カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが???

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第1話


「俺はターンエンド。これでお前のEL(エナジーライフ)は残り500!万事休すだ、神引スルメ!」

「そんなっ!スルメちゃん!」


 幼馴染の霊泉スズが目に涙を浮かべながら叫んだ。艶やかな黒髪がなびくさまは大和撫子の美少女と言っても差し支えないだろう。しかも小学生とは思えない豊満なバスト。まさに私の理想のお嫁さんだ。

 私を心配してくれている愛しの幼馴染のもとに今すぐにでも駆け寄ってナデナデしたいが、カードバトル中である以上そうはいかない。

 目の前のVRビジョンには、筋肉ムキムキの巨大ゴリラ。その後ろには、愛しのスズからカードをカツアゲしたチンピラ野郎が仁王立ちしていた。

 私は強風で乱れた髪を整えるとチンピラをキッと睨みつける。


「さっさとサレンダーしな!そうすりゃ特別に3枚カードを寄越すだけで許してやるよ!」

「まだ勝負は決まっていない」

「どう考えても逆転は無理だ!所詮、女にカードバトルなんてできっこないなのさ!」


 チンプラ風ミニリーゼントの鈴木何某は、勝利を確信したのか下卑た笑みを浮かべてオラついてくる。

 まったく、これだから単細胞は困る。たかだかAP(アタックポイント)2500のアタッカー1体でイキるなんて。

 だがマイ・エンジェルことわが幼馴染を泣かせた罪は重いぞ。左腕に装着したバトル・ユニットのカードホルダーから1枚ドローする。


「私のターン。山札からカードをドローしてメインシーンに移行。相手の場にのみアタッカーが存在するとき、私は手札からアタッカー【JKガールズ・炎激のホムラ】を特別召喚できる。【JKガールズ・炎激のホムラ】を特別召喚」


 バトル・ユニットのカードプレートに1枚のカードを置くと、目の前のVRビジョンにアタッカーが登場した。

 ドレス姿の天真爛漫な金髪ポニーテール美少女は、ウィンクしその場で1回転すると魔法ロッドを構える。いわゆる「ニチアサ」(日曜日の朝)の時間帯に放送される女児向けアニメに出てきそうな魔法少女モチーフのキャラクターだ。ホムラの特別召喚に鈴木君は驚愕する。


「なにぃっ!?1ターンに1回分しかない召喚権を使うことなくアタッカーを特別召喚で場に出すなんて!?だが所詮はAP1000の雑魚女アタッカー!俺の場の【マッスル・エース】は倒せないぜ!しかもスペルを2枚も伏せている!まさに鉄壁の布陣だ!」


 いちいち説明くさいな。流石ホビーアニメの世界だ。

 たしかにAPの数値が上回らないと相手のアタッカーを墓地に送れないし、相手のELにもダメージを与えられない。APという観点だけで見れば、私のJK(ジャスティス・ナイト)ガールズのカテゴリは決して強くはないだろう。だが手札にはすでに強力なスペルカードが揃っている。さっき引いたアタッカーもあわせれば、私の勝ちだ。


「私は手札から、スペル【道連れスーサイド・ロープ】を発動」


 スペル発動を宣言した瞬間、肩をびくっと揺らしたホムラはギギギとぎこちない動作で振り向く。先ほどまでの笑顔は失われ、怯えた表情を浮かべている。すがるような眼で見つめてきたので、私はにこりと微笑んでやった。

 ご明察。お前は生贄になるんやで。


「まずは場の【JKガールズ・炎激のホムラ】を生贄に捧げる」


 私の宣言と同時に魔法少女の首を吊るさんと禍々しい縄がカードから飛び出した。

 いやだぁあああ、と叫びながらホムラは逃げ回る。遅延行為やめろ。これで何回目だよ。

 スペルが発動している以上、結局のところ効果は処理される運命なのだから無駄な足掻きだというのに。

 僅かな隙を突きホムラの首に巻きついた縄は、力強く彼女の身体を空中へと吊るし上げた。最初は苦しそうに足をばたつかせていたが、徐々に顔色が悪くなり、魔法少女は動かぬ首吊り死体と化した。VRビジョンを見ると、少女の顔は青紫色に変色しており、色々な汁を口や股下から垂らしていた。中々、恥ずかしくて醜悪なオブジェだ。

