自然科学の詩

ばーでーん

荒波に立つ電子、マイムマイム電子

金属の中の電子の話です。

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金属の中では電子が自由に流れる

温度で決まる原子核の振動が起こる


電子は原子核の振動で散乱される

電子は原子核の散乱で電気抵抗をもつ


電子はまるで海に出たボートのよう

原子核の振動という荒波を進んで

沢山の電子は近くに遠くに電気を運ぶ



金属の中では電子が自由に流れる

極低温では原子核の振動がおさまる


原子核は電子の運動で振動する

別の電子が原子核の振動で向きを変える


電子はまるで海に出たボートのよう

原子核の振動のない静寂な海を波立てて

二つのボートは近づいたり遠ざかる



二つの電子が近づくとペアになる

二つの電子のペアをそのまま散乱できない

二つの電子のペアには電気抵抗がない

こうして金属は超伝導になる



電子はまるで海に出たボートのよう

原子核の振動のない静寂な海を波立てて

電子は近づいた電子にペアを変える


電子は一斉にペアを変える

電子はマイムマイムの調べに乗って



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お読みいただきありがとうございます。

以下、本作の注釈です。興味がありましたらどうぞ。


注1: 金属の中では電子が自由に流れる

 金属の中には自由に金属の中を移動できる電子がいます。この電子が電流を流します。

注2: 温度で決まる原子核の振動が起こる

 星が温度に応じた光を出すように、物質も光を出します。ただし、室温では赤外線なので、目には見えません。赤外線は、原子核の振動が発します。

注3: 電子は原子核の散乱で電気抵抗をもつ

 電子は、原子核の振動にエネルギーを奪われて、速度が落ちます。これが電気抵抗です。原子核の振動が大きくなります。よって、金属に電流を流すと熱くなります。

注4: 原子核の振動という荒波を進んで

 室温では、原子核の振動が大きくて、散乱されます。

注5: 極低温では原子核の振動がおさまる

 絶対ゼロ度に近づくと、振動がかなりなくなります。

注6: 原子核の振動のない静寂な海を波立てて

 室温の電子は、温度で波立った原子核の振動をかきわけて、進むのに対して、絶対ゼロ度に近づくと、波がおさまります。波のない海では、ボートを漕ぐオールがつくる波が顕著になるように、電子自身が、原子核の振動を起こします。

注7: 二つの電子が近づくとペアになる

 二つのボートのオールの波でボートは近づいたり離れたりします。金属の中では電子が混雑しているので、どこかに、自分に近づくペアとなる電子を見出します。

注8: こうして金属は超伝導になる

 原子核の振動は、ペアとなった電子を一緒に散乱することができないので、電子のペアには電気抵抗がありません。

注9: 電子は一斉にペアを変える

 電子は近づいたり遠ざかるので、ペアとなる相手は、刻々と変えます。一斉に集団運動のようにペアを変えます。

注10: 超伝導についての補足(1)

 本作では、電気抵抗がなくなることを超伝導状態としました。厳密には不十分で、マイスナー効果が生じる必要があります。よく、実験動画で、液体窒素で冷やした超伝導体の上に磁石を置くと、磁石が浮くやつです。理論上、電気抵抗がゼロであれば、マイスナー効果も起こる訳ではありません。ただ、現在のところ、電気抵抗ゼロでマイスナー効果が起こらない物質は見つかっていないので、電気抵抗ゼロを超伝導と考えて差し支えないと思われています。

注11: 超伝導についての補足(2)

 本作の対象とする超伝導体は、室温では通常の金属で、超伝導になる転移温度が概ね20K以下の金属です。これらの金属の超伝導特性はBCS理論(発見者、Bardeen, Cooper, Schriefferの頭文字)に従います。電子のペアは、Cooperペアと呼ばれます。セラミクス系の転移温度40K以上の高温超伝導体は、この理論では説明できず、未だに解明されていません。


以上、マニアックな注釈にお付き合いありがとうございます。


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