現代社会で俺だけがダンジョンに潜れた場合

レイン=オール

第一章

1部 スライム平原

第1話

「あー、退屈だ。めっちゃ退屈だ」


 俺こと古賀龍太郎は、そんな事を呟きつつ散歩していた。


 時間帯はお昼を幾らか過ぎた昼下がり。眠気も強まる頃。

 今日は休日なのに、見渡す限り辺りには人っ子一人いない。

 周りに見えるのは穏やかな流れの川と沢山の田んぼ。

 土手を散歩なんてしているのは、この俺ただ一人だけだ。


 ――それもそのはず。なにせ俺が暮らすアマギ村は生粋の田舎。


 住人は僅か100人程度。そのほとんどが爺さん婆さんで、俺みたいな未成年なんて両手の指で足りるほどの数しかいない。川の近くには子供達が遊べるような娯楽もない事から、この辺りで他の人を見掛ける事なんて滅多にある事じゃない。


 良い村なんだが、人が少なすぎるのは数少ないアマギ村の欠点だ。


「爺さん婆さんは当然今日も畑仕事だし、

 ギャル子たちは隣町に遊びに行っちまった。

 こんな田舎じゃ他に遊べる奴はいねえし」


 ギャル子たちが見に行ったのは確かアイドルだったか?

 今ムーチューブで話題沸騰中だとかなんとか言ってた。


 男のアイドルグループだったらしいが……ギャル子が必死に好きな訳じゃないと弁明してきたアレはなんだったんだ? 見たきゃ見たいで別にいいと思うんだが。


 こんなに暇になるなら、いっそ俺も付いていけばよかったかもな。


「……はぁ。退屈過ぎて死んじまいそうだ」


 こう、いっそ何か面白い事でも起きてくんねえかな。


 例えば宇宙人の軍勢が空からやってくるとか。

 あるいは異世界からドラゴンが現れるとか?

 魔法とか超能力が使えるようになるのも面白いよな。


「あん? ありゃあ……何だ?」


 そんな風に空想に想いを馳せていた時の事だった。

 歩いている土手の先に“何か”があるのを見つけた。


「なんだあれ。誰かがなんか置いたのか?」


 土手の真ん中にぽつんと存在している、こんもりした物体。

 少なくとも数日前ここを歩いた時にはあんなもの無かった。

 あんな風に道を塞ぐように存在するこんもりとした何かは。


 だからあるとすれば、村の誰かが置いた可能性だが――。


「……いや、ねえな。村の誰かの仕業とは思えねえ」


 量は少ないとはいえ、一応ここは車が通る事もある道だ。

 それを知ってる村の住人がこんな事をするとは思えない。

 村の外から来た誰かが置いた可能性の方が高いくらいだ。


「よし。もうちょい近付いてみるか。遠くからじゃよく見えんし」


 アレが具体的になんなのか分かればもうちょいマシな考えも出るだろう。

 もしかしたら村の誰かが置き忘れた荷物とかの可能性だってまだあるし。


 そう判断した俺は、もうちょっと“何か”に近付く事にした。


 ――しかし。近付けば近付くほど、徐々に俺の顔は強張っていった。


「いやいや。まさかそんな。そんな事ある訳……」


 気のせいだとは思う。本当に気のせいだとは思うが。

 段々と転がっている“何か”が人の形をしてるように見えてきた。


 いやいやいや。流石に気のせい――


「――じゃねえ! マジで人じゃねえか!?」


 十分近付いた頃、ようやくハッキリその姿を捉える事が出来た。

 事実に気付いた俺は、驚きのあまりに叫んでいた。


「あれは、どう見ても倒れた女の子だ!」


 村で見掛けた覚えのない銀色の髪。

 外の人間だろう女の子が倒れていた。


「おい、大丈夫かお前!? 何があった!?」


 俺は急いで女の子の下へ駆け寄った。

 軽く揺すぶって問い掛ける。が、反応はない。


「ちっ、どうする? こういう時はどうすればいい!?」


 頭の中で今自分が何をどうするべきなのか素早く思考する。


 ひとまず松浦のじっちゃんの診療所に運び込むべきか? こんな田舎には救急車なんて贅沢なもんはねえしな。いやでも、こっからだと診療所まで距離があるか。運んでる間にこいつの具合が悪くなりでもしたらマズいよな……!?


