第7話

 ビッグスライムを倒し、スライム平原を攻略した翌日。

 我が家のリビングで俺はニューイから称賛を受けていた。


「まずはおぬしの上げた功績を称えようではないか。

 ――よくぞあのビッグスライムを退けた!

 よくやったぞ龍太郎! 本当に見事だったのじゃ!」

「いや~、あはは。それほどでも……あるけどな?」


 ニューイから褒められ、俺は照れつつも胸を張った。


 決して謙遜したり、自身を下げたりはしない。


 成果を貶す事は評価してくれた人を貶す事にも繋がる。

 だから俺は己の成し遂げた事を過小評価したりしない。


「我ながらほんとよくやったと思うよ。うん。

 あいつを倒す為に必殺技まで作ったしさ」

「ふむ。必殺技――ペネトレイト・チャージじゃな」


 ニューイがうんうんと頷きつつ感想を口にする。


「わしもあの必殺技はかなりよく出来ておったと思う。


 もちろん技単体で見れば粗は至るところにあった。

 改善しようと思えば見るべき箇所は幾つもある。


 ――しかしあの技の特筆すべきは完成度ではなく、

 奴の体表を一撃で貫き、攻撃を通してみせた事じゃ。


 まさかビッグスライムの防御を貫通してしまうとは。

 あれはわしも予想できんかった。本当にあっぱれじゃ」

「そこまで褒められると流石に恥ずかしいんだが、

 ……うん。ありがとう。俺も頑張って考えてよかったよ」


 彼女に褒められると不思議と満たされた気分になる。

 幼少の頃、無条件に両親から褒められた時のように。


 これが神様って事なのか? だとしたら神様って凄いな。


 ニューイと目が合うと、何故か妙に気恥ずかしくなった。

 それを誤魔化すように俺はさっさと話題を変える事にした。


「それにしても必殺技を考えたのなんて子供の頃以来だ。

 あの時はとにかく攻撃を通す手段を考えるのに必死だったけど。

 ……やってみれば案外、なんとかなるものなんだな」

「そうじゃな。ま、学び舎をサボったのは頂けぬが」

「うぐぅ。お前、まだその話を擦ってくる気なのか……?」


 説教も終わった事だしこれ以上はないと思っていたのに。

 もしかして俺はこれから延々この話をされ続けるのか……?


「当然じゃろ? おぬしは放置すると繰り返しそうじゃからの。

 同じ事をせぬように定期的に言い聞かせてやらなければ」


 うげーっ。俺は心の内で舌を出して顔を顰めた。


 これから何度も同じ事を言われるとかマジかよ!?

 そんなの絶対に勘弁してほしいんですけど……!


 もう罰は受けたろ! 昨日だけで二人から怒られたんだぞ!?


「そ、そうだ! 宝箱! 宝箱の話をしないか!?

 俺、もう昨日からずっと中身が気になってたんだよ!」

「ふぅむ。……ま、今回はこれで勘弁してやるとしよう。

 それにわしとしてもあの宝箱に何が入っとるかは気になる。

 いいじゃろう。では宝箱の話に移るとしようかのう」

「ほっ。そ、それじゃあすぐに宝箱を持ってくるな!」


 安堵した俺は、彼女の気が変わらない内に一旦リビングを出た。


 ――宝箱というのは昨日手に入れたダンジョンの戦利品だ。


 ビッグスライムを討伐後、いつの間にか近くに現れていたのだ。

 ひょっこりと存在していたそれを、ニューイの指示で回収した。


 見た目はちょっと豪華な木箱といった感じ。重さはそれほどなく、一人でも難なく持ち運びができる程度には軽い。回収する時もほぼ苦労なく持ち帰れたくらいだ。


 俺は倉庫に置いていた宝箱を確認し、それを手にリビングへ戻った。


「で、これが昨日手に入れた宝箱なんだが。

 ……そもそもこの宝箱ってなんなんだ?」


 ゲームなら例え宝箱が出てきても気にはしないが。

 しかしゲームっぽくてもこれはあくまで現実。

 モンスターを倒したからと宝箱が出るのは不自然だ。


「そうじゃな。分かりやすく言えば強敵を倒した戦利品。

 神としてならば試練に対する報酬と言った感じかのう」


 俺の疑問に対するニューイの回答はこんな感じだった。


 分かりやすいような、分かりにくいような……?

