第10話 高瀬くんと佐々木さん
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私は、中学時代から男子と関わることが苦手だった。
私と仲の良かった女友達が付き合っては別れてを繰り返して、別れるたびに元カレの悪口を言っているのを聞いていると、「恋愛は興味あるけど、消耗しそうだな」と思っていた。そして、そうやって別れるとすぐ悪口を言う女友達と仲良くしているのも、少し消耗するなぁと感じていた。
人と深く関わることはきっと大事なことなんだろう。でもその結果自分が疲れてしまうのは見当違いかなと思って、自分のことを話すことは少なく、人の話ばかり聞くような人間関係を気づいてきていた。
でも、彼、高瀬悠斗だけは違っていた。
高校になってこの中高一貫校の学校に入学してきた高瀬くんは、私の所属している吹奏楽部に入部してきた。
彼はもともとフルートを中学時代吹いていたらしく、本当はフルートパートになりたがっていたが、同い年の代にすでにフルートパートがいることを知ると、どのパートでもいいと言って、同級生のいないクラリネットパートに所属することになった。
クラリネットを吹くことになった高瀬くんは目覚ましいほどの成長を遂げ、すぐに高校二年生の先輩に匹敵するほど上達していた。そして、先輩にも認められて指揮を振る役職である「楽典」になることになった。
学年が上がって、私たちが最高学年になったとき、新入生のパート分けを決める会議で、フルートパートは1人だけ入れようと綾華ちゃんが言った。
本当は、去年引退した人数を考えると3人欲しかったが、そうは言い出せず肯定しようとした時、
「佐々木さんはそれでいいの?去年2人引退しちゃったし1人は結構厳しくないか?」
と、高瀬くんが声をかけてくれた。
私が思っていたことをそのまま言ってくれた高瀬くんにびっくりして、部活が終わったあと声をかけてみた。
「高瀬くん、さっきはありがとう!なんで私が言いたかったことがわかったの?」
と言った私に高瀬くんは笑いながら
「やっぱそう思ってたんだな。
佐々木さんはあまり自分の思ってることを言わないだろ?だから、綾華に何か決められたら絶対に反論しないって思ってたんだよなぁ」
と言っていた。
あまり深く関わったことがなかったけれど、高瀬くんは、他の人と少し違っていた。言葉にしなくても、何かに気づいてくれるような、そんな人だった。
それが「好き」かどうかなんて、正直よく分からなかった。ただ、彼と話すのは少し楽で、自分を無理に演じなくてもいい気がした。
ある部活が終わった帰り道、私は高瀬くんと話していた。
「高瀬くんはなんでそんなに人のことをしっかり『見る』ことができるの?」
「うーん、別にそんなことないと思うけどね〜。佐々木さんのことは気にしちゃうんだよな」
「もー、そういうこと言ってると、周りの人に私のことが好きだって勘違いされちゃうよ?」
「っ…」
「え?」
まさかと思った。私は高瀬くんの方を見ると、彼の顔は夕焼けの反射とは別の、赤みがかった色に染まっていた。
「やっべ、俺今絶対誤魔化し方間違えたな!?すっごいわかりやすい反応した気がする!!!うっわ!」
ものすごいテンパり方をしている高瀬くんに流石に笑ってしまう。
「そういうことなんだ?」
「これもういうしかないよな…」
「ふふっ、そうだね」
「はあ……、
佐々木さん、僕は佐々木さんのことが好きだ。
付き合ってください。」
私は少し、思案する。
私のこの気持ちはきっとまだ恋愛感情じゃない、だけど…
「私は多分まだ、高瀬くんに恋愛感情を持ってない。でも好きになるように努力するよ。それでもいいかな?」
彼は満面の笑みで頷いた。
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