忌み者の下剋上
ミネギシ
第1話 忌み者
酷く冷える真冬の夜
王国から離れた場所にある小さな村では、
一つの家を松明の明かりが囲んでいた。
「そんな.......どうして........」
「いや.......きっと何かの間違いだ!そうに違いない!」
二人の男女の声が交錯する。
「これは......なんということじゃ..........」
老婆が震えた声で呟く。
「忌み子.....祟りじゃ.....ああ....祟りが起きる.......!」
「ああ神よ......どうかお許しください......」
「ひぃっ!.....そんなもの......山にでも捨てちまいな!」
続けて数々の人々が悲鳴を上げる。
大勢の人だかりに囲まれた場所には、震える老婆と、二人の男女、
そして赤い眼をした赤子が母と思われる女性の手に抱かれていた。
~15年後~
「おめえなんかどっか行っちまえ!!」
「村にいるだけできみわりいだ」
「お前のせいで母ちゃんの病気が治らねえじゃねえか!」
数々の言葉の暴力と数多の石が檻越しに投げ入れられ、中の少年の体に傷をつける。
たった今付けられた傷がどれかも分からぬほど、少年の体は荒れていた。
毎日のように通りかかる人々は皆、少年に軽蔑の目を向け、ストレスの捌け口に
している。
忌み子と呼ばれたあの日から、まだ赤子だった少年は檻に入れられ、誰の愛情も注がれず、ただ人々の恨みばかりを背負い育ってきた。
その恨みは両親だろうと例外ではなく、[忌み子を産んだ親]として人々から除け者にされてしまった二人さえも全てを子供のせいにした。
「あんたを産んだせいで.......」「お前なんか死んでしまえ!」
「今までの努力が全部台無しだ!!」
心無い言葉の数々に、少年の心は閉ざされていった。
決まった時間に与えられる最低限の食事を食べながら、少年は毎日のように思う。
――――――――――――――――――――どうして生かされているのだろう。
これだけの仕打ちをし、なぜまだ生かすのか。生かされる意味は果たしてあるのか。
いっそのこと、死んでしまってもいいのではないか。
だがその思いは、いつも胸に秘めたまま終わる。
死のうと思っても、ほんの少しの希望や期待、死への恐怖、生への執着により、
投げつけられた石を喉元に運ぶだけで失敗に終わる。
行き場のなくなった恨みは、いつしか世界へと向けられていった。
ある暗い夜、大勢の足音と暗闇を照らす炎に少年は目を覚ました。
たくさんの人が松明や道具を持って、檻のほうに向かってくる。
(なんだ?.....まさか出られるのか......?)
多大な恐怖とともに、僅かな期待を胸に秘めた少年の希望は、すぐさま打ち砕かれることとなった。
無理やり檻から引っ張り出され、数人に担がれた。
「なんだ....よ!....離....せ.....!....」
抵抗したがそれも虚しく、子供の力で大人数人に敵うはずもなかった。
そのまま駕籠のようなものに押し込まれ、外の光が遮断された。
そして長いこと運ばれ、ようやく月光と松明の炎が見えたと思えば、
そこには高く積み上げられた薪と縄が巻き付けられている大きな樹があった。
少年の本能が瞬時に感じ取る。
(燃やされるっ....!!)
数人に担ぎ出され、意味のない抵抗をしながら周囲を見渡す。
大人たちは何やら奇妙な言葉を唱えながら、手を合わせている。
当然だがそこに助けようとしてくれる者はおらず、憐みの目もなかった。
あるのは蔑みと安堵の表情を浮かべる者のみ。
少年は世界への恨み一層強く感じ、なぜ今更と行き場の無い怒りを燃やしながら、
今もなお生きたいと感じる体に従い必死に抵抗した。
そのおかげか、暗闇のせいかは分からない。だが担いでいた男の一人が躓き、体勢を崩して倒れた。
その瞬間、少年は今までにないほどの使命感に駆られ、暗い森の中へ全力で走った。
「逃げたぞ!!!」
「追え!!」
「捕まえろ!!」
後方から多くの声がして、森中に響く。
だがそんなことは気にしていられない。
行く先も分らぬまま、ただ一心不乱に走った。
もしかしたら、助かるかもしれない。
あいつらから逃げれるかもしれない。
そんな淡い期待を込めて森を駆ける。
足裏は裸足のせいか血まみれになり、手は寒さでかじかんでいる。
今までに付けられた傷が、真冬の夜の寒風に沁みる。
もはや全身の感覚などないが、
あんな場所から抜け出せる可能性があるという事実が少年の体の原動力となった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――どれほど走っただろうか。
もうあいつらの声は聞こえない。ここがどこかもわからない。
「はぁっ......はあ......はっ..........」
暗い森の静寂に、ただ一人の少年の声が静かに響く。
朦朧とする意識の中で、少年はとある景色を思い出す。
それは、自分が生まれた時のものだった。
「似てる......あの時と........」
赤子の頃のことなど覚えてるはずもない。だが、あの夜の出来事を少年は走馬灯の
ように思い出していた。
懐かしく、そして最悪な記憶を辿りながら、少年は大木にもたれかかる。
(ああ、結局最後まで最悪だった。あいつらも。世界も。)
途切れかけた意識の中で、前方に人影が見えた。
もう追いつかれたか、それとも幻覚か。
少年にとってもうそんなことはどうでもよかった。
倒れる寸前、少年の赤い眼には、
赤い髪をした少女が映っていた―――――――――――――――
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