第11話 召喚者の末路

 ロックは橋本と話をしながら帰り道を歩く。

 「橋本さんは日本で刀を作っていたのですか。」「刀も打てますが、多くは包丁や農機具などを打っていました。」

 「そうですか。こちらでも仕事はできますか。」「材料と道具があればいのですが・・・」

 「それは後から考えましょう。」「私にはそのくらいしか能がないですからお願いします。」

エスリムがロックに言う。

 「そういうことはグラムに話すといいわ、作業小屋と道具を何とかしてくれると思うわ。」「エスリムさん、ありがとう。」

しばらくすると森が開けてログハウスに戻ってくる。橋本が驚いて言う。

 「森の中に住んでいるのですか。それに立派な家だ。」「この世界としては、人並みの生活をしていますよ。」

 「私は、この世界では牢獄しか経験していませんよ。」「酷い扱いだな。」

ロックは、バシュラール王家のやり方に怒りを覚える。ログハウスに到着するとリースが迎えに出てくる。

 「お前様、エスリムの胸はもめなかったようだね。」「リース、分かるの。」

 「お前様の様子を見れば誰でもわかりますよ。それよりお客さんですか。」「ああ、橋本喜一さん。僕と同じ日本出身で刀鍛冶なんだ。」

 「橋本さん、こちらはリース、僕の嫁です。」「ロック君のお嫁さんか、きれいな人だね。」

 「グラムさん、橋本さんと相談して、作業小屋と道具をそろえて欲しいのだけれど。」「婿殿の頼みならやらせてもらいますよ。」

グラムと橋本は話し込み始める。ロックは今日の反省を始める。エスリムは手加減をしてくれていたようだけど、全く反応で来ていなかったな。見ると同時に動くか、どうすればできるのだろう。エスリムは水の斬撃を見せてくれている。とにかく反応するんだ。

 夕食の席で橋本は紹介され、みんなに迎え入れられる。翌日には、グラムと橋本は作業小屋を作り始める。フールの使い魔の小人が働いている。

 数日で作業小屋は完成する。この間、ロックはエスリムの胸を揉むため頑張っているが水の斬撃をかわすだけで進歩していない。

 それはロックが思っているだけだった。本当は、エスリムは水の斬撃のスピードをロックに気づかれないように速くしていた。

 数日だけで、ロックのスピードはかなり速くなってきている。


 バシュラール王国の城では、ディートハルトがゾフィー女王に進言する。

 「勇者召喚を行っていると聞き及んでいます。もう、勇者は必要ないと思います。」「何を言っているのです。魔王アンネリースは生きているのですよ。」

 「オルドビスの森へ追放したではありませんか。」「それでは安心できないのです。ロックともども死んでもらいます。」

 「約束が違いますよ。」「あなた方も新しい勇者を召喚したらパーティーを組んでもらうのですから、腕を磨いておいてください。」

ディートハルトはゾフィーに何を言っても無駄だと感じる。ディートハルトは戻るとヨーゼフ、アデリナ、ティアナに話をする。

 「おいおい、今度はロックとも戦うのか。気が進まないのう。」「めちゃくちゃじゃないの。アンネリースが怒ったらどうするつもり。」

ヨーゼフとアデリナは不平を言う。

 「私は戦いたくないわ。」

ティアナは本音を言う。

 ゾフィー女王は、魔術師を集めた部屋で召喚の儀式を行う。魔法陣が光出し、空気が震え始める。光はまばゆくなり、空気は渦を巻く。光は急に消え静かになる。

 魔法陣の上には、中年の男が立っている。ゾフィー女王が魔術師に聞く。

 「今度は、どうじゃ、歳が高いようだが・・・」「失敗です。能力値が低いです。」

 「牢へ閉じ込めよ。後でオルドビスの森へ追放じゃ。」「はい。」

ゾフィー女王は去って行く。中年男は言う。

 「何で追放なんだ。」「能力が低いからです。」

魔術師が言う。

 「お前たちがここへ連れてきたんだろ。元の所に返してくれ。」「帰ることはできません。だから廃棄するのです。」

 「廃棄だって、俺をゴミみたいに・・・覚えていろ。必ず仕返しをしてやる。」「さっさと連れて行きなさい。」

中年男は兵に取り押さえられて牢へ連れられて行く。1週間後、中年男は馬車でオルドビスの森に連れて来られた。

 他に男が3人いる。彼らも同じく追放となったのだろう。兵が剣に手をかけて言う。

 「さっさと森に入れ、出てくるんじゃないぞ。」「おい待て。何もなしで森に入るのか。」「当たり前だろ。」

兵たちが笑って見ている。中年男が言う。

 「お前たちの剣をくれ。そうしたら入ってやる。」「何様のつもりだ。」

兵たちが中年男を足でけり、うずくまったところを蹴り続ける。他の男が言う。

 「死んでしまう。やめてくれ。森に入るよ。」

兵たちが中年男を蹴ることをやめると男たちに言う。

 「言うことを聞いていればいいんだ。そこの倒れている奴も連れて行けよ。」

中年男は、2人の男に担がれて森へ入る。男たちは休めそうなところを見つけると中年男を木の幹にもたれかけさせる。

 「大丈夫ですか。」「ああ、何とか生きているよ。このままでは足を引っ張るから置いて行ってくれ。」

 「それでは死んでしまいますよ。」「俺はあいつらに復讐してやると決めているんだ。死なないよ。」

 「分かりました。私たちで復讐しましょう。」「ああ。」

しばらくして、男2人が食べ物と飲み水を探しに行くことになる。2人は暗い森の中を歩く。

 「まずは、川か泉を見つけよう。」「そうですね。水の確保が必要ですし、水辺なら動物が集まってきますね。」

2人が話しを始めると前方の茂みが揺れる。

 「何かいますよ。」「気を付けて。」

茂みからソードボアが飛び出してくる。男の太ももにソードボアの長い牙が刺さる。もう1人の男がソードボアに組み付くが力が強く、振り落とされる。

 もう1人の男は起き上がろうとしたところをソードボアの牙に胸を刺される。即死である。太ももを刺された男も出血がひどく力尽きて倒れる。

 中年男は眠りについていた。残りの男が見張りをしている。中年男が目を覚ますと男の頭上に真っ黒なブラックスネークがゆっりと降りてきている。

 「蛇だ。逃げろ。」「へっ。」

男の上にブラックスネークが落ちる。ブラックスネークは10メートルはある。ブラックスネークは男に巻き付く、中年男がはがそうとするが力が強くてびくともしない。

 「あがあぁぁぁーーーー」

男が苦しみの声を上げる。ボキッ、バキッ骨が折れる音がする。ブラックスネークは男を頭から飲み込み始める。

 中年男は男を諦め、足を引きずって逃げ始める。どのくらい逃げただろうか、目がくらみ始めて倒れる。男は最後に小人を見る。


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