第10話◇乙女のファーストキス、いただきます♪◇

彩葉いろは、キスしたい」

「もう、あんまりからかわないのっ」


「からかってるように見えるのか?」

「見えるわよ。亮君昔からそうやって私のことからかって楽しむんだもん」

「ひょっとしてキスしたことないとか?」


「ば、ばかなこと言わないでっ! そのくらい経験あるわよ」


 嘘だな。彼女の心は明らかに動揺している。

 どうやら心の声は強く思ったことほど聞こえやすいらしい。


 彩葉いろはの瞳は動揺に揺れて忙しなくあちこちを動いている。


 俺は身を起こし、彼女の手を握ってみた。

 柔らかくて熱い手の平は汗ばんでおり、彼女の焦りが文字通り手に取るように分かった。


「これが冗談を言ってる目に見えるか?」

「あうあう……」

「なあ誰だよ」

「ぇ、え? な、何が?」

彩葉いろはとキスした羨ましい野郎は誰なのかって聞いてるんだ」

「そ、それは、その」

「嘘なんだろ? 経験あるなんて」

「う、嘘じゃないわよ」


 いーや嘘だ。それが分かると同時に安心もしていた。


 サブヒロインとはいえ、全年齢恋愛シミュレーションのキャラクターが非処女なんて許される事じゃない。


「ど、どうしたの亮君、怖いよ」

「悪い……なんかめちゃくちゃ嫉妬してるわ俺」

「え、ええ、りょ、亮君、ちょっと」


 俺はヤキモチを焼いた子供みたいな態度で彩葉いろはの体を強く抱きしめる。


 そしてそのまま床に押し倒し、両手を押さえつけて顔を寄せてみせる。


 ゼロ距離に顔を詰められた彩葉いろはは微かな怯えと、強い興奮を覚えていた。


(迫られて喜んでやがる。やっぱり亮二のことが好きなんだな)


「なあ彩葉いろはッ」

「りょ、亮君??」

「誰だよ彩葉いろはッ。お前は誰とキスしたんだよっ、なあっ!」

「お、落ち着いて亮君ッ、ごめん、嘘だから。まだ、経験ないから」

「本当に? 誰とも? 女はノーカンとかそういうのは受付ねぇぞ」

「本当だってば。誰ともキスなんてしてないよ。ぁ、でも」

「でも? なんだよ」

「小っちゃい頃、亮君とお嫁さんごっこした時に、した……かも」


 そういえば亮二の幼い記憶にそういうのがある。ほっぺだが。


「じゃあアレが最初で最後か?」

「うん、そうだよ……亮君、もしかしてヤキモチ焼いてる?」

「わりぃかよ。好きな女が他の男とキスしてたなんて聞いて冷静でいられるわけねぇだろうがっ」


 子供じみた癇癪を演じてみせると、彩葉いろはの目に微かな喜びが浮かび上がるのが分かった。


 ここはこのまま幼馴染みを盗られて癇癪を起こしている弟を続けさせてもらおう。


「嘘だよ……亮君だって他の女の子と沢山キスしてる。それ以上の事だって、してるくせに……今更私なんかに嫉妬するわけないもん」

「そんなの関係ねぇよ。本気の思いを込めてキスしたい女なんて……」

「ほ、本当に?」

「ああ」

 

