第15話 ゴブリン進化する

 ゴブリンたちは、小人たちが建てた宿舎に寝泊まりしている。ある日、ヤコブ隊長が起きると体つきが変わっていた。彼は身長が高くなり、体も筋肉質になり、顔も精悍な顔立ちになっていた。

 ゴブリンたちは騒ぎ始める。

 「ヤコブが変わってしまったぞ。」「訓練のしすぎじゃないのか。」「でもいいな。」

朝から宿舎が騒がしいので、グラムとフールが様子を見に行く。ヤコブが困ったように言う。

 「グラム様、フール様、朝起きたらこんな風になっていました。」「ホブゴブリンだね。」「進化したんだ。おめでとう。」

 「進化ですか。」「経験と実戦を重ねたからホブゴブリンになったのさ。」

ヤコブはホッとする。他のゴブリンたちはうらやましがる。それからゴブリンたちは次々とホブゴブリンに進化し始める。ゴブリンのままの者たちは訓練に身を入れる。

 彼らも早くホブゴブリンに進化したいのだ。しばらくすると全員ホブゴブリンになる。

 ホブゴブリンに進化すると力と俊敏性が大きく高まり、知性も高くなるようだった。このためゴブリン部隊は全体が戦力の底上げになる。

 中西はホブゴブリンに負けないように訓練をしていたが、ヤコブ隊長に勝てなくなる。このため中西はゴブリン部隊の副隊長の地位に納まる。

 ロックは剣の型の矯正が終わり、打ち込みの訓練に入る。ゴブリンたちがロックの打ち込みを受けるのだがゴブリンたちはつぶれてしまう。

 ホブゴブリンに進化してもロックの化け物じみた打ち込みを受けることはできなかった。ロックの相手はリースがやることになる。ロックが慌てて言う。

 「リース、ケガをするかもしれないから、危ないよ。」「お前様は、我を傷つけることが出来ると思っているの。」

 「リースが強いことは知っているけど、やっぱり危ないよ。」「お前様、我にキズを負わすことが出来たら、キスしてあげる。」

 「キス!」「そう、キスしてあ・げ・る。」

リースはロックの顔を覗き込むようにして言う。かわいい!最高だよリース。キスしたい!

 「リース、キスさせてください。」「お前様、打ち込みの訓練よ。」「分かっている。打ち込みだよね。」

ロックはすっかりテンションが上がっている。すぐにロックをリースの打ち込みの訓練が始まる。ロックが撃ち込もうとするがリースの構えはりんとして隙が無い。

 全然隙が無いなー、でもやっぱりきれいだな。剣を構えるとかっこいいし、リースは最高だなー

 「お前様、雑念が入っている。集中して。」「はい。」

リースは打ち込めるようにわざと隙を作る。これにロックが反応して剣を打ち込む。2人の打ち込みげいこは続けられる。

 中西とホブゴブリンたちは試合げいこを始める。2人一組になって戦い勝者が戦っていく。最後に中西とヤコブ隊長が戦うことになる。

 中西はホブゴブリンと比べると体格が小さい。彼はそのハンディを埋めるため、身軽さを利かして素早さを武器にする。

 ヤコブがリーチを生かして打ち込むと中西は懐に飛び込む。ヤコブが右にかわしながら木剣を逆手に持ち代えて中西の打ち込みを受ける。さらに空いた左こぶしで中西の腹を狙う。

 中西は読んでいたのか後ろに飛んで避ける。ヤコブは上段に構えて、姿を大きく見せることによって中西を威圧する。中西はひるまずヤコブの間合いぎりぎりの所を回って隙を伺う。

 ヤコブは、わざと隙を作って中西を誘う。中西は分かっていたが飛び込む。そこへヤコブの上段からの打ち込みが来る。中西は木剣で斜めに打ち込みを受けてそらすとヤコブののど元を狙って突きを放つ。

 ヤコブは上半身を右に傾けて突きをかわすと木剣を逆手に持ち替え、中西の背中めがけて突き下ろす。中西は地面を転がり距離を取る。

 中西はすぐに起き上がりヤコブに向かって走る。ヤコブは、体のリーチを生かして木剣を振り下ろす。しかし、そこには中西はいない。中西は体制を低くして潜り抜け、ヤコブの足を狙う。

 木剣がヤコブの右足の向こうずねに撃ち込まれる。ヤコブは痛みに耐えながら中西の背中に木剣を振り下ろす。中西は地面に打ちつけられる。

 勝敗はヤコブに上がるが右足の向こうずねがはれ上がりフールにヒールしてもらう。観戦していたホブゴブリンたちから歓声が上がる。勝ったのはヤコブ隊長だが中西が賞賛される。

 「中西、よくやった。素晴らしい一撃だ。」「ヤコブ隊長を殴ってくれてありがとう。」

ホブゴブリンたちは、ヤコブに打ちのめされるだけで、誰もヤコブに一撃を入れられないので、中西が入れた一撃で溜飲りゅういんを下げたのだ。ヤコブが言う。

 「勝ったのは俺だぞ。褒めろよ。」「勝って当たり前でしょ。」「隊長、えらいえらい。」

ゴブリン隊の中から笑い声があふれる。グラムとフールはゴブリン隊が良い方へ成長していると感じている。


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