 正直意味が分からないので何とも言えなかった。


 ただまあニューイが用意した物ではないらしい。

 ダンジョンが自動的に生成している物のようだ。


「さ、とにかく開けてみよ。中を検めねば話が進まんじゃろ」

「そう、だな。分かった。じゃ、じゃあ開けてみるぞ……?」


 ニューイに促され、俺は恐る恐る宝箱を開けてみた。


「こ、これは――!! 綺麗な青色の、玉……?」


 ――すると中に入っていたのは綺麗な青色の玉だった。


 まるで生きているように内部の色が変化し続ける球体。

 窓から差し込む光を取り込み、キラキラと輝いている。


 その中で、スライム型の影がゆらゆら揺らめいていた。


「ほう。これは凄い! 召喚宝珠ではないか」


 玉を見たニューイが感嘆の声を上げる。


「召喚宝珠……? それはいったいどういうものなんだ?」

「読んで字の如く、モンスターを召喚するアイテムじゃよ。

 召喚宝珠を使用すればモンスターを召喚し、仲間に出来るのじゃ。

 中の紋様を見るに、それはスライムの召喚宝珠のようじゃな」

「つまりこれを使えばスライムを仲間に出来るって事か!?」


 ニューイの言葉に、俺は目ん玉を見開いて驚いていた。


 ――まさか現実でモンスターを仲間に出来るのか!? と。


 確かに創作ではモンスターを仲間にする作品は山ほどある。

 下手すればそれだけで一ジャンルを築き上げられるほどに。


 しかしここはリアル。決してアニメや小説の中じゃない。


 普通モンスターと言えば人間の敵対者で、友好的な存在ではない。そもそも意思疎通が出来ないモンスターも多く、出会っても命の奪い合いになる事がほとんど。例え言葉を交わせたとしても、価値観が違う相手と仲良くするのは難しいだろう。


 そんな生物を仲間にするなんて、ファンタジー空想でしか有り得ないと思っていた。


 ――けれど。今ここにあるのはそれを可能にするアイテムだという。


「……いや。待てよ。仮にもモンスターを召喚するんだぞ?

 裏切りとかの心配はないのか? 雑に扱えば敵になるとか」


 創作物では鉄板、というほどではないが。稀によくある話だ。


 従魔を雑に扱った結果裏切られ、酷い殺され方をした……とか。


 まあそれは人間どうしの間でだってよくある事だからな。

 種族から違うモンスターともなれば、普通に起こり得る事だ。


「安心せよ。そう心配せずともよいのじゃ、龍太郎よ」


 しかし俺の猜疑心を否定するように、ニューイは笑う。


「召喚宝珠で召喚したモンスターは主に絶対服従じゃ。

 どんな時でも決して裏切らない、絶対の仲間。

 例えどんなに手酷く扱ってもおぬしの敵になる事はない」


 まあ感情はあるので手酷く扱うのはやめた方がよいが。

 信頼を積み重ねておる方が力を発揮してくれるのでな。


 そう付け足し、彼女は裏切りは絶対にないと断言した。


「……なるほど、そうなのか。いや、安心した」


 言ってて俺もないと思ったが、断言してくれてよかった。

 これで俺も安心してこの召喚宝珠を使う事ができる。


「にゅははは。おぬしは中々心配性な性格らしいのう」

「笑うなって。疑問は解消しておかないとだろ?」

「それにしてもじゃ。即座に裏切りが頭に浮かぶとは」


 まあ、自分でも一々心配しすぎだとは思っている。

 でも仕方ないじゃないか。頭に浮かんだんだから。


 話を続けたくなかったので、俺は軌道を修正した。


「それで? この召喚宝珠はどうやって使えばいいんだ?」

「使い方は簡単じゃ。上に掲げ、召喚と唱えるだけでいい」

「随分簡単に使えるんだな……? まあ、いい。分かった」


 疑問に思いつつも俺は宝珠を掲げた。

 そして言われたキーワードを唱える。


「――召喚!」


 すると、宝珠が砕けて目の前に魔法陣が現れた。

 コバルトブルーに輝くスライム型の魔法陣。


 ――そして直後。魔法陣から何かが飛び出した。


「すらら~! すら、すら、すら~!」


 青色のまんじゅうみたいな身体。

 ぴょこぴょこ跳ねる仕草。


 ――飛び出してきたのはスライムだった。


 完全無欠の可愛らしいスライムだ。


「おぉ……!! 凄い、本当に出た!」


 魔法陣から現れたスライムを見て、歓声を上げる。


 疑ってはいなかったが、やっぱり実際に見ると違う。

 ダンジョンのスライムと違って攻撃もしてこない!


 凄いな! 本当にスライムを召喚できたんだな……!!


「すら~? すら、すらすら。すらら~」

「お、うむ。触り心地もすごくいいな。

 ぷにぷにでもちもちでとても気持ちいい」


 足元に擦り寄ってきたスライムを撫でた。

 撫でた手から幸せな感触が伝わってくる。


 ……うむ。味方になったスライムが可愛すぎる。

 これはスライム愛で隊を設立するべきか……?


「おめでとう、龍太郎。これで絶対裏切らぬ仲間が出来たな。

 そのスライムはダンジョンに連れていく事も可能じゃ。

 お供として引き連れ、ダンジョン攻略に役立てるといい」

「ああ! こいつがいればきっと攻略は捗るだろうな……!」


 特に貴重な癒し枠として絶大な活躍をしてくれそうだ……!

 これは早速、ダンジョンに行って実力を確かめなければ!!

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