第8話◇彩葉の想い◇
【side
幼馴染みの男の子の家に足を踏み入れたのは、もう何年ぶりになるだろう。
雑多に散らかった部屋の中には、幼い頃の思い出がチラホラと面影を残している。
「悪いな
「う、うん」
亮二君とは家が近所の同級生で、小学生の頃はよく一緒に遊んだりした仲だった。
だけど彼のお父さんがいなくなっちゃって、お母さんもスナック勤めで家を空けるようになってから、彼は変わってしまった。
言葉遣いが乱暴になり、誰彼構わず喧嘩を売り歩くようになった。
あれだけ大好きだった格闘技も破門になってしまうくらい荒れに荒れてしまった。
でもなんだろう。今の彼からは、昔みたいな雰囲気を感じる。
乱暴な空気感がなくなって、笑顔が素敵な優しいお兄ちゃんみたいな、弟みたいな幼馴染みと同じ雰囲気を持っている。
小さい頃は甘えん坊の弟で、大きくなってきたら頼りがいのあるお兄ちゃんみたいな存在。それが彼だった。
見た目は厳ついままだけど、威圧的なヒゲも剃ってるし、声も角が取れてる。
「何年ぶりかな。こうやって話すのって……」
「どうだったかな。忘れちまったよ。でもよ、来てくれて嬉しいよ」
「亮二……」
「また昔みたいに話せるようになったらって思ってさ……。色々バカやっちまって……。今更
「バカ、そんなの気にしてないよ」
昔みたいに
「亮君って、また呼んで良い?」
「もちろん。俺も、
そうやって、昔話に花を咲かせていくうちに、彼は昔みたいに笑ってくれた。
私は嬉しくて舞い上がるように話を弾ませた。
笑う彼の顔に、昔の思いが蘇ってくる。
私は亮君が好きだった。昔は屈託のない笑顔で笑い、優しくて強くて、頼りになる男の子だった。
格闘技を習い、傷だらけになって帰ってきたのをいつも心配してたっけ。
同級生だけどお兄ちゃんみたいって思った。でも、それがいつしか恋に変わっていった感覚を、私は覚えている。
心地良くて温かい、心臓が熱くなる思いは、私の中に確かにある。
「
「亮君……えっ、あ……」
いつの間にか、彼が隣に座っていた。そして大きな体を横たえて、膝の上に頭を乗せてくる。
まさかこんな行動に出るとは思っていなかったけど、私は不思議と受け入れてしまった。
一瞬身の危険を感じたりはしたものの、彼は甘えるように身を預けてきた。
「亮君……」
「悪い……みっともないって分かってるんだけど、久しぶりに
金髪に染められたゴワゴワした髪に指を入れ、手櫛で整えるように掻いてみると、亮君の微かな息遣いが聞こえた。
「甘えん坊……」
「言わないでくれ……分かってるから」
「やだ、可愛い……」
照れ隠しをするように顔を背けた彼の姿は幼い頃に喧嘩に負けた時の彼そのものだった。
なんだか頭がぽわぽわして良い気分になってきちゃう。
私はそのまま彼の髪を撫で、いい気分に浸っていた。
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