 考えて考えて考えるが――中々これだと思える答えが見つからない。

 そして考えている間にも、刻一刻と時間は無情に通り過ぎていく。


「ああクソッ、こんな事ならスマホ持ってくるんだった!」


 電話が出来ればじっちゃんに迎えに来てもらう事も出来たのに……!


「確かに何か起きてほしいと思っていたけどな、

 こんな事、俺は微塵も望んじゃいねえぞ……!?」


 とにかく、一旦こいつを俺の家に連れて帰るしかない。

 そうすれば電話で迎えに来てもらう事も出来るし、なによりこいつをこんな場所で寝かせずに済む。こんな場所に倒れてたんじゃ具合だってよくなる訳がない。


 そう考えて、俺が女の子を背負って帰ろうとした――その時だった。


 ぐぅ~~~~~~~~っ!!!


「…………は?」


 響き渡るやたら豪快な音。

 すぐ近くから聞こえたそれに、俺は目を丸くした。


「今のは……もしかしてこいつから聞こえたのか?」


 そろ~っと。俺はたった今背負おうとしていた女の子を見る。


 華奢で幼い容姿からは、とても今の音の主だとは思えない。

 思えないが、音の発生源から考えると彼女以外には有り得ない。


「うぐぐぐぐぐぅ…………っ」


 混乱していると、彼女の口元から微かに呻き声が聞こえてきた。

 頭に残る疑念はひとまず置き、俺は慌てて彼女の身体を支えた。


「あ、おい! 大丈夫か、意識はハッキリしてるか!?」

「はらが…………」

「腹がどうした? 痛いのか!?」

「…………はらが、減ったのじゃ。何か、食べ物を……なのじゃ」

「…………はぁ? 腹が、減った?」


 その言葉が聞こえた瞬間、時が止まったような錯覚に陥った。

 ひゅ~、と。風の音のような幻聴まで聞こえてきた。


 …………えー、っと。つまり、どういう事だ?


 もしかして彼女は……腹が減ったから倒れていたのか?

 だからあんな豪快な音を立てて空腹を主張していたと?


 それって――


「は、ははははははは!!! なんだそれ、マジか!?」


 ――それって、なんて面白いんだ!


 だって考えてもみろよ!? こんな真っ昼間の土手で倒れててヤバいと思っていた女の子が、腹の音で空腹を主張しだしたんだぜ!? それもかなり豪快な音で!

 これが笑わずにいられるか! 笑わない奴はきっと感性がイカれてる!


 ぐぅ~~~~~~~~~っ!!!


「あっはははははははははははははは!!!!!」


 まるで抗議するように再び鳴らされた腹の音に、俺は爆笑した。

 どうにか笑いが収まったのはそれから数分経った後の事だった。


「いや、でもよかった。何事もなくて安心したよ」


 人が倒れてると気付いた時はマジでビビったからな。

 けどだいぶ元気そうでよかったよ。本当に。


「待ってろ、すぐウチで飯食わせてやるからな」


 ぐぅ~~~~~~っ!


「はははっ。それやめろって。マジで笑っちまうから」


 よいしょ、と。倒れていた女の子を背負う。


 彼女は信じられないくらいに軽かった。

 本当に背負っているか疑問に思ってしまうほど。


「話せるようになったらお前の事を聞かせてくれよ」


 ぐぅ~~~~~~っ!!


「あっははははははははっ!!!」


 家までの道中。俺の笑いが収まる事はなかった。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


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