爵邸に滞在することになる。バルテル伯爵との食事はロックとリースが招かれる。ディートハルトと兵たちは別室で食事をする。アーダルベルトは言う。

 「ついてこられたの護衛はディートハルト様たちとお見受けします。どうか、私どもの兵と試合をしていただけませんか。」「そうだね。兵たちの交流も必要だ。」

ロックが承諾すると明日は兵たちの試合がおこなわれることになる。食事の後、ロックはディートハルトと話をする。

 「食事はどうだった。」「豪勢な食事が出ましたよ。」

 「アーダルベルトの提案で、明日、兵たちの試合をすることになったよ。」「アーダルベルトは、兵の力を誇示したいのでしょう。」

 「バルテル伯爵の兵は強いの。」「バルテル伯爵の剣と言われるレオナルト・ヘルダーを筆頭に猛者ぞろいで有名ですよ。」

 「彼は自分の力を誇示したいのだね。」「ですが、我々の方がはるかに強いですよ。」

ディートハルトは自信を持って言う。確かにマッチョ軍団は力では負けないだろう。だが、剣の腕はどうか気になる。

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