"障害物レース"



スポーツフィールドには強い日差しが降り注ぎ、チームのカラフルなテントと、さまざまな活動の準備をする学生たちの熱気が溢れていた。その中で、カナデは目立っていた。彼女のエネルギーだけでなく、スポーツユニフォームが彼女の自然な優雅さを際立たせていたからだ。


ユウはヒカリと一緒にスタンドに座り、カナデに向けられる他の学生たちの好奇心のこもった視線を無視しようとした。ロッカールームから出てきたカナデを見た瞬間から、彼の頭の中に彼女の姿が焼き付いて離れなかった。あまりにも眩しかったのだ。


ヒカリ: 「ユウ、見て!カナデ、準備万端だね!絶対にみんなを圧倒するよ!」


ユウ: 「それが心配なんだ…」—ユウはヒカリに聞こえないように小さな声で呟いた。カナデは人間の限界をよく理解していないことを知っていた。少しでも油断すると、彼女を危険にさらすことになるかもしれない。


レース開始


スタートラインで、カナデは他の競技者たちを興味深そうに見つめていた。何人かはストレッチをして、他の者はその場でジャンプして体をほぐしていた。カナデもその動きに合わせて見よう見まねで体を動かしたが、少しぎこちなさを感じさせる動きに、観客からは笑い声が漏れた。


カナデ: 「準備はいいわよ!」—笑顔で答えるカナデ。


ホイッスルが鳴り、競技者たちは一斉に走り出した。最初は他の競技者たちと同じペースで走りながら、自分の動きを調整しすぎないように気をつけていた。しかし、最初の障害物、登らなければならない壁に差し掛かると、カナデの戦士としての本能が目を覚ました。


優雅で流れるようなジャンプで、壁を軽々と乗り越え、向こう側に着地すると、観客たちはその美しい動きに驚愕した。


ヒカリ: 「すごい!カナデ、素晴らしい!」—スタンドから歓声と拍手。


ユウ: 「そんなにすごくないだろう!あまりにもすごすぎるよ!」—ユウは緊張と焦りで反応する。


その間にカナデは順調に障害物を乗り越えていく。まるで遊び感覚でトンネルを滑り抜け、池を飛び越え、バーを避ける様子は、まるで長年の訓練を積んできたかのようだった。ほかの競技者たちは彼女のペースに追いつくことすらできなかった。


次に、登らなければならないロープの前で、カナデは無意識にその力を過剰に使ってしまい、ロープを引っ張りすぎて、見事に切れて空に飛ばしてしまった。観客は一瞬の沈黙の後、大きな拍手を送り、彼女がショーの一部だと思い込んだ。


観客の声: 「あれはトリックだ!」—歓声が上がる。


ユウは顔を手で覆い、すぐにこの状況をどうにかしようと考えた。


ユウ: 「そう、トリックだ!」—スタンドから叫びながら、立ち上がり手を上げる。—「カナデはマジックの大ファンなんだ。イベントの一部さ。カナデ、そうだろ?」


カナデは着地した後、ユウを見つめながら首をかしげ、彼の必死な視線を感じ取ると、にっこりと笑って頷いた。


カナデ: 「はい!みんなをもっと楽しませたかっただけなの。」


観客は拍手と歓声で盛り上がり、何人かは「もっとトリックを!」と要求し始めた。ヒカリはユウを見て、感心しながら楽しそうに言った。


ヒカリ: 「マジックのトリックね。ユウ、君は安っぽい小説の作家みたいだな。」


ユウ: 「うるさい…」—ユウは心の中で安堵の息をついた。


予期せぬ勝利


カナデがゴールラインを越えると、スタジアム全体が拍手に包まれた。クラスメートたちが駆け寄って祝福し、他の学生たちは彼女の「能力」に驚嘆し、囁き合っていた。


カナデはその熱狂にまだ戸惑いながらも、ユウに近づいた。


カナデ: 「何か間違えたかな?」—小さな声で尋ねるカナデ。


ユウ: 「間違ってないけど、確実にやりすぎだよ。」—ユウは慌てないように答える。—「次は、もう少し控えめにお願いね。」


カナデは頷きながらも、何が悪かったのかは完全には理解していなかった。


ヒカリ: 「カナデ!すごかったよ!まるでアニメのヒロインみたいだった!」


カナデ: 「アニメ?」—カナデは不思議そうに繰り返した。


ユウ: 「後で説明するよ…」—ユウは額に手を当てながら答えた。



---


カナデが仲間たちからの歓声と祝福を受けている間、ユウは人混みから少し離れ、リラックスしようとしていた。状況をうまくコントロールできたという安心感が薄れ始めると、視線は競技場を越えて、遠くの地平線に向けられた。


遠く、スタジアムの入り口近くで、ひとりの女性が立っているのが見えた。彼女は黒く長い髪を持ち、風に揺れる軽いジャケットを着ていた。ユウがその女性に気づいた一番の理由は、彼女が背負っているものだった。それは、一本の刀だった。


その女性は周囲の人々を気にしている様子はなく、むしろ、カナデに完全に視線を固定していた。ユウがさらにじっと見ていると、その女性は頭を上げ、ユウと目が合った。その目は、説明できないほどの強い輝きを放ち、好奇心と何か別の感情が入り混じっているようだった。


背筋に冷たいものを感じたユウは、すぐに視線をそらした。再びその女性を見たとき、彼女はすでに人混みの中に消えており、まるで最初からそこにいなかったかのようだった。


—「ユウ?」ヒカリの声がユウを現実に引き戻した。ユウは彼女を見て、カナデがいつもの無邪気な笑顔を浮かべながら近づいてくるのを見た。


—「大丈夫? なんだか少しぼーっとしてるみたい」カナデは心配そうに言った。


—「うん、ただ…」ユウは咳払いをして、胸に広がる不安な感覚を振り払おうとした。カナデやヒカリを心配させたくはなかったが、その女性には何かしら不安を感じた。


—「どうしたの?」ヒカリがさらに問い詰めた。


ユウは一瞬躊躇ったが、結局何も言わなかった。心の中でその感覚を整理することにした。


—「何でもない…ただ少し疲れただけさ」ユウは無理に笑顔を作って答えた。


カナデは少し困惑した様子でユウを見つめたが、ユウがこれ以上話したくない様子を見て、肩をすくめた。


—「じゃあ、勝利を祝おうか?」


—「もちろん!」ヒカリは何も疑わずに答えた。


しかしユウは再び、その女性がいた場所を見つめながら、胸の中で不安を感じていた。その姿が普通の人間ではないと感じさせる何かがあった。彼女の存在は計算されたようで、精密すぎるように思えた。そして、ユウはその女性が何らかの形でカナデと関係があるのではないかと、何か直感的に感じ取っていたが、なぜそう思うのかは分からなかった。


不安な気持ちを抱えたまま、ユウはカナデが勝利の話を嬉しそうにしているのを見ながら、心の中で自問していた。あの女性は一体誰だったのだろうか?


刀を持った若い女性…彼女はカナデに何を望んでいるのだろうか?



---


―章の終わり。


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「ルームメイトは2Dの女の子」 Rexxs A. @Rexxs_A_1

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