 実はこれは本当だ。俺の中に残っている霧島亮二の記憶の中に、確かに鬼沢彩葉いろはに対する淡い心が残っていた。


 確かにクソみたいな男だったようだが、それなり純情な時代があったということだ。


「だったら、大丈夫だよ。私、男の人とキスなんてしたことない。そういう事だって、経験ないもん」

「本当に?」

「本当だよっ」

「まだ信じられねぇ」

「そんなこと言われても、証明なんてできないよ」


「じゃあ確かめさせてくれよ」

「た、確かめるって、どうやって?」

「そんなの1つしかないだろ? 彩葉いろはが処女かどうか、確かめれば済むことだ」


「ふえぇえっ、しょ、処女かどうかってっ! だ、だめだよっ!」

「俺とはそういうのしたくねぇって?」

「そ、そんなこと、ないけど……こんな形じゃ、嫌だよ」


 まあそりゃあそうだ。こんな風に迫られて折れるような女じゃない。


 幼馴染みの、好きだった男に迫られても、一線を守る理性は残っている……が、エロ同人の前には無意味だ。


 俺の言葉は彩葉いろはの中にどんどん根付いていく。

 どうやら声の音波に欲情を高めて警戒心を緩くする波長が含まれているらしい。


 彩葉いろはどんどん俺の言葉に抵抗しなくなっていく。


彩葉いろは……、俺さ、ちゃんと好きだぜ? 今までバカやってきた分、ちゃんと前を向きたいんだ。俺に勇気と優しさをくれよ」

「ぁう……ズルいよ亮君。そんなこと言われたら、断れないじゃない」


 折れた。実に充実した時間だった。

 それに、やはりこのスキルはセックスしたいという俺の意思を実現させる方向に発動するようにできているらしい。


 彩葉いろはは言葉以外の抵抗力をすっかり失っていた。


 このまま押し切ってもいいが、せっかくなら亮二と彩葉いろはの恋を実らせたと思ってもらうために、彩葉いろはの方から積極的になってもらうとしよう。


「じゃあ彩葉いろは、俺からは何もしないから、そっちからしてくれよ」

「す、するって、何を?」

「怒るぜ?」

「わ、分かったわよ……。本当に、ファーストキス、だからね……んっ」


 自ら身を乗り出し、彩葉いろはの唇が触れてくる。

 ほんのりと触れるだけのキスだったが、確かに唇に触れた。

 だけどこんなことで満足してもらっては困る。


「もう終わり?」

「ちゃ、ちゃんとするから……!」


 ついばむように幾度も唇を押し付けてくる彩葉いろはだが、そこから先へは中々進んでくれない。

 

 焦れってぇな。口を開いてるのに舌の一つも入れて欲しいもんだが……本当にウブなんだな。


 慎ましい女は好みだが、刺激としては物足りない。


彩葉いろは、もっと、舌入れて強くねぶってくれよ。物足りねぇ」

「う、うん。こう、ふぁな?」


 彩葉いろはが逃げられないように肩に手を回す。


 ビクリと震えた体を抱きしめ、段々俺の方から舌を絡ませるようにしてやると、興奮を強くしながら、段々と積極性を増してくる。


 ようやく受け入れたらしい。


 ちなみにまだ催淫などのエロい気分になるスキルは使っていない。


 パッシブスキルとして発動している【警戒心解除】が心の壁を薄くしているのみだ。


 ギャルギャルしい見た目をしているのにウブなことだ。

 本当に男慣れしていないギャップがたまらん。


「本当に男慣れしてないんだな。ギャルなのに」

「そ、それはっ、関係ないでしょっ。この格好だって、亮君が、好きかなって思って」

「俺が? なんで?」

「だ、だってっ! こういう格好の女の人、いつも連れて歩いてたし」


 ああ、確かにセフレでギャルの女はいるな。


 霧島こいつも別にギャルが好きな訳ではなく、ヤレる女がギャルの格好をしていることが多いだけだ。

 

 この辺の女関係の清算もそのうち考えないといけないな。

 

 俺は霧島ではない。こいつのセフレになんぞ何の価値もないし、むしろ邪魔だ。


 手駒として使えそうなら取り込むのも有りだが、どうにも異分子感が強くて気が進まない。


 まあいい。手駒はあくまでサブヒロインで固める方針は変えずに行こう。


「じゃあ、俺の好みに合わせたくてそんな格好してたのか?」

「そ、そうよっ、悪い?」

「なあ彩葉いろは、そういう可愛いことを男に言うと、めちゃくちゃにしたくなるんだぜ?」

「そ、そっちが聞いたんじゃないっ! ふぇっ⁉ っていうか、めちゃくちゃにしちゃうの?」

「むしろそっちの方が好みなんだが」


「あうぅ……わ、分かった……でも、痛くしないで」


 誘導もしていないのに自分から抱いてくれと言ってくるとは。


「なあ彩葉いろは

「な、なぁに?」

「今夜、泊まってけよ」

「え?」

「今夜は帰したくねぇ。友達ん所に泊まるって親に連絡いれろ」

「う、うん。分かった……」


 彩葉いろはは俺の提案を受け入れた。いや、半ば命令だな。

 さっきから彩葉いろはの興奮がどんどん強くなっている。名前を呼び捨てにされている事にも抵抗がない。

 

 むしろ喜びすら感じているらしい。それはスキルを通して如実に伝えてくれた。


「これで、今夜は亮君のもの、だよ……♡」


 電話を切った彩葉いろはは、ハニカミながら両手を広げてみせる。

 そんな可愛いことされたら勃起しちまうぜ。俺は彩葉いろはを布団に押し倒し、容赦のなく唇を塞いだ。


「りょ、亮君、んんっ~~~」


 これで準備は整った。あとはスキル全開でトロトロになるまで幸福絶頂に染めてやるだけだが、せっかく思いを遂げることができたんだ。


 俺からの手向けとして、せめて処女喪失くらいは素のままさせてやるよ。

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