 そんな凄惨な光景を目の当たりにした鈴木はたまらず屈み込むと嘔吐した。グロ耐性ないんか?よく対戦してくれるスズは余裕だったぞ?私が結構、頻繁にスペルで吊るしたり首跳ね飛ばしたりしてるからかな。

 そんなことを呑気に考えていたら、鈴木に罵倒された。


「お前っ!人の心とかねぇのかよっ!?どうしてこんな酷ぇことをっ!」

「勝つためだけど?」

「お前は人間じゃねぇ!この外道サイコパス女!勝つためなら自分のアタッカーにどんなことしてもいいって言うのかよ!?」


 当たり前だろ。

 てかマイ・エンジェルからカードを奪っているくせに、人の心とかほざくな。

 人権派気取りの鈴木を無視し、私は効果処理を続ける。カードに人権とかないから。


「このとき【JKガールズ・炎激のホムラ】の効果発動。場にいるホムラが墓地に送られたとき、相手の場のスペルを2枚まで墓地に送り、相手ELを1000ポイント減らす」

「ぐわぁああ!俺が伏せていたスペルを全て破壊するだけでなく、満タンだったELを3000ポイントにまで減らしやがった!」

「次に【道連れスーサイド・ロープ】の効果で、お前の場に存在するアタッカー【マッスル・エース】を墓地に送る」

「そんなっ!?俺のエースカードが!」


 AP2500のアタッカーがエース?面白い冗談だ。


「まだ終わらない。私はスペル【許されざる実験】を発動。墓地の【JKガールズ・炎激のホムラ】をゾンビ族アタッカーとして蘇生する」

「なんだと!?魔法戦士族アタッカーの種族を変えるなんて!?一体何をするつもりだっ!」


 お前を倒すアタッカーを出すのさ。

 私の場に、死臭と蠅をまとったホムラが再登場する。皮膚は腐り、所々骨が露出し、緑色の液体を目・鼻・口からこぼしている。両腕を伸ばしよたよたするさまは滑稽だが中々グロテスクだ。それはとてつもなく醜悪な姿で一乙女としては、ああはなりたくないと考えてしまう。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。ホムラの尊い犠牲を無駄にしないためにも、早く目の前のチンピラを潰さねば。


「場に1体のゾンビ族アタッカーがいるとき、そのカードを墓地に送ることで、アタッカー【アンデッド・パニッシャー】を生贄召喚できる。あらわれろ!屍を貪る暴虐の処刑蟲、アンデッド・パニッシャー!」

「バカなっ!?AP3000のトップグレードアタッカーを、たった1枚のコストで生贄召喚だとぉ!?」


 その通り。

 本来トップグレードアタッカーは、自分の場のアタッカー2体を墓地に送らないと生贄召喚できない。

 対して、アンデッド・パニッシャーはゾンビ族のアタッカー1体で生贄召喚できるという効果を持っている。だからゾンビ族としてホムラを蘇生する必要があったんですね。

 ゾンビ化したホムラの腹を食い破って禍々しい芋虫のような化け物が、全長3メートルくらいに急成長し、私の場に登場した。AP3000のアタッカーに恐れをなした鈴木は、尻もちをつき後ずさる。


「バカな……ハイパートーキョーの新十区立第10小学校最強の俺が……こんなチビ女に……っ!」

「ファイトシーンに移行。【アンデッド・パニッシャー】で直接攻撃」

「ぐわぁああああああっ!」


 豪風を巻き起こすとともに、鈴木のELはゼロとなった。

 私の勝ち。

 勝者の特権を行使して、気絶した鈴木君のポケットをあさる。そもそもアンティ・ルールで挑んできたのはこのチンピラだしね。


「はい、スズのカードこれだよね?」

「ありがとう!スルメちゃん!」


 鈴木から奪った3枚のカードをわが幼馴染へと手渡す。いずれも元はスズのカードだ。

 感極まったスズは、私を抱きしめナデナデしてくれた。うへへ。


 カードゲームが絶対的な力を持ち、小学生だろうが社会人だろうが老人だろうが、老若男女の誰もがあらゆる場面でカードバトルに興じる。これは、そんなホビーアニメの世界を生きる私たちの物語